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鉄色少女は、夢を見る。
北風に乗ってやってくる雁たちは、首都の風を知るという。アマリリの一族は狩師として雁を撃ち、最も厳しい季節の生計を立てていた。
村オサの持つ水晶玉がそうするよう示した。だからアマリリも狩師になる。彼女の生まれるずっと前から、そのように決まっていた。
「だが、君は学者になりたいんだろう」
男はいとも容易く、彼女の秘密を口にした。父の戦友を名乗る男だった。父の戦死をアマリリに告げた男だった。薄汚れた軍服を着て、人を撃つための銃を携えていた。
「誰から聞いたんですか」
アマリリは低く尋ねた。彼女の鳥撃ち銃は、今は雁の群れに狙いをつけている。雁たちが沼の水面に羽を休めているのが見えた。
「君の親父さんに。娘を首都に行かせるために、兵士になったと言っていた」
「……私は狩師になります」
首都。鋼鉄と蒸気の都市。合理と論理が支配する議会に迷信深い呪術師の影はなく、ガス燈が照らす市場は眠ることを知らない。何より、首都には学園がある。
アマリリにとっては、あらゆる意味で遠い場所だった。
「兵士になどならなければ、父も死なずに済みました」
引き金を引く。銃声が轟き、散弾が雁の一羽を捉えた。沼地の群れが一斉に飛び立つ。
「良い腕だな」
「村一番ですから」
雁の群れは輪を描くようにして池から飛び去りつつある。
「君の論述を見たよ。十分水準に達していると思う。君はまだ狩師じゃないんだろう?」
「同じことです。誕生日は明日ですから」
十五になった村人が行う成人の儀。そこで改めて水晶玉に認められれば、彼女は正式に狩師だ。仕事を持った村人が、学園を夢見る余地はない。
アマリリはずっと、その日を待ち侘びてきた。
「勿体ないな。世界は広いぜ?」
男が小銃を構える。――直後。
再び轟音が沼地をどよもした。群れの一羽が空に羽を散らす。
「世界は広い」
男は繰り返した。
今の雁は、男の小銃弾が撃ち抜いたものに、違いなかった。
【続く】