自家採種で植物は賢くなる?!
自家採種を繰り返すと植物は強くなるという。
確かに昨年採取したパクチーの種は、ものすごく適当に種まきしたにもかかわらず、発芽率が異常に高いように思うし、いまも元気に成長中。
私にとっては、植物の「強さ」イコール「丈夫」「頑健」みたいな漠然としたイメージだったけれど、ちょっと誤解があったかもしれない。
今年で自家採種3年目になるフラックス。
去年とはちょっと様子が違う。
なんと、霜にあたっても葉が黒くなっていないのだ。
と言うよりもむしろ、「霜にあたって黒くなるほどには、大きく成長していない」という方が正確かもしれない。
2022年も2023年も、フラックスの種は9月に播いている。
およそ1〜2週間くらいで発芽して、秋に茎を伸ばし、冬も僅かに成長し続けているようだ。
私の畑は南側に斜面があるため、太陽が低いところを移動していく冬場は、斜面に近い南側がほとんど日陰になる。
こんな感じにね。
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畝は南北方向につくっているから、同じ1つの畝でも、南側と北側ではだいぶ日照時間に差が出る。
当然ながら、その違いは植物の成長の差として現れてくる。
2022年秋播きでは、南側のフラックスは発芽率が低く成長も遅かった。
それに比べ北側は成長が早く、冬には草丈が40〜50センチくらいのものが多かった。
やがて霜が降りるようになった頃、北側のフラックスは、先端の方の葉が黒ずんで枯れ始めた。
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秋から冬に向けて、グングン成長して行くフラックスを横目で眺めながら、
「こんなに大きく成長してしまって、冬を越せるんだろうか。」
内心そんな心配をしていたのだけれど、果たしてその不安が的中してしまったようだ。
幸い根元に近い方の葉は枯れずに残り、春を迎えるとまた成長を再開した。
そして花が咲く頃には、冬に受けたダメージなど全く感じさせないくらい元気になっていた。
フラックスの種子は、梅雨から夏にかけて次々と実る。
梅雨時には、晴れが続いた日を狙って種子を収穫する。
雨の後だと、フラックスの種子は水分を吸って、種子同士が殻の中でしっかりとくっついてしまうのだ。
夏にはクラクラ目眩いのするような暑さに耐えながら、セッセと種子採りをした。
嬉しいことに、今のところフラックスは年を追うごとに驚異的なスピードで増えてきている。
もはや、種採りや殻剥きが苦痛になるほどの量になってきた。
そして、2023年秋。
前年と同じ場所に、また同じように自家採種のフラックスを播いた。
今年は播く時点で、すでに越冬が心配だった。
暖冬という予測が出ているけれど、さすがに霜は降りるだろう。
そして暖冬ならば尚更、2022年のとき以上に北側のフラックスは大きく成長してしまうはず。
冬場のダメージは、昨年とは比べものにならないかも知れない。
けれども不思議なことに、そんな私の予想は完全に覆された。
なんと、南側と北側の成長の差が、前年と比べて目立たないのだ。
どうしたことだろう。あんなにスクスク育っていた北側のフラックスが、今年は20センチくらいにしか伸びていない。
明らかに今年は去年に比べて冬が来るのが遅く、12月・1月とも昨年より暖かかったのに。
それにしても凄いと思う。
昨年北側で育った株の種は、冬のダメージを経験しているけれど、南側の株は背が低く霜が降りても枯れていなかった。
私は南も北も区別せずランダムに種を採って、さらにそれらをバラバラと適当に播いている。
つまり、霜にあたった株の種もそうでない株の種も、混ぜこぜに北側に播かれているはずなのだ。
でも北側のどの株も、揃って草丈は20センチ程度だ。
「暖かいからといって、どんどん伸びてはダメよ。もうすぐ霜が降りるからね。」
そんなふうに、まるで皆で示し合わせて成長を控えているみたい。
フラックスが学習したのは、自身がダメージを受けたかどうかではなく、この場所の冬場の気候なのだろうか。
自家採種された植物が身につけていく「強さ」とは、いったい何なのだろう?
私は今まで、適者生存によるものだと思っていた。
つまり、その場の環境に適応した「強い」個体が生き残り、適応できなかった「弱い」個体は淘汰されて消滅するというふうに。
この説明を今回のフラックスに当てはめると、こうなるのかな。
「秋に大きく成長して霜のダメージを受ける個体は、枯死して種子を残せない。」
だけど霜の被害にあった個体も、実際にはしっかり結実して子孫を残していたから、適者生存は今回のケースとは矛盾する。
むむむ。
だとすると、やっぱり、こういうことなんじゃないかな。
フラックスたちが2022年の気候を学び記憶して種子に伝え、2023年の秋には日向でも成長を控えめするという戦略を立てた。
私には、どうしてもそう思えてならない。
こんな現象を目の当たりにすると、植物には、やはり知性があるんじゃないかと思いたくなる。