灰になる
夢子は北陸の地方都市に住んでいた。父の実家が隣にあった。小学生の頃は、毎年、夏休みと冬休みには伯母の家族が東京から実家に帰省してきたので、いとこたちと賑やかで楽しい日々を過ごしたものだった。
夢子は三人姉妹の真ん中で、家族の中では常に浮いた存在だった。家族とは話が合わなかった。夢子は頭が良かったが、夢子の家族は平凡だった。祖母は優秀で、高等女学校を出ていた。
伯母も大学を出て教員免許を持っていた。伯母の子どもたちも優秀だった。だから、伯母の家族と夢子は気が合った。
夢子は、親に嫌われて大学に行かせてもらえなかったので、高校卒業後、東京の出版社に就職した。会社には常に大学生のアルバイトがいた。
ある日、夢子が仕事を終えて外に出ると、「すいません」と若い男に声をかけられた。アルバイトの大学生だった。
「もし良かったら、チケットがあるので、今度、映画を見に行きませんか」
数年後、結婚を意識するようになった。夢子は伯母に会いに行った。
「結婚したいけど、私にやっていけるのかな」
「夢子ちゃんが結婚かあ。思い切ってやってみなよ」
結婚式にはもちろん伯母を呼ぶことにした。
「ご招待ありがとう」と叔母は電話をかけてきて言った。
三十年が経った。
夢子は、離婚し、子育ても終わり、編集部のチーフとして活躍していた。
そんなある日、伯母からメールが届いた。全身に癌が転移していることが分かり、余命一年と宣告されたので今は海辺のホスピスにいるという。
「元気だと思ってたのに」
「急に腰痛がひどくなって病院に行ったら、精密検査が必要と言われて、検査したら余命一年だって。まあ、なんとかなるわよ」
半年後、伯母さんは、容体が急変して、亡くなった。
棺の中の叔母さんはすっかり痩せていて、美しかった。
火葬が終わり、骨壺に骨を入れた。伯母さんは灰と骨になっていた。
人は死んだら灰になるのよ。
夢子は、伯母さんが教えてくれた気がした。