営利活動とオープンなものづくり文化が共存するために
近年、インターネット上におけるものづくりコミュニティと企業の営利活動について考えさせられることがいくつかあったので気持ちを記します。
コンテストのように何かに選ばれたら賞金が出る話でもなく、ただ自らの工夫やアイデア、成果物などを公開して、それを見た人がさらに改良して発展させたり別のアイデアを公開し、結果的にコミュニティ全体の知見が溜まりみんなに還元されていく、そのような期待を共有しながら発展してきたのがインターネット上のオープンな文化です。ソフトウェアはもちろんのこと、近年でも 3D プリントや自作キーボードなどはその流れで盛り上がりを見せています。
一方で企業活動は利益を生み出すことを目的としており、特に知財の権利化というのはアイデアから他者を遠ざけて使用できないようにするクローズドな行為でありオープンとは真逆といえます。もちろん研究開発に投資をして利益を追求する企業がそれを行うのは悪いことではなく当然の権利であり、そもそもオープンが善でクローズドが悪だという話ではありません。
ただしこの両者には一定の距離感が必要だと思います。特定の事案に限った話ではなく、工業、エンターテインメント問わず「外部の一般人が企業にアイデアを送る」という構図はお互いが傷つくトラブルの種でしかありません。このテーマは知財関係の講義やセミナーでたびたび取り上げられるように長い産業の歴史で発生した数々の事例を見れば明らかであるし、いくつかの企業がわざわざ「アイデアを送ってこないで」と表明しているのもそのためです。
受け取りを拒否するのはコミュニティの温かさに比べると一見冷たい印象がするものの、その状態であれば企業側も自らの生み出したアイデアをもとに活動しているという前提を保つことができ「我々とは無関係の話」「勝手に送ってきただけ」という図式がはっきりするし、送った側が「関わったはずなのにないことにされた」と傷つくのを防ぐことにもなるためトラブルを避けるために必要なスタンスといえます。
基本的には両者が「企業に送らない」「外部から受け付けない」の基本を守れば問題ないですが、ごくまれに両者ともに意図せずにその構図が発生してしまう場合もあります。特に近年、インターネットを中心としたインフルエンサーがものづくりビジネスに参入することが増えており、もしその人物が不特定多数の人々からアイデアが集まる状態にいて、後から「実はこんなの作ってました」と発表すると、その期間においても「企業=個人」になってしまいます。
もしそのジャンルに関連するビジネスにすることを決めたのであれば、そのタイミングでまずその旨(今後は営利目的で動くこと)を表明してオープンな流れと一定の距離を保ってから進める。それだけで多くのトラブルを防げるはずです。
誰もが知るような大手企業のソフトウェアですら営利目的ではない個人たちによって開発されたオープンな活動の成果物をいくつも活用しているように、この時代において人々の行うオープンな活動は単なる個人の趣味の範囲に限らない、社会を支える人類の貴重な共有財産といえます。だからこそ営利活動をする側にも、できるだけお互いを傷つけることなく両者の活動が共存していけるような配慮を誰もが持っているといいなと思いました。