夜の羽田空港
屋上に出て、かっけぇ〜と思わず声が出た。
まだ飛行機に乗ってないのに異様な達成感。パスポートも持っているし、ここまで来れば大丈夫な気持ちに早くもなっている。
会社を退勤する時にまさかのバックで駐車してある車にぶつけ、本当に不安なスタートを切った。しかも車の持ち主とは連絡が取れなかった。警察と保険会社に、今日から2週間海外に行くので基本は連絡が取れない、と告げ狼狽えさせた。代理の方は…と言われ、配偶者も今海外でそれに会いに行くのです。と伝え、悲しい顔をさせた。
社員が車をぶつけたというのに怒るどころか若干半笑いで、え?トラブル起きるの早くない?とコメントした上司が代理を名乗りでてくれた。全員に対してナチュラルに姫プレイをかます30代男性の、ノブレスオブリージュをみた。心底感謝して平謝りとお礼を述べた。
一旦出来ること、警察と保険屋に連絡をとり、その場にいた大人全員に平謝りし尽くす、をしたので病院に向かった。
2週間の海外旅行出発の2日前に、痒みを覚えたのだ。まさかの股間に。
最悪なタイミングだな〜!と驚いた。クソ安い航空券で5時間のフライトの後に6時間のトランジット、その後10時間のフライト。この間おそらくシャワーを浴びられないので、股間が蒸れてかぶれる不安はあった。が、その前に痒くなるとは思っていなかった。
抗生物質を飲んだ際、カンジダになったのも友人2人との京都旅行数日前だったな…と、自分の股間と自分のスケジュールの因果に思いを馳せる。
痒みだけで止めたいし、またカンジダだったら最悪なので慌てて産婦人科に行き受診した。
膣錠剤というパンチの効いた文字が印字された薬を処方され、空港の保安検査で引っかかりたく無いなぁと不安にかられる。
痒いよりはマシだろ!駆け込みなのに診もらえててよかったろ!と自分にいいきかせ、手荷物に薬をいれた。
本当に出発までが長かった。
配偶者の関係会社の日本人に片道400kmを送迎させてくれと言われ、ありがたい!とホテルと航空券をキャンセルしたら、翌日無理だと言われ丁寧にキレた。
現地在住の日本人の方にガイドを頼めるサービスを利用しようと試みたら返信がなかった。
出発3日前にようやく繋げてもらったガイドさんからの返信は1日前で途絶えている。
しかし、もう、全然大丈夫!って気持ちになってしまった。
吉野家を食べながら麦茶を飲み、ひたすらビールを飲む外国人の団体の知らない言語の談笑にもうひとり旅が始まった感慨に耽っている。
会社を欠勤して、お金をかけて、目眩のする距離を長時間移動して、好きな子に会いに行く。
最高にロマンチックだ。
車はぶつけたし股間も痒いしガイドと連絡は取れない。しかし、もうひとり旅が始まった実感で自分に酔い出している。
生きるのが年々上手になっているな、と感じる。
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