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模擬宇宙:黄金と機械 解明編


前回の考察↓
・トローラ・ファエンサは冷酷非道成り上がり
・皇帝ルパートはアッハの造物であり哀れな慈父
・鉄の玉座の古の富の王は最大の謎で必ず重要だ

ストーリー更新や他考察、読書を経て更に深く読めそうなので!



古の守護者の起源

「古の富の王」とその守護者と玉座、それは『宇宙の玉座・1』と『皇帝ルパート・1』に登場する。技術部のド・ウェインは守護者にあしらわれ、開拓者(主人公)は何も知らぬまま謎の光景を見せられる。

【頭の中の「憂鬱」が目を閉じた女性の姿に擬人化され、あなたは彼女を見た。あなたは彼女がとても「 古い」ことを知っている。彼女が死んでいた時間は、無機生命体が存在する時間よりもずっと長いかもしれない。彼女は鉄の玉座の上に横たわっており、その周りには様々なものが散らばっている。数えきれないほどの富、権力を象徴する文字、時間を保管する砂時計…そして、骨と皮だけになった狂犬が地面に伏せて主人を待っている。…】
【あなたは知っている。その果てしなく続く眠りの後に、多くの物語が生まれたことを。すべては鉄の玉座を中心に始まった…】

この部分はまるで謎だらけだったが今は少しだけ解読できる。

「権力を象徴する文字」は「秩序」を表す。秩序は世界を形作り王を選出し支配下に置くことは以前からの推測にある。
「時間を保管する砂時計」は「記憶」だろう。
「骨と皮だけになった狂犬」は「貪慾」と見れる。狂犬が何にでも噛みつくように古獣は何でも食べる。この表記通りなら消えた貪慾の古獣たちは死んでいる事になる。「主人」が何を表すかは謎だが…
「数えきれないほどの富」は「神秘」を表す。これについては後述する。
そして「憂鬱が擬人化した女性」は恐らく「存護」である。ド・ウェインを退けた「守護者」と同一かもしれないと考えると守護者と存護の意は一致する。

半分しか読めないというのは、この空間が何なのか?これらを各々運命を連想させるものだとして選ばれてる基準が分からない、という謎が残る。「古い」者達が表れているなら「不朽」や「均衡」が抜けている。そして玉座とは何なのか?

「憂鬱」がなぜ存護なのかは深く考えてみると繋がる所がある。「存護」のクリフォトが壁を作っている理由だ。
クリフォトは未然の災害を予期して壁を作り続ける星神だが、その災害が何なのかは不明である。スターピースカンパニー(後方支援隊)はこれに則って壁作りを全宇宙に呼び掛け、壁の資材とあらゆる物を交換する。ここで発足したのが信用ポイント体系である。そしてカンパニーは全宇宙の物の価値を決める権限を持った。その話は「書籍:ヘルタの手稿」にある。

カンパニーの大元は謂わば「クリフォトの壁保険」である。信用ポイントはクリフォトへの信用と言える。ポイントを多く持つ者は壁作りにそれ程の貢献をした(高価値な物を献上、それによって更なる壁資材をカンパニーが入手)事になる。

しかしクリフォトが何のために壁を作っているかはカンパニーですら知らない。確かに宇宙には多くの災害が存在するが、クリフォトも明確な目的は無いのではないか?
「存護」の運命とクリフォトは「黄昏戦争」の時に生まれたという話がある。それは模擬宇宙の「図鑑:星神」や存護軌跡素材の説明文に見られる。
黄昏戦争は恐らく古獣が暴れまわった戦争で、クリフォトの前身はその被害を多大に被ったのだろう。その経験が「存護」の運命の星神に昇格させたと言える。

「貪慾」の古獣が消えた今、クリフォトは何のために壁を作っているのだろうか?動物は習性で食物を貯めることがある。しかしそれは厳しい冬という必然のためである。
もしクリフォトが何の保証も無く壁を作っているのなら、クリフォトを動かしているのは災害に遭った経験からなるPTSDのような衝動だけだ。それは「憂鬱」、melancholyと表現しても何ら違いはない。

そもそもド・ウェインでの「守護者」と別人の可能性、クリフォトは別に死んでないし女性かも分からないという所はある。ただ「存護」の壁は前時代の「宇宙の蝗害」と今回の戦争においても大して役に立っていない(ビッグフットの壁も突破された)、意味の無いものである。ハンマーの方が役に立つ。
では何故クリフォトは「琥珀の王」と称えられ、「富」のカンパニーの象徴になっているのか?本当に恐ろしい真相はそこにある。


ガラクタ計算機と唯一の答え

「知恵」のヌースが計算した「時」は五つ。
・第1の時、辺境星系貿易戦争の勃発
・第2の時、反有機戦争の勃発
・第3の時、皇帝ルパートの死
・アンダトゥール・ザザロの死
・ヘルタ達の死

全て人々の死が絡む内容である。このことからヌースにとっても「死」は絶対的で不可逆の法則であると言える。「巡狩」もそれを生きる苦の救済とし、死神のように振る舞う。

そして開拓者は、『皇帝ルパート・2』でヌースに一瞥を向けられた時、意図せずにもそれを問う事になる。

【──なぜ世界は終末を迎えるのか? なぜ宇宙では戦争が起こるのか? 頭の中は戸惑いでいっぱいだ。なぜすべての生命は死に向かうのか? 自分も死ぬのか?…逃れられる人はいるのだろうか?】

それに対するヌースの答えがこれになる。

【「アキヴィリ」】

これは以前のグノーシス考察の「物語だけが死を越えられる」という点と一致する。アキヴィリ、及び「開拓」は物語の継承こそが運命の根本にある。

【「開拓」はかつて至れなかった道を行きさらに遠くへ向かうこと】(ピノコニー編)

もしくはその運命の特性からアキヴィリは物理的に不死なのかもしれない。いなくなってるが…

「死」への問いがヌースの答えた問題かは断定はできない。直接ヌースに質問した訳では無いし、もしかしたら他の潜在的な所への答えかもしれない(自分は以前はそう考えていた)。ヌースが何を基に行動しているかは謎である。

また、ヌースの計算する「時」がどういったものかも謎である。『受難する慈父・1』ではこうある。

【1人の学者が震えながら涙を流し、首を振って、これはヌースの計算における「時」ではないと繰り返し呟いている。…】
【「被造物は創造主となり、創造主は被造物となる」──窓の外の鳥の群れは変化を嗅ぎつけ、四方八方に飛び去っていく。「神秘」の爽やかな香りが葉の間で揺れ、風が不要な言葉を消し去り、再び遠くの声を運んでくる──反有機戦争が勃発した。】

学者が誰なのかは分からないがパラドックスのような事が起こっている。この言葉を紐解いていくなら…

・ヌースは天才クラブを作り天才は人類の「時」を変えてきたが結局は更なる創造主が計画立てる「時」の内である。

とも読める。
実は最初期にヌースは被造物であることが明かされている。カフカと銀狼の台詞にある。

【これはザンダー。ザンダー・ワン・クワバラ、史上初の天才ね。】
【あの伝説に出てくる、ヌースを創った人間?】
【そう…伝説が事実であれば、彼は星神を創った男になるわね。】
【事実じゃないように祈ろう。「ザンダーハンター」なんて呼ばれたくない。】

これはヘルタも知らない情報である(ヘルタのオフィス内肖像画)。ザンダーは天才クラブ#1で他には虚数の樹理論の提唱者として知られるのみ。
ヌースはアーカイブにて前身は天体計算機であったとあるが、ザンダーがこの天体計算機を作ったのだろうか。
(「ザンダーハンター」に関しては、ザンダー→ヌース、星神を作ったなら…=星核の正体…   という意味深過ぎる式が成り立つがこれは置いておく)

ザンダーとヌースの関係は不明だが、学者が言うには「これはヌースの計算における時ではない」という。文脈的に反有機戦争の事だろうが、ヌースが言うにはそれは三つの時の中に含まれている。
なので「計算外の要素によって組み込まれた未来、歴史」と捉える。つまりヌースの計算には変数が存在しているということだ。ヌースは全てを計算してるように言われるが、対抗できそうなものも『神の三つの啓示・3』で示されている。

【「知恵」の計算に対抗できる者がいるか考えよう…「神秘」、あるいは「記憶」なら可能かもしれない。だが、誰にも保証はできない。】

「記憶」はブラックスワンを見る限りでは過去から全ての未来を予測できるという。ここで重要なのは上記の『受難する慈父・1』にも記された「神秘」である。
神秘はこれまでの通り不確定な要素を含んでいる。ヌースにも計算できないとは、量子力学の重ね合わせとか不確定性原理のようなものだろうか。史実のアインシュタインの言葉「神はサイコロを振らない」とは有名である。これは量子力学によって否定される事になる。

もしヌースが「神秘」の意志によって結果が変わるような計算しかできないなら、「知恵」は「神秘」には勝てない、天敵のような存在といえる。考えたくは無いが被造物と創造主の立場に似ている。

「知恵」はその功績、名声程の権力を持っていないのかもしれない。Dr.レイシオの存在は天才と凡人の基準を曖昧にしている。ストーリー序盤の「ぷっ、天才クラブ…」という台詞の様にお笑い草にされる名前なのもその通りであるのだろうか。

【「知恵はガラクタ、存護はアホ、巡狩は退屈、壊滅は狂人。星神はみな頑固で、アッハは面目ない!」──天文学に精通する(自称)仮面の愚者】

(この自称仮面の愚者は星穹列車爆破とかの活動を見るに言葉通りアッハ本人だろう。星神の中で一番自由な存在かもしれない。)

しかしその「知恵」の天才クラブから、世界を変える力を持つ者が現れる。毒をもって毒を制すように、「神秘」の力を持つ──

「静寂の主ロードオブサイレンス」、#4ポルカ・カカムである。


「黄金」と「機械」と反有機方程式

ポルカ・カカムが「神秘」の力を持っているというのは想像に難くない。

ポルカはヘルタのオフィスからも、自分の肖像画を全て破壊したというのが描写されている。「神秘」の者は自分の正体を明かせば死んでしまうからだ。破壊したということは後天的に神秘の力を手にしたのだろうか。

各所で言われる通り、『血色の弔い・1』と『流れる黄金・2』ではポルカが殺人をするシーンが描かれる。しかし『血色の弔い・2』では『1』に殺された者が翌日に生き返っているのだ!

【そう…しかし翌日、あなたは再び目を覚ました。彼女はいつも殺人を通して「終焉」または「新生」を与えるのだ。】

【「その『時』が来るまで、私はあなたを殺せない。でも、その『時』さえ訪れれば、あなたは死ななければならない── それが其の計算における『時』だから」】

つまり、ポルカはヌースの計算を読み、死の「時」が訪れる者を自らの手で殺し、生き返らせた。
“殺したフリをして「時」を騙した”のだ。
その芸当は「神秘」のものだろう。「殺した」という嘘の歴史を作り上げたのだ。

ポルカは天才クラブのメンバーを消しまくった事で有名である。何故そんなことになったのか?

これには深い理由がある。同じく『血色の弔い・1』では「終焉」の痕跡が残されている。

【「『知識』は『死』の序章であり、『血』はすべての『表紙』を赤く染める。」】

「知識は死の序章」──これは「知恵」が事の発端にあることを指している。
「血は表紙を赤く染める」──表紙とは本、本は知識そのもの、それを染めるのは禁書、改竄に当たる。

これを受けて博識学会とカンパニーは、「ある勢力」からの宣戦布告と受け取る。「知恵が発展したから、それを消し去る者」は当然、「神秘」派閥である。

この戦争に乗じて、天才クラブ会員の抹殺を図っていたのだろう。ポルカ・カカムは仲間を守るためにも敵である「神秘」の力を使い奔走していたのだ。

しかしこの「終焉」からのメッセージがあったにも関わらずカンパニーは敵を見誤る事になる。

【しかし、それからしばらく経ち、その推論は覆された。「セプルーゴ星」が元「技術部」のド・ウェインに属していたことが明らかになったのだ。】

(“元”技術部というのはこの時には既にド・ウェインは鋳鉄の玉座でおかしくなってしまっていたからかもしれない)

ここで『発端・スターピースカンパニー』にある三人の話に転ずる。

「政治宣伝部」トローラ・ファエンサ
「荷役部」コラパウ
「技術部」ド・ウェイン
この三人は多くの章節に登場し、色んな事をやるのだが…内二人は悲劇の最期を迎える。

明言は無いがトローラ・ファエンサは十中八九、カンパニー内部に入り込んだ「神秘」の魔の手である。
政治宣伝部、長い歴史の勢力の教母、精神コントロール術、激励と演説が得意、憶泡技術を支援、憶泡輸送の復活…

そして三人の動きを見ていくとよく分かる。
前考察の通り、コラパウはトローラの陰謀に嵌められ、経営パートナーがカレイシテラ博士を裏切った事で孤立無援化、自害する。

そして上記の様にド・ウェインが擁するセプルーゴ星の刺客がカンパニーの敵を「神秘」から逸らす。これは偶然では無いだろう、同じく精神コントロール術だ。

なぜトローラが二人を貶めたのか、それは成り上がる事だけが目的ではない。

『経営パートナー・1』でコラパウはトローラの支援する憶泡技術を打ち切り、共感覚ビーコンを推進した。共感覚ビーコンは#56イリアスサラスが作ったものである。
更に博識学会と協力して大量の観測ステーション、銀河図書館イスマイールの建設も手掛けた。

コラパウ自身の意志は不明だが、これは「知恵」の道を歩み推し進めていると言えるだろう。
周知の通り、「神秘」と「知恵」は犬猿の仲である。トローラがコラパウを抹消するのも納得だ。

また、上記の『血色の弔い・1』における事件はその「銀河図書館イスマイール」で起こったことだ。至る所の本が血塗れになる程の殺戮になった。
これで図書館にいる「知恵」の行人達を抹殺すると共にド・ウェインに濡れ衣を着せられる。

この時に図書館に居た、誰かは分からないが「知恵」の者が一人、ポルカに助けられたという図になるだろう。

【「あなたの死も必要なの…なぜなら…ここには『騒乱』が必要だから」】

「神秘」の手の者が「知恵」の者を秘密裏に消し去っている…そしてポルカは彼らを守るために天才クラブメンバー殺戮の汚名を被る事になった。

『精神のスパイス・2』でトローラはコラパウとド・ウェイン二人の墓に白い花を手向ける。しかし『神の三つの啓示・1』ではこうある。

【「神秘」の謎:其は謎を残していない。真相は「血」と「花」である。】

「血」はイスマイールの事件、「花」はトローラのものでいいだろう。二つとも今回のストーリーにおいては両シーンでしか登場していない。双方共に「神秘」の仕業であることを指している。

この後トローラがどうなったかは不明だが、「神秘」の悪魔的行為は彼女一人には収まらない。

「黄金と機械」における一大研究テーマ、「反有機戦争」は何故起きたのか?皇帝ルパートは何故「反有機方程式」を編み出し、有機生命体を全滅させようとしたのか?

「知識は死の序章である」…この言葉にその本質がある。『皇帝ルパート・1』でこう語られている。

【「鉄の玉座」の主が変わった後、「均衡」にわずかな傾きが生じた。「黄金」、「土のレンガ」、「血液」、「エネルギー」、「科 学」、「啓蒙」、「無知」、すべてが小さな 川となって、その傾きの中で流れ続ける── ある者はそれによって存在を失い、ある者は それによって虚無を抱き締める。】

この川の流れはこう読み取れる。
「鉄の玉座の主(富の王)が変わったのち『均衡』は崩れ、価値の独占、前時代的な生活をする人々、貧富の差による戦争、産業革命、科学の発展、『知恵』による啓蒙(コラパウの行い等)、知識の格差……──啓蒙による『神秘』の撲滅、世界の広がりによる『虚無』の発生   が起こった」

「虚無」の考察、世界の広い価値観を知った時に人は自分の無価値を知る。

玉座の主はルイス・フレミングだろう。『流れる黄金・1』にこうある。

【全宇宙の「通貨」と「資源」がこの河に収束する光景を! それはルイス・フレミングと東方啓行の手に握られている!】
【天秤に傾きが生じたことは、すべての生き物が知っているだろう。もはや富と貧困の均衡は保たれていない】

現玉座の主によって「均衡」が崩れる、これによって何が起こったか?

【そして、予想に違わず導火線に火がついた──貿易戦争は最も遠い、最も貧しい星域で始まった。信用の泥沼に落ちた世界は、「富」のために戦い始めたのである。】

これがヌースが計算した第一の時、「辺境星系貿易戦争」である。
宇宙の蝗害の後、カンパニーは更なる発展を迎えている。

【この時、スターピースカンパニーによる星間貿易の独占は空前絶後のレベルに達しており、カンパニーは多くの星系の実質的な支配 者となっていた】

これにより「価値」と「知恵」の啓蒙が宇宙全体に行われ、結局それが戦争に繋がった。

そしてその成り行きを予言するかのように、はたまた必然のものであるように表しているものがある。

それが「反有機方程式」である。

【「私は宇宙の資源と生命の総量が、等式の両側で均衡を保てるように無限に近付け、反有機方程式の論理を推測した。その推論の中で、『貧困』、『富』、『暴力』、『権力』などが生じたのだ。】

これは『神の三つの啓示・2』のカレイシテラ博士の語りである。
反有機方程式の論理はどうやら、「宇宙の資源と生命の総量…を無限に近づける」…つまり宇宙全体の人類の発展を起点にしている。
そうすると貧困、富、暴力、権力、これらが生じた…つまり貧富の差、権力争いによる戦争である。

反有機方程式、及び皇帝ルパートは各所の説明では「有機生命体の誤謬を正すための殺戮」とある。

カンパニーの行いで勃発した「辺境星系貿易戦争」は、反有機方程式によると
“人類が発展すると確定で起こる戦争である”ということだ。

だから人類は間違った存在であり絶滅させる必要がある。ルパートは無機生命体を操り「反有機戦争」を始めた。「依頼」にある「生まれながらに服従する」のスクリューガムの語りでは皇帝ルパートは全ての有機生命体の敵と称される。こうして人間と機械の戦いが幕を切られた……

と、いうわけでは全く無い。

反有機方程式は人類の必然的、自発的な戦争を指す。しかし何故「富」と「権力」が必然であるのか?何故ルパートと無機生命体による殺戮が答えになるのか?

上記の古の富の王と玉座、その光景にある各々の運命の象徴、それを思い出して頂きたい。

「数えきれない程の富」、これはもちろん存護ではない。ルイス・フレミング、カンパニーが勝手に信仰しているだけだ。
では「富」を象徴する運命とは何なのか?

そもそも富、お金というものは私達にも慣れ親しんだものだが「物理的現実」ではない。
金貨や紙幣は実際はただの石や紙切れである。人間の思考が勝手にそれらを「価値あるもの」として認識しているのだ。

「神秘」ミュトゥス、黄金色の身体を持つ其は人間の思考を創った存在である。

現代科学考察参照

では言葉や貨幣といった「社会的現実」を創ったとも言える。
「金」という鉱物は万国共通の価値を持っている。何故そうなったかというとまず腐食しないという長く保存できる性質、展延性による貨幣の作り易さ、希少なのでインフレーションを起こさないという点がある。

そして耐食性等から超自然的な存在として見られる事があった。それが「錬金術」というオカルト、神秘的な概念に繋がっていく。その域はもうミュトゥスの庭である。

「富」が「神秘」であるなら…社会的現実を創ったのがミュトゥスであるなら、カンパニーの行いと辺境星系貿易戦争の必然、それはミュトゥスの立てた計画の内である。

では反有機方程式は、富を支配する「神秘」への敵対であったのか?
しかしそれは違う。ミュトゥスの計画が行き着く先はそこではなかった。

『神の三つの啓示・2』のカレイシテラ博士の語りには続きがある。

【同時に現れたのは『苦痛』と『喜び』──この2つの変数はさらに区別が難しい。】
【「疑問:無機生命体はどのように『苦痛』を 理解する?反有機方程式が起動した時、彼らは『苦痛』を理解するのだろうか?…】

反有機方程式が起動した時、「喜び」と「苦痛」が戦争と同じように生じるという。そして無機生命体は普通、苦痛を理解しない。
その後、こう続けられる。

【平等に与えられる苦痛が彼らの夢に戻ってくる。時には蝋燭の火のように暗く、時には飛び出してきて、人の形を生み出そうとする「神秘」の創造物となる。】
【その「神秘」の蝋燭の火は彼らの骨や血管に絡みつく。彼らは自分の血が毒で溢れ、それが手足、心臓、最後には脳に運ばれていくのを感じた。】

「苦痛」と「神秘」が繋がりを持つキーワードになっている。『よからぬ考え・1』にはこうある。

【戦争が長く続いたことにより、あなたは「惨劇」を経験した人を一目で識別できるようになっていた。彼らの目には気質が似た、血のように赤い何かが映っているのだ。それを見るたび、あなたは苦痛を感じる。】

これはこの後、苦痛と闘う有機生命体の若者が自らが機械かどうか分からなくなってしまうという事態になる。

【「なんとかして自分は…『物』なのか、あるいは別の『何か』なのかハッキリさせないと」と言い、そして旅立っていった。】

この「苦痛」によって何が起こっているのか?更に『よからぬ考え・2』にも同様の記述がある。遠い未来に「虚構歴史学者」…神秘の派閥が作った物語では、反有機戦争が終わった後にルパートの墓を訪れた有機生命体が反有機方程式を起動した。そして「よからぬ考え」が頭の中に現れ…

【その「よからぬ考え」は彼の頭の中だけでなく、彼の手足や胴体にも現れるようになっていった──興味深いことに、後者は前者より遥かに頻度が高かった。】
【彼は突然、すべての有機生命体は欺くために造られた「機械」であり、自分だけが「自由意志」を持っているのだと思い始めた。】

この頭と身体へ「意識」が回っていく挙動は『神の三つの啓示・2』と似ている。そして最後には…

【彼は悲しそうに言う。「この悲しい有機生命体たちを始末しなければ」】

一連の情報を合わせると、反有機方程式が起動すると生命体の中に「神秘」の力による「苦痛、よからぬ考え」が発生し、それが自身と他人の認識を歪めて有機生命体の殺戮へと向かわせる。という形になっている。

方程式は無機だけでなく有機生命体にも影響があるようだ。ルパート帝国の奇物には「ルパート2世」が有機生命体であったと描かれている等する。

一般には皇帝ルパートが反有機方程式を作り上げたと言われている。しかしルパートは「神秘」ではなく「知恵」の天才クラブ会員である。では方程式はどこから来たのか?

上記の通り「神秘」が計画した辺境星系貿易戦争を予言し、有機生命体を阻止するのが反有機方程式である。しかし反有機方程式も「神秘」のものであるとすると、この矛盾は何なのか?

『反有機戦争・1』ではいつもの難解な浮黎の言葉がある。

【善見天はあるアンチウイルスプログラム起動後今までよりも遥かに大規模で恐ろしい戦争が勃発すると論証】
【アンチウイルス感情希少疾患如何なる感情解読アンチパスワード運行解読プログラムの本質】

今回初めて浮黎の言語を読み解けたように思う。これまでの情報と繋げるとこう読める。

「アンチウイルス(反有機方程式)は感情が希少でも疾患を与え如何なる感情も解読する、そこでアンチパスワード(非正規文字列)を運行し解読させるとプログラムの本質が表れる」

アンチウイルスは反有機方程式である。アンチパスワードは「有機生命体を絶滅させよ」といった旨だろうか。
アンチウイルスは名の通りウイルス除去のためのものである。ではウイルスは…「有機生命体」である。

この「プログラムの本質」、「アンチウイルスプログラム」は何なのか?
これは「無機生命体」そのものだろう。

つまり、この浮黎が言うにはこうだ。
「無機生命体は『神秘』が用意した、『神秘』を行うに当たり必然になってしまう辺境星系貿易戦争を阻止するための存在である」

ただしこの浮黎は偽物で、この後ミュトゥスが正体を表す。この言葉は「中性の憶泡」と言われている。
中性ということは「記憶」と「神秘」が五分五分になっているのだろう。半分は真実で半分は嘘。恐らくミュトゥスにとっての限りでは無機生命体はその道具なのだろう。

無機生命体に関する最も古い情報は恐らく、「宇宙の蝗害」の『凶と虫-諸星消滅紀・3』にある。ゴルカンダにいるオムニックの祖先が機械星系の構築をしている。

無機生命体は生命なのか?どういった起源と目的があるのか?スクリューガムも模索しているこの命題は、メインストーリー的にはヤリーロ-Ⅵのスヴァローグとクラーラ達の関係から語られると推測している。
もう一つ面白い話が、宇宙ステーションヘルタの書籍にある。ヨートン体という水晶の無機生命体を研究する内容で、最後は虚構歴史学者なんかの嘘であるとし、こう強調される。

反有機方程式はウイルスという表現に連なるように、ルパートから多くの無機生命体へと、更に有機生命体にも表れるというように強力な感染力を持っている。
現在「ルパート3世」の登場が危ぶまれているが、次に「人類の戦争」が起こる時、また「苦痛のスイッチ」が押され、「アンチウイルスプログラム」が起動するのだろうか?

また、辺境星系貿易戦争はミュトゥスとしては「起こらない」はずだったと推測できる。
前考察では、ルパートは「愉悦」アッハの造物でノブレスワームの成功例、そして反有機方程式を鎮めるため自ら眠りについた「慈父」であり、「神秘」ミュトゥスによって起こされて式を起動してしまった哀れな者とした。

そう、皇帝ルパートは誕生して反有機方程式を起動した後、戦争を起こしてはならないと眠りについたのだ。これによって、「反有機戦争」が延期された。するとアンチウイルスプログラムが起動せず、辺境星系貿易戦争は勃発の一途を辿る。
ルパートは「慈父」であったが故に、一つ多くの戦争をもたらしてしまったのだ。

【景元「この世における災難へと繋がる道は、往々にして善意によって敷かれている。」】(ver2.5仙舟編)

「神秘」がこの面倒なサイクルを用いている点には理由がある。人間は「神秘」を持ち、無機生命体は「神秘」を持ち得ないからだ。

【あなたは立派な無機生命体です。感情:なし、思考:なし、感覚および芸術:なし、自由意志:なし】(発端・機械帝国)

ミュトゥスとしては人間同士で戦争するのは好ましく無い。だから無機生命体を敵に仕立てた。方程式を埋められるし、半分は自らの造物であるが「神秘」自体は人間からしか発生しないのだろう。

……これが全貌である。

「黄金」と「機械」は神秘の手によって創られたもの。二つの戦争は神秘の計画と手違いによるもの。そして第三の「時」…ルパートとポルカ・カカムの出会い、世を守りたい二人による皇帝の死が戦争を終わらせた。

もしポルカがこの時も「新生」の力を使ったならルパートは生きているのだろうか?これは数百琥珀紀前の出来事だが、ヘルタらが言うにはポルカは生きてるという。

またポルカの力にはある者が関わっていると思われる。
「神秘」の力によって殺されたフリをする、一体如何なるものかと疑問を持てるが神秘的な力だと言われればそれまでである。

しかし一つ手掛かりがある。『血色の弔い・1』にある「神秘」の痕跡である。

【1人の仲間があなたのために死に、あなたは1人に殺される】

この「神秘」はポルカのものだと仮定して、同じ文言が『神の三つの啓示・3』に登場する。
この章節ではアンダトゥール・ザザロに出会う。アンダトゥール・ザザロは前考察では模擬宇宙外の存在、仮面の愚者であることから「愉悦」の星神アッハ本人であるとした。

【目の前に置かれた巨大な棺。ある仮面の患者がそれに背を向けて演説している。愚者は「 アンダトゥール・ザザロ」と名乗り、棺の中にも「アンダトゥール・ザザロ」が横たわっていた。】
【あなたはすぐに、「アンダトゥール・ザザ 口」がまもなくこの戦争で死ぬことに気が付 いた──何度も会っているが、一度も心に留 めたことのなかった「アンダトゥール・ザザ 口」。】…
【その後の旅で、自らを「アンダトゥール・ザザロ」と名乗る無数の「仮面の愚者」が現れた。彼らはあなたを笑わせようとしているだけなのだが、あなたは辛い気持ちに沈むだけだ。】

アンダトゥールがアンダトゥールの葬式を行い、無数のアンダトゥールに囲まれるという…全く意味の分からない、仮面の愚者につままれたような感じがある。

しかし例の神秘の痕跡、ポルカの件とアンダトゥールの件を繋げると、新たな事実が想定できる。

アッハは皇帝ルパートを創造し、天才クラブに入れた。これは「愉悦」の星神として愉悦の造物が知恵の天才になるというこの上ないジョークである。
しかし、それが「神秘」の手によってルパートが選ばれて大規模な戦争に発展させられるのは想定外の事だっただろう。

愉悦は悪質ではあるが悪魔ではない。サンポや花火を見る限りでは、開拓者達に協力を惜しまず、ヤリーロは救われるし爆弾はピノコニーを破壊しない。

アッハが反有機戦争に何を思ったかは分からない。今回のストーリーでは珍しく本人として喋ることは無い。しかし戦争を「愉悦」と思わず、止めに入る立場になったなら?

アンダトゥール・ザザロは戦争での死を予期されている。また『神の三つの啓示・1』ではヌースもその死を計算している。そして無数に存在するアンダトゥールは自分の葬式をする。

ポルカ・カカムの「新生」、「殺されるフリ」に、実際に代償として死ぬ者が要るとしたら?
「1人の仲間があなたのために死に、あなたは1人に殺される」、これはその意味を表しているのではないだろうか。

「1人の仲間(アンダトゥール・ザザロ)があなたのために死に、あなたは1人(ポルカ・カカム)に殺される(フリをする)」

『皇帝ルパート・1』でルパートが死ぬ時に17回目の鐘が鳴る。安直だが恐らく天才クラブ会員をルパート含めて17回殺し、17回救ったのだろうか。

あなたと多くの旅をしてきた、あなたの仲間か、と称されるアンダトゥールはこの時、本当に「あなた」を救うために動いていた仲間だったのではないか。

「神の三つの啓示」というタイトルは「1」にある選択肢だけでなく、三つの章節の「記憶」と「神秘」…そして「愉悦」の、星神達を表すものだったのだろう。

【「1人の仲間があなたのために死に、あなたは1人に殺される」…どこから来たのかわか らない、奇妙な考えが脳裏を過ぎった。】


「愉悦」が戦争を止めようとするのは他にも見られる。『流れる黄金・1』では、ド・ウェインが反有機方程式を機械帝国から盗もうとした所を仮面の愚者に阻止される。
愚者が誰かは分からないが、アンダトゥール・ザザロは『発端・機械帝国』で帝国(無機帝国と表記)で受付担当をしている。

また、その際にスクリューかオムニックかを問われる。スクリューと答えると「ザンダーの祝福を!」と言われオムニックだと「皇帝の祝福を!」と言う。アッハの事はもう信じるとして、素直に受けとるならスクリュー族は#1ザンダー・ワン・クワバラに創られたと考えられる。ザンダーの事はヘルタも知らなければ多分スクリューガムも知らないだろうという事で星神ならではの知識量だろう。オムニックはルパートに創られた…

あと、ポルカ・カカムの背後には「東方啓行」がいると『血色の弔い・3』で語られる。東方啓行は全てを「予兆」のもとに把握しているというが、続いて戦争に関しては「まったく意味がなく、何も残らなかった」とあっさりと終了する。
全てを把握しているカンパニーのトップでも、星神達の支配の中ではポルカに支援して必然の戦争を早く終わらせる事くらいしかできなかったという事だろうか。

【どこかで回避するチャンスはあったのか?】
【ない。】

とんでもなく長く複雑難解になってしまいましたが以上で終了です。

カンパニーも無機生命体もまだまだ分からない所があります。ルイス・フレミング…スクリュー星…メインで今アツいのはオスワルド・シュナイダーと十の石心でしょうか。
石心のパールさん(無機生命体)が今回の「黄金と機械」で関わったのですが、彼女はこのデータを受けて何か得られたのか。

こんな感じで星神が全ての運命を決めるなら星神をどうにかするしかないかもしれません。鏡流やオパールの言う「神々の戦い」は羅刹が繁殖の残滓を使おうとしているように、各々の人間側が星神同士を戦わせて運命を掌握しようとする戦いなのでしょうか。

以前の宇宙の蝗害の考察も含めてこのストーリーの答えがどんな形で出されるか分かりませんが楽しみにしてようと思います。

終   (⌒0⌒)/~~

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