音韻論入門 II

音韻論入門 I では、隣の音に影響されて音が変化することに関して見てみました。新しい知識でしたか?そう感じるかもしれませんが、N と M の使い分け方を知ったのではなく、ご自分が使い分けていた事を知ったわけですよね。「自分が知っているということを知る」という言語学の魅力のひとつかもしれません。

今日のもそんな感じです。

さしすせそ

調味料の話じゃありません!
さしすせそ、サ行ですね。なんの変哲もないように見えます。五十音って割とよくできていて、アイウエオ (a,i, u, e, o)という5つの母音があって、次は kという子音をくっつけて、カキクケコ。ka, ki, ku, ke, ko ですね。サシスセソはどうでしょうか?

sa, si, su, se, so

これで問題ない気もするのですが、いわゆるローマ字で「し」は shi って書きますよね。

sa, shi, su, se, so

si ですか? shi ですか?どっちが本当なんでしょうか。「し」を発音してみてください。「さすせそ」の s と同じですか?そんな事言われても困りますよね。ちょっと英語で考えてみましょう。まずは「す」で行ってみましょう。

Sue
shoe

「スー」さんという人の名前と、靴ですね。「スー」と「シュー」ですね。さて本題の「し」です。

see
she

見る、と彼女。別の音ですよね。カタカナで書くと「スィー」と「シー」ですね。Sue と see が同じ s で、shoe と she が sh ですね。

日本語の「し」は shoe と she の sh ですよね。 s ではないですね。判決が出ました。サ行は

sa, shi, su, se, so

と発音されていますね。「し」の子音は「さすせそ」とは違う子音です。

五十音表は間違っている!サ行には「し」という似てるけど違うやつが混入している。

仮説としては悪く無さそうです。その可能性もありそうですね。「し」の発音だけ「さすせそ」とは違いますから。「し」は縁起が悪いから、とかの話だったりもしなさそうです。




「し」が本当に混入しているのか、考えてみましょう。不動産の話です。

貸す

「貸す」って動詞ですね。発音は

kasu

ですよね。ご同意いただけますね。カス (kasu) って発音しますよね?さて、それでは「貸す」を頼んでみましょう。

貸したい

出ました「し」。これどう発音しますか? カシタイ (kashitai) ですよね?カスィタイ (kasitai) とは言いませんよね。そんなん言われたら絶対借りちゃダメなのが分かります。

困りましたね。ここにも混入してるのでしょうか?

五段活用とか嫌な思い出しか無いので、あまり考えたくないんですけど、「貸す」って言うのが kas + u いわゆる終止形ってやつですね。そうすると、いわゆる連用形「貸したい」は kas + itai です。歩きたい、泳ぎたい、立ちたい、氏にたい、遊びたい、読みたい、蹴りたい、どれも itai です。

痛いですね〜、やっぱり itai をくっつけるだけです。

「貸したい」も kas + itai のはずです!

しかし「カスィタイ」とは言いません。「カシタイ」と言います。日本語には si 発音は無いんです。あったとしても無理矢理 shi になります。「カスィタイ」なのに「カシタイ」と発音されます。

si の前では sh になる。

これです。si という発音はなくて shi と発音されてしまうんです。kasitai であっても kashitai になるんです。



シャ行ってありますよね。

しゃ し しゅ しぇ しょ

ローマ字で書くと

sha, shi, shu, she, sho

「しぃ」なんてなくて、ただの「し」です。「しぃ」shi はサ行に併合済みなので存在しませんね。


si の前では sh になる。日本語ではそうなってます。気づいてなかっただけです。次の音韻論 III ができ次第ここにリンク貼りますね。

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