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4年ぶりに東京へ行った話の続き

浅草で一仕事終えて次の約束までの2時間半で昼ごはんを食べることにした。

どこもかしこも人がいっぱいで、さてどうしようと思ったわたしの脳裏にふと、
上野の喫茶店が浮かんだ。
どうせ行くなら行ってみたかったところにしよう。
古い喫茶店で、どうやらそこには推しのサインがあるらしい。

隙あらば聖地巡礼。

たいていこういうことって帰ったあとに、ああ!あそこに行けばよかった!と思い出すのが常なのに、浅草なんて上野と目と鼻の先にいるうちに思い出した自分、天才じゃね?と思いながら意気揚々と上野に向かうことにした。

浅草から上野も一本で行ける。
ただなにせ人が多い。

最近のキャリーケースは4輪が当たり前なのか体の横にまるで盲導犬のようにぴったりとガラガラついてくるが、わたしのパートナーときたらなんせ2輪。昔のスチュワーデス、CAではなくスチュワーデスが空港を闊歩する時に連れていたような後方斜めスタイルじゃないとガラガラこない。

2輪の悲しさよ。2000円…1輪1000円か。

ただ、景気良くガラガラと斜めにすると大事な赤福も傾くし、なによりまわりのひとに迷惑をかける。

赤福が傾かずまわりに迷惑をかけないように人混みを行こうとすると、どうしても持ち上げて歩くのがいちばん手っ取り早く、わたしは浅草の通りを階段でもないのにずっと赤福8個入りが5箱入ったパートナーを持ち上げて歩いた。
朝より軽くなったとはいえやはり重かった。

他人様が見切れないようにするとこんなことに。


上野に着いてまず喫茶店の名前で検索した。

駅から徒歩5分程度でホッとしたが、そこは美術館や博物館のあるエリアとは逆の、わたしが一度も足を踏み入れたことのない地域だった。

おおう…ひとが…ひとがいっぱいだ…。

日曜のちょうどランチ時の上野の繁華街はとにかく人がいっぱいだった。浅草もいっぱいだったけど上野もいっぱいだった。語彙力よ、と思うが他に形容のしようがないからしょうがない。

店先までテーブルが出ていてあっちでもこっちでも人が食べたり飲んだりしている。どう見ても満席なのに、まだ店頭で呼び込みをしている店もあった。

「見るだけでいいんでぇ!」

と、お姉さんが叫んでいたが、居酒屋でなにを見るだけでいいと言うのか。
生簀か。水族館かよ。

「見ていくだけ見てってください〜冷やかし大歓迎〜!」

大丈夫なのか。お互いなんの得にもならなさそうなもんだが。
きっとメニューさえ見せればがっつりキャッチできる自信がおありなんだろうけども、わたしにはとてもじゃないけどできない芸当だ。素晴らしい。そのまままっすぐ育っていって欲しい。

などと考えつつみなさんの邪魔にならない程度にパートナーをガラガラしながらようやく目的の喫茶店を発見して、マジで目をぱちくりさせたわたくし。

めっちゃ並んどる。
ざっと見ただけで20人はいる。それも全員若い。10代後半か20代前半。下手したら孫だ、孫。

昨今のレトロブームとやらで、昭和の喫茶店が人気だという話は知っていたがこんなにか。どうせあれやろ?クリームソーダなんかを頼んで「エモい〜」とか言うんやろ言わんのか言うやろ?もう古いんか?「映え〜」はもう古いことは知っている。どうでもええけど。
とはいえ次の約束までまだ2時間ちょいあるので様子を見ようと孫たちの一番後ろに並び、待ってみることにした。

…20分待った。

一歩も進まない。さっきから人っ子一人出てこない。
どうせ中でクリームソーダなんかを頼んでエモ…以下同文。
でもわたしの前に並ぶ若人たちはそんなことまったく気にする様子もなくニコニコしながら待っている。

すごいなキミら。忍耐力の塊か。

と、そこまで考えてふと次の目的地まで約40分かかることを思い出した。

ちょっと待て。
あと1時間半ちょいで、そのうち移動に40分ってことはあと50分しかない。20分ひとりも出てきていないのにあと50分で、なんなら上野駅まで5分ってことを考えたら残り45分でわたしは入店して注文して食べて出てこれるのか。エモ〜などと言う時間はあるのか。
推しのサインをじっとり舐めるように観察する時間はあるのか。
…絶対ない。
絶対ねーじゃねえか、こんにゃろ。

ということでさっくり列から離脱。
孫たちよ、わたしの分までエモがるがよい。
推しのサインよまたいつか。

でも腹は減っているので途中で見かけた喫茶店へ行くことにした。
2Fのお店だったが見上げた感じ、そこもまた古げな昭和の喫茶店でいいなと思ったのだ。

よっこらしょと言いながら赤福8個入り5箱が入ったパートナーを持ち上げて階段を上がり、自動ドアが開いた瞬間がっくり。3人ほど待っている人がいた。
が、3人ならもしかして…と期待に満ちた目で店内を覗き込むと、白いフリルのエプロン姿のウェートレスさんが「お客さまおひとりですか?」と声をかけてくれた。
「はい!」
「おひとりさまならお席にはご案内できるんですが…」
やった!ラッキー!と思ったのも束の間、

「…お食事をお出しするまで50分くらいお時間頂戴してまして」

ご、ごじゅっぷん。
その時間にはわたしは西新宿五丁目の駅にいないと。
ここでナポリタンなんぞいただきますしている場合ではない。

恐るべし東京よ。
というか、ランチ時の観光地を甘く見ていたわたしの大馬鹿野郎。
がっくりうなだれてスタート地点上野駅まで戻り、はた、と立ち止まるわたしとパートナー。

いったいわたしは何を食べれば。

駅ビルの案内図を見てわたしは自信を持って2Fへあがった。
ドトールコーヒーがそこにあった。
筋肉は裏切らないらしいが、ドトールも裏切らない。
ふた月に一度東京に来ていた時もしょっちゅう馬喰町のドトールにお世話になっていた。
ナイスドトール。エルオーブイイーアイラブドトール。
4年ぶりの東京でドトールで昼ごはんというのも乙なもんよね、と赤福入りのパートナーを邪魔にならないよう足元に引き寄せて、わたしは無事レタスドッグとブレンドコーヒーMサイズで一息ついたのだった。


まさかの昼飯だけで終わってしまった。
次こそ。









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