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手紙4_宮田から本藤へ

前回
https://note.com/zushi_art_film/n/n57b79007effd?fbclid=IwAR30aT5mXR0V1B_AqIDatG5sO9BfaUXPcdTIJgHdh_7JrIZ9IEyDNPV8hl0

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本藤さん

私生活の方で色々とおありだったようですね…。そして、30歳おめでとうございます。なってみると意外と楽なもんでしょう?僕は30代差し掛かったとて良くも悪くも心境に変化はなかったように思います。

さて、今回は積もる話が色々ありそうなので早速本題に入ってしまいます。まずは、課題のご解答ありがとうございます。

“自分は自分なのか?だとしたらそれは何を持って証明され、維持されるのか?”

本藤さんは、自分が自分である証明の手段として、これまで創作や表現をされてきたのだと想像します。

僕自身は、子供の頃に人知れずノートに空想を書き綴った小学生時代のことは昨年の往復書簡で投稿した通りなのですが、中学以降徐々にこういった表現からは疎遠になり、いつの日からか「創作・表現なんて自分には向いていない」などと思うようになっていました。楽器も演奏するのは好きでしたが、楽曲を作るなんて自分には以ての外だと思うまでに…。

大人に近づくにつれて周囲の目を気にすると言う機転を会得してしまい、「自分自身の証明」よりも他人の証明に意識が傾いていました。
年齢を重ねて物事への見識が深まるに連れ、知らず知らずのうちに自己証明よりも他己証明に重きを置いてしまいがちです。

ところが、二十歳を過ぎて表現に回帰したきっかけは、学生時代にSNSを介して知り合った友人の多くが絵を描いていたことです。
TwitterやPixivなどインターネット上に、皆各々の趣味嗜好・欲望を爆発させたかのようなイラストを投稿、あるいは同人誌を出していたりと、作品制作を通してコミュニケーションを取っていました。

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(↑コミックマーケットなど同人イベントで時々顔も合わせてみたりも)

彼等にとって作品制作は自己表現、ひいてはコミュニケーションの一貫であり、「自分が自分であるための証明」でもありました。何しろ、表向きには口外できない嗜好でもネット上では本名でないハンドルネームの下で、作品として爆発させることができるのですから。営利目的ではないから尚の事です。紛れもなく自己証明だと思いました。また、僕自身もかつてはそれを文章でやっていたのに、いつの日からか止めてしまっていたことに気がつきました。

一番の理由は高校受験で忙しかったからですが、その拘束もとうに無くなった今、もう一度本当の自分自身を取り戻さなければという衝動に駆られ、不意に思い立ったかのようにピアノやギターに向かって模索しながら表現を試みたものです。

自分よりも若い人達が表現行為に勤しんでいるのを見て、純粋に表現していた頃の自分を取り戻したくなったのだと思います。「純粋な自分」を取り戻すために。

本藤さんも、「最も純粋な自分」を証明する為に手を動かして表現に勤しんでいた節があったのでしょう。

前回紹介してくださったこちらの画像。

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作るという行為が素晴らしいものだと改めて実感させてくれます。視野が狭まり、頭が固まれば固まるほど純粋さは損なわれます。知的好奇心・探究心と純粋は表裏一体ですから。

僕と本藤さんは、純真でいる為に表現行為に取り組んでいるという共通点があるようです。表現している人は全般的にそうかもしれないですね。

とはいえ、僕らもメランコリック三十路という大台に乗り、いつまでもピュアなままで居られる筈はありません。というか、そんな三十路が居たらただのアホですよね(笑)。
人は誰しもピュアな時期があったと思いますが、大抵は年齢を重ねるにつれて純度が薄れていくものです。裏を返せばそれが成長ですが、不意に純粋だった自分を思い出して懐かしんだり、あの頃を取り戻してみたくなったりもする。

こうした現象は誰にでも少なからず起こり得るものでしょう。だから、映画「スタンドバイミー」が多くの観客の心を掴むのだと思います。

往復書簡画像

純粋なものが純粋でなくなる過程に関心があるというか、穢れを知って純度が薄れていく過程そのものを作品に表してみたいと思ったりもします。

少し話は逸れますが、上記に関連してあることを思い出したので…。
10年ほど前に食事の席で一度だけお会いした方についてです。

その人は僕と同世代で、当時20代前半だったのですが、「選挙には行きたくない」と言っていました。
政治に興味の無い人なのか、と思いましたが話を聞いているとそうではありませんでした。

「投票に行ける年齢になったことを受け入れたくないから投票には行かない」と言うのです。
そして、「普段から少年っぽく見える服を着るようにしている」とも話していました。

可笑しくもあり、しかし非常に興味深い見解でした。その人は、年齢を重ねることはおろか、人としての成長さえ拒絶していました。
多くの人間は、仕事や勉学を通して見識を深め成長したいと望むものですが、この人はその欲求を捨ててしまったのか、持ったことがないのか。

その人が今どこで何をされているのかは分かりません。しかし、世の中にはこの方のように、自分なりの手法で頑なに穢れなき自己を死守しようとしている人間もいるのです。愚直なまでの純粋さに敬意さえ表したくなります。

しかし、僕も本藤さんも、本質的にはこの方と同じ種族かもしれません。

僕は投票にも行きますし、男児服を着ているわけでもないですし、成長願望も持っているつもりです。
しかし、純粋な(or純粋だった頃の)自分を表現するためにわざわざCDを作り、逗子アートフェスティバルで活動してきたのは事実です。

本藤さんも、このような潜在的な欲求により表現行為に駆り立てられていませんでしたか?
飲み会であったあの人は、日頃の服装や立ち振る舞いでその欲求を体現し、僕らは作品を通して体現する、その違いでしかないのではないか…。

僕としては、今年のZAFでやりたいことのコンセプトが少しずつ見えてきた気がしています(具体的にどのような形態で表現するかまではまだ決めかねていますが、やはりパフォーマンスか上映か…)。

そこで、今回の課題「うた」についてです。

私も宮田さんも音楽を作る時に〈うた〉を用いませんよね。

本藤さんの言う通り、確かにこれまでの音楽活動で歌だけは頑なに歌って来ませんでした。

その理由は、表向きには「言葉に出来ない感情を表現したいから」ですが(勿論これも事実です)、単に歌が苦手なんですね(笑)。
ソルフェージュは習ってきたので音程が取れないわけではないのですが、人前で歌うのが得意ではないのです。
こんな調子ですから学生時代の音楽の成績は振るいませんでした。

最も、最近はボイトレにも興味があるので、作品にするかどうかは別として、カラオケで胸を張れる程度に歌えるようになりたいとは思っていますが。

僕にとって歌がどのような存在かと問うならば、「最も敬遠してきた表現方法」と言う他ありません(笑)。

しかし、言葉を書くのは昔から好きでしたし、作詞経験はないですがその気になれば詞を綴ることも出来なくはないと思います。
また、スキルはともかくとして歌うことも…(得意な方に歌ってもらう方が良い気もしますが)。

歌を扱うとなれば歌詞(言葉)が必要となるでしょう。今年のZAFで何か言葉を綴るとすれば、ノートに空想事を殴り書きしていた「純粋な頃の自分」を想起しつつ筆を進めてみたいものです。

余談ですが、僕が最近よく聴いている歌手は、原田知世、中谷美紀、カヒミカリィあたりでしょうか。

その人にしか出せない雰囲気を醸している歌手が好きですね。コロナ流行以来、カラオケには全く行けていないので最後に歌った歌は定かではないです…。

というか、意外と逗子アートフェスのメンバーで、創作以外にカフェでふらっと集まって談笑したり、カラオケ行ったりみたいなことってしないですよね(僕が参加していないだけ…?)。

コロナがおさまって気が向いたらちょっと話し込みたいものですね。

それではまた。

2021.07.01 宮田涼介

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本藤太郎/Taro Motofuji a.k.a Yes.I feel sad.

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逗子生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒。カメラマンとして撮影現場を奔走する傍ら2016年より美術活動を開始。写真作品を中心に舞台やインスタレーション、楽曲や映像等を制作し国内外のアートフェアや地域アート等で発表している。 ZAFには2013年の「逗子メディアアートフェスティバル」の頃から雑用として関わっており、2017年には作家として参加。基本寝不足。
https://www.yesifeelsad.com/
https://www.instagram.com/taromotofuji/?hl=ja

宮田涼介

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神奈川県在住の音楽家。ピアノ楽曲や電子音響作品を中心に、国内外でアルバムを発売。
2021年5月に新アルバム「slow waves」を配信リリース。
また、カフェやWebコンテンツでのBGM制作、シンガーへの楽曲提供・編曲を行う。
http://ryosuke-miyata.com/
https://www.facebook.com/ryosuke.miyata.music/


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