ロマンの生物学(1) ~未来の人類が死ななくなることについて~
子供の頃には、リッパなオトナたちが、世界を回しているんだろうなーと思っていた。
だってテレビのニュースも新聞も、何を言ってるのかでんでん分からんのだもの。
聞いても分からんようなことをオトナはやっているのだからこれはもう、どうしたってたいしたもんに思えたのである。
オトナになって解ったことは、世界を回してるオトナ達も、コドモとそんなに変わらないということだった。
世界のヒミツを知ってるわけでもないし、人類の平和を第一に考えてるわけでもない。
世界のヒミツを知っていると思っている人はいるのかもしれないが。
でもどこかに隔離されちゃってるのだろうなあ。
さてお立合い。
余は、世界のヒミツを知っているのである。
うわー。
隔離されてないヤツがいたー。
などと思ってはいけない。
生物学でメシを食ってきた者には、人類の来し方も行く末も、ちっとばかり遠くまで見渡せるのである。
人類は、あと千年もすれば死ななくなるだろう。
だって生物は、もともと死んだりしなかったんだもの。
原始的なばい菌は、死ぬことは死ぬけれども、あれはみんな事故死である。
餌がなくなったり、お池が干上がったりして、死んじゃうのである。
寿命で死にましたなどというばい菌はいない。
つまり人間を死ななくするには、寿命という元々はなかった追加機能を削除して、元に戻せばよいだけなのだ。
だから原理的にはイケるハズである。
そのための道具立ても、原型となるものは既に揃っている。
寿命遺伝子を解析するためのコンピューターと、切り貼りした遺伝子を人体に送り込むための人工ウィルスである。
といってもコンピューターの方は、この目的に使えるようになるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。
現在のコンピューターでも、遺伝子どうしを比較して似てるとか似てないとかいうには充分なのだが、その遺伝子が何をやっているのかを知るには、速度も容量もてんで足りていない。
遺伝子の役割は、動物実験で一個いっこ調べているのが現状なのである。
人工ウィルスの方は、コロナワクチンでお世話になったように、既に実用化されている。
というよりも、コロナ騒動のせいで人間に実用化されたという方が正確だ。
それまでは実験動物や、ごく一部の遺伝子疾患患者に用いられていた人工ウィルスが、健康な不特定多数の人々にも使われるようになったのは、ひとえにコロナの致死率の高さのせいだった。
工場で遺伝子を読ませてワクチンを作っていたのでは、コロナの感染速度に間に合わなかったのだ。
だから遺伝子のまま人工ウィルスに入れて人体に直接ぶち込んで、読むのは各自の体内でお願いしますというのが、コロナのRNAワクチンである。
もっとも、植物については何十年も前から実用化されていていたのだが、当時は消費者団体や環境団体が大反対していた。
遺伝子組み換え小麦やらなんやら、食べて消化してバラバラにしてから体内に吸収するものについてはあれだけ熱心に反対してたのに、RNAワクチンのような、組み換え遺伝子を体内に直接ぶち込むことについては反対しなかったのが、なんでかは知らない。
慣れたんだろうな、きっと。
何に慣れたのかは知らないが、こうやって科学のハードルは越えられていくのであった。
人類(のうちの金持ち)が死ななくなるまでにも、社会的ハードルはずいぶんと多いだろうが、慣れるんだろうなあ、やっぱり。