
一問精読「入試地理」の実況中継(vol.1) 扇状地の変則的土地利用(明治大2024)

この講座は、よく考えられていると私が思った実際の大学入試における地理の問題を考えていくという連続講義です。本日、第一回目は明治の2024年の問題を扱っていきます。手許に配られたプリントがありますから、それを読んで、まず自分なりの答えを考えてみてください。 読みづらい場合はPDFも用意しましたから、地形図の細かい所を読むためにはそちらも活用してください。それでは三分ほどとりますから、各自取り組んでください。
そろそろ三分経ちましたでしょうか。それではさっそくこの問題についての考え方というのを見ていくことにします。まず問われていることですが、五つの選択肢のうち、不適切なものを一つ選べということになっています。 こうした問題では、消去法で選択肢を消していくのもありですが、できれば、これはここが違うというのを明確に指摘したうえで答えられるようになるのが望ましい。もちろん実際の試験場では、わからなくて消去法、というのもあるかもしれないけれども、初めから目指すべきではない。これは大事なことなので、ぜひ覚えておいてください。
それからもう一つ大事なこととして、問題のテーマを読み取ることです。この問5は5つの選択肢がありますが、すべてあるテーマが共通していますが、それはなんでしょうか
学生A「水と生活の関係、でしょうか」
そうですね。この設問には水がもたらすプラスの側面とマイナスの側面について、人間がどう付き合っているのか、ということが大きなテーマとしてある。そのことを抑えるのが大切です。そのうえで、その水をより具体的に「河川がもたらす水」と絞りこめたらベストな認識といえそうです。なぜなら、その認識ができたなら、この問題はすぐに解けてしまうからです。それはいったいどういうことでしょうか、実際の選択肢を見ながら確認していきましょう。
まず①、これは川が東から西へ流れていること、堤防の切れ目が下流のほうが広くなるようになっていることから判断して◯といえそうです。
同様に河川氾濫時の記述をしている③および④もついでに見ていきましょう。
③は、直感的にも合っていそうです。裏付けのためにいちおう地図を確認してみますが、多少の集落はあるにせよ、川沿いはいちめんの水田が広がっていますから、やっぱりこれも◯でしょう
次に④、霞堤が接続されている箇所は、ちょっと細かいですが見当たります。その理由として、洪水時の湛水地域を減らす、というのも理解できます。よって◯でしょう。
ここまでは河川の洪水関連の記述を確認し、どうやらすべて◯であるということを確認しました。次に、そうでない選択肢の②と⑤を検討しましょう。
⑤はすんなりいく人と、引っかかる人が出そうですから、まずこちらからちょっと考えてみましょう。結論としてこの選択肢は〇、即ちダミーなのですが、異論がある方も多いんじゃないかな、ちょっと発言してみてください。
学生B 「単に川沿いに立地している発電所というだけで、水力じゃない発電所の可能性はないのですか?」
確かに一理あります。水力だけでなくて、ほかの発電方法かもしれない。せっかく質問が出たところだから、授業ということだし、主だった発電所の可能性をひとつひとつ検討していきましょう。
じゃあまず、この地図のところで、これはあり得ないだろうという発電方法を挙げてみてください
学生C「原子力発電所と地熱発電所は無さそうです」
いいでしょう。そもそもこんな内陸の、しかも集落の近くに原発は置けないから、原子力というのは考えるまでもなく除外できます。地熱も同じで、地図の範囲はあきらかに火山の近くなどではないから除外です。
次に火力発電所も除外できます。なぜだか分かったら発言してみてください
学生A「火力発電所は石炭や石油が主な火力源で、石炭や石油は大部分輸入に頼っているから、輸送費のおさえられる海沿いに多く立地するからです。」
その通り、完璧な解答です。ちなみにですが、昔は内陸にも火力発電所がありました。それはどこかというと北海道などで、まだ国内の炭鉱、夕張とかで採炭をやっていた時代の遺物です。国内の炭鉱は内陸が多いですから、必然的に輸送費を抑えられる内陸に火力発電所が立地していました。もっとも国内での石炭採掘やそれに伴う火力発電は、少なくとも受験地理においては過去のものとして、考慮しなくてよいでしょう。
ここまで原子力、地熱、火力と可能性を潰してきましたが、その他に考えられるとしたらバイオマスや太陽光があるかもしれません。これはちょっと難しいかもしれない。
国内のバイオマス発電は木質か廃棄物かに分かれますが、前者ならもっと山のほうの、不要木材などが供給しやすいところに立地するはずですし、後者はもっと都市部のゴミの集積場とか、家畜や畑などの堆肥が得やすい大規模な牛舎とか一面の畑のような場所になるはずです。
太陽光発電だとしたら、河川沿いにソーラーパネルを置くことになりますが、それだと洪水時に被害を受けやすいと考えると除外できます。
さて、これでだいたい水力だろうというのが納得していただけると思います。ただ、こうしたしらみつぶしのような手段はあくまで授業としてやっているだけですから、実際の試験会場ではこんな時間を使っていて一つ一つ潰していてはいけません。だいたいなんですが、地形図の読図問題で、川のそばに発電所があったら、とりあえず河川の水力と判断していいと思います。極論をいえば地形図や地図記号からはただ発電所があると読み取れるだけで、それが水力か火力かなんて読み取れないわけです。そういうような厳密なところは行ってみないとわからない、つまり地形図からは断定ができないという選択肢は、だいたいのケースにおいてダミーと判断していい。これはちょっとしたテクニックなので、覚えておいて損はありません。
これもまたちなみにですが、海沿いに発電所の地図記号があった場合、これはちょっと判断を保留するのが賢明です。なぜなら、さっき見てきたように、原子力、火力はいずれも海沿いに立地しますし、大きな風車を立てて海からの風を受けて発電する風力発電も、基本的には海沿いです。
海沿いの発電所の見分けかたはざっとですが説明しておきましょう
①発電所の周りに他の施設があるかないか
これで原子力か、それ以外かがざっと分けられます。そのうえでそれ以外は
②発電所の周りに大規模な港湾や工場があるかどうか
ここで火力と風力を判別します。もし火力ならば、輸入燃料が入手しやすい港湾沿いに立地し、発電した電気を周辺の重工業地帯に一部供給する、というケースが多い
いっぽう、風力発電はあまり人気のない海岸に多いです。日本海沿いを走る羽越本線の山形あたりの車窓には、風力発電の風車がよく目につきます。もっとも地図記号には風車の記号がありますから、他の発電所からははっきり区別できることが多いので、そこまで厳密に認識する必要はありませんが、こうした海岸発電所の分類を抑えておくと、何かの時に役立つかもしれません。
さて②を見ていきます。扇央に水田が広がっている、という記述は、教科書をしっかり読み込んでいる人にはおや?と思われるはずです。一般的に、扇央部分は地下水が伏流し、粒の粗い砂礫が堆積するため、水はけがいい。だから水田にするには適さなくて、果樹園が広がっている。そう教わるはずです。けれども、問題の地形図を読むと、たしかに扇央付近に水田がいちめん広がっている。なんか教科書と違うなぁと思うわけですが、何らかの方法で水を得ているらしいことはわかる。しかし扇央部分には〜水田が広がっているという骨格部分は当たっているらしい。そうするとより細かい部分に粗があるのかもしれません。
そこで②をもう一度よく読むと、水田における水源が「湧水」となっていますが、これが間違い。河川の北側、地形図の中央付近に七ケ用水とあり、この用水は枝分かれして、毛細血管のように田んぼのあいだに張り巡らされているのがわかるかと思います。つまりこの②の選択肢は、湧水という部分を河川からの用水により、と書き換えれば◯になるはずでした。
ちなみに冒頭のほうで、この問題のテーマを「河川の水と人間の暮らしのかかわりと見破れれば、ほとんど答えが出たようなもの」と言いましたが、それはこの②の選択肢が、唯一湧き水の話をしているというところと関連しています。つまり、河川の水がもたらすプラスの側面(水力発電)とマイナスの側面(洪水)というテーマのなかで、湧き水という選択肢はやや外れたものと位置づけられ、内容を精査しなくとも、どうやら怪しいというのがわかる、ということです。
問5 正答 ②
さて、ひとつ疑問に思うのは、なぜこの手取川では、セオリーに反して扇状地の扇央部が水田になっているのかということです。それを解く発展問題を用意しましたから、取り組んでみてください。60字の論述ということですので、考える時間を五分ほどとります、自分なりに解答欄を埋めてみてください。

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