2022年度 大学入試共通テスト(第二日程) 生物基礎解説
2022年度 大学入試共通テスト(第二日程) 生物基礎解説
2022年1月29・30日に行われた再試験3問の内、第1問と第2問について解説します。
(問題文は、大学入試センターのホームページから、大学入学共通テスト > 過去の試験情報 > 令和4年度試験 > 令和4年度 追・再試験の問題 で見ることができます)
第1問A: 問題文では、高校生には知りようのない生物工学の研究について述べられていますが、設問の内容は、従来通りの生物基礎の問題です。
問1: 下線部(a)に関連しようがしまいが、全ての生物に共通してみられる特徴が変化することはないので、教科書通りに答えればOK。
a 膜がなくて中身だけなどという細胞や生物はないので、適。
b 単細胞生物が、精細胞や卵細胞を持つことはないので、不適。
c 原核生物に細胞内小器官はないので、不適。
d 物質代謝もエネルギー代謝もないなら、それは石ころか机か椅子か死体なので、適。
よって正解は、aとdで⑦となります。
問2: 生物のセントラルドグマ(中心定理)である DNA→RNA→タンパク質 の内の後ろの部分、RNA→タンパク質 についての設問です。
この部分は翻訳と呼ばれ、それに使われるエネルギーはATPが供給するのでしたね。
細胞内ではこのATPをADPから合成するために、化学エネルギーが使われますが、問題文の人工細胞では、光エネルギーが使われていることが読み取れます。
実験I: 人工細胞の正常な反応なので、これが陽性対照です。
反応の内容は、光によってADPから変化したATPがエネルギーを供給して、RNAからタンパク質が翻訳されるというものです。
ここから、ADPを入れなかったり(実験III)、光を照射しなかったりすれば(実験IV)、タンパク質は翻訳されないでしょうが、その替わりにATPを入れてやれば(実験V)、ATPからのエネルギーでタンパク質は翻訳されるでしょう。
すなわち、ADPも光もATPを作るために必要なのであり、最終的に必要なのはATPであることが証明されます。
よって正解は、実験III, IV, V の⓹となります。
IからVIまでのそれぞれの実験条件の文の横に、その結果を推測して↑(タンパク質が翻訳される)や↓(されない)などと書き込んでから全体を考えるとよいかもしれません。
問3: Xが真ん中の部分で引っ張られて ← < > → のように離れて行くだけですから、①以外はあり得ません。
よって正解は①。
第1問B: 問題文には、DNAとゲノムと遺伝子が混在しているので分かりにくいですね。
ひと揃いの設計図がゲノム(genome)で、その内のタンパク質に翻訳される部分が遺伝子(gene)です。
これはバイオームとバイオの関係と同じなのですが、日本語では片方をカタカナ、もう片方を漢字で翻訳していますから、分りにくいのはしょうがありません。
DNAは、物質名です。
問4: ヒト(動物)は真核生物で多細胞より成り、大腸菌(細菌)は原核生物なので当然単細胞です。
e 細胞壁を持つのは植物と細菌だけなので、動物は持たないから、適。
f 葉緑体を持つのは植物だけなので、動物も細菌も共に持たないから、不適。
g 全ての生物の増殖は細胞分裂を伴うので、不適。
h 真核生物と違って原核生物は核を持たないので、当然核膜もないから、適。
よって正解は、eとhで③となります。
問5: 2本鎖DNAがほどけないと酵素が近づくことができないので、DNA合成酵素(複製)であろうとRNA合成酵素(転写)であろうと、働くことはありません。
よって正解は、④。
②が分かりづらいですが、これはDNAの4つの塩基(A、G、C、T)と、mRNAの4つの塩基(A、G、C、U)では、そのうち3つだけ(A,G、C)が同じであるという意味なので、誤りではありません。
問6: 数字がたくさん出ているので、計算問題という印象ですね。
まずはその印象に従って、①から計算してみましょうか。
①: ヒト遺伝子の平均的な大きさ:
3,000,000,000*0.02÷20,000=3,000
大腸菌遺伝子の平均的な大きさ:
5,000,000*0.9÷4,500=1,000
さて、この3,000と1,000は、”ほぼ同じ”なのでしょうかどうでしょうか。
ゲノムの大きさは600倍違うのだから、それに比べれば3倍はほぼ同じといえそうですが、それにしても1割増し、2割増しならともかく、3倍違うものが本当にほぼ同じなのでしょうか。
困っちゃいますよね。
ということで、ここは不明ということにして、次を見てみましょう。
②: ヒトゲノム中の遺伝子の領域の大きさの総計:
3,000,000,000*0.02=60,000,000
イネゲノム中の遺伝子の領域の大きさの総計:
400,000,000*0.2=80,000,000
60,000,000は80,000,000よりも”小さい”ので、これは適文となります。
よって正解は②。
ここまで来れば、もう③~⓹は計算するだけ時間の無駄です。
とくに④⓹の”傾向がある”かどうかなどは、①と同じで計算したって判断に困りそうです。
このように、これは計算ができれば正解できるという問題ではなくて、その後の判断を問う問題でした。
出題者側によればこの問題は、論理的に考察する力を問うているそうなので、このような問題は今後も出ると思われます。
対策としては、選択文の結論部分があやふやかどうかを最初にみて、あやふやでないものから先に計算していくとよいでしょう。
第2問A: 定量直(曲)線を引いて、それに基づいてサンプルを測定するという、オーソドックスな実験系が2つ出てきます。
問1: 表1の値をグラフにプロットし、出来たグラフにサンプルの濁度3.6を当てて得られた細胞濃度から、全体の細胞数を答えるという問題です。
横軸には濁度を0から5まで、縦軸には細胞数/mL を0から2.5*10^9 まで振るとよいでしょう。
得られた細胞濃度1.1*10^9 に、全体の体積10.1を乗じて、正解は1.1*10^10 ⓹となります。
過去のセンター試験でこのタイプの問題が出るときには、グラフが簡単できれいな直線になるように、数値もグラフ用紙も調整されていました。
しかし今回は、そのような調整はされていないため、直線の引き方によっては1-2目盛りくらいは変わってくるので不安になるかもしれません。
けれども選択肢の数値間には数倍の差がつけられているので、この程度の誤差が影響することはありません。安心してください。
このような出題傾向の変化に面食らう人もいるかもしれませんが、実際には、分かりやすい算数のグラフが、普通の生物学のグラフになっただけです。
授業や生物クラブなどで実際に実験をしている人に、有利な問題といえるかもしれません。
問2: 対照実験には、抗菌作用のあることが分かっているもの(陽性対照)と、ないことが分かっているもの(陰性対照)の2種類がありますが、選択肢の中に抗菌作用のある物質は含まれてないので、ここで選ぶのは陰性対照ということになります。
陰性対照で重要なのは、測定したい物質の含量はゼロで、それ以外の組成は同じということです。
そのようなものを陰性対照にとれば、サンプルの数値になんらかの変化が得られたときに、それは測定したい物質の影響だと分かりますからね。
よって正解は①となります。
問3: 図2の右下がりのグラフは、左へ行くほど菌数(縦軸)が大きくなっていることを示しているので、左へ行くほどニンニク抽出成分は少ない、すなわち希釈倍率は高いことがわかります。
問題文で希釈液と呼ばれている1倍、2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍の8種類に、更に対照を加えて実験してますが、これらの内で最も抗菌作用の高いと思われるものが1倍、ついで2倍、4倍の順です。
よって横軸のGは1倍、Fは2倍、以下同様にAは64倍であることが分かります。
対照は、含まれるニンニク成分がゼロですから、グラフにプロットしようとすれば、無限大希釈で無限に左方向となってしまうので、このグラフにはプロットされていません。
この辺は、実際に生物実験をしていない人には難しいかもしれません。
a 逆なので不適。
b 逆なので不適。
c 対照の値をグラフから読み取ることはできませんが、問題文の最後で、そもそも対照を100としていることが分かります。100が20%少なくなると80ですから、縦軸80のときのグラフの横軸を読み取るとCとなって、適文です。
d グラフF、Gより、実験2の希釈液は1倍でも2倍希釈でも、菌の生育を全面的に抑えてしまう効果は替わりません。よってもともと使うニンニクの量を半分にしても、1倍なら効果は同じであると期待できます。よって適文。
よって正解は、c,dの⑥となります。
第2問B:
問4: リード文にもあるように、チロキシンは変態を促進します。
チロキシン(Thyroxine)は、その名の通り甲状腺(Thyroid gland)から分泌されるので、gは適。
よって、その分泌を促進する甲状腺刺激ホルモンを分泌する脳下垂体fも、適。
よって、その甲状腺刺激ホルモンの分泌を促進する放出ホルモンを分泌する間脳視床下部eも、適。
以上より、正解はe,f,gの⑦となります。
問5: 指標1のオタマジャクシに薬剤処理をして、3週間後にどうなってるかを調べたのが、実験3(図4)です。
薬剤処理をしなければ3週間後(21日後)に指標6となることは、図3の横軸に示されているので、図4で指標6となっているIIが対照群であることが分かります。
対照群よりも変態を遅らせる物質は、チロキシン、化学物質Xのうち後者しかあり得ないので、Iは化学物質X投与群。
よってIVがチロキシンで、IIIがチロキシン+化学物質Xです。
以上より正解は、IIIは④、IVは②となります。
実験の趣旨を理解していれば簡単な問題ですが、実際には相当難しいと思います。
というのは、問題を解くだけならば、図3は本来縦軸に形態指標をとるべきで、チロキシン濃度は削除すべきものだからです。
だってチロキシン濃度なんて、問題を解くためには全く使いませんから。
これを悪質なひっかけと捉える向きもあるでしょうが、より普通な生物学と捉える方が正しいです。
というのも、実際の生物実験では、知りたいことにいっぱつで届くようなスマートな実験系などというものはほとんどなくて、実験結果を元に次の実験を計画するということの繰り返しで、知りたいことに近づいていきます。
その過程で、図3のようないくつかの実験データをまとめたグラフが示されたときに、そこから何を読み取るかということは、普通に重要なことだからです。
だからこれも、授業や生物クラブなどで実際に実験をしている人に有利な問題といえるでしょうね。
希望が多ければ第3問についても、引き続き、または塾の方で、続ける予定です。
最近は、国語の問題かよというような設問でむりやり点数分布を広げる傾向にありましたが、ここへきて考える力を正面から問う良問が増えたと感じます。
ひとつ受験に限らず、新型コロナが流行ったり、放射性地下水が海に排水されたりする今世紀を生きる諸君にとって、事実を基に自分で考える力を養うことは重要になりますから、ぜひ高得点を目指してください。