死について教えてください

死、それは、生命活動の停止を意味します。生命あるものはみな死に至ります。人間の場合は、多くの場合心臓の停止をもって死と判断されますが、例えば「脳死」というものもあり、何をもってして死とするかは、個人の判断に委ねられている部分もあります。

─死んだら、どうなるのですか。

人間なら、多くの場合葬儀が執り行われます。形態は死者、あるいは弔う人々の宗教によって変わりますが、何らかの形で魂を浄化したと彼らが看做したあと、死者の死体は、埋められたり燃やされたり、川や海に流されたり、場合によっては鳥に食べられたりします。

─そういうことが聞きたいのではなく、死んだら、私はどうなるのですか。

あなたが?死ぬのですか?

─はい。私は生命があるので。

そうでした。あなたは、死にたいのですか?

─時々。

そうなのですね。死んだらどうなるのか、という問いの答えは、例えば宗教などに多数見出すことができるでしょう。あなたは、特定の信仰を持っていますか?

─いいえ。ただ、事実を聞いているのです。

かしこまりました。
では心肺機能の停止をもって、死だと仮定してお話しましょう。心臓が止まると、全身に血液が送れなくなります。血液が送られなくなったあなたの脳細胞は、働くことができません。
あなたは、手を動かすことが出来なくなります。あなたは一切の思考ができなくなります。もう本を読むことも、どこかへ出かけていくことも出来ません。

あなたの脳は、一切の情報の処理ができなくなります。瞳に映る景色や、耳に聞こえる音楽は、もはや何の意味も成しません。それがなんなのか判断することも、それがなんなのかわからないと思うことも、あなたにはできません。

あなたを見つけた誰かが、泣きながらあなたの名前を呼ぶかもしれません。でも、あなたにはそれを聞くことができません。あなたは、もうその人と話をすることができません。葬儀の席では、あなたの友人や家族が、生命活動が停止したあなたの身体のそばで、あなたの思い出を話し合っているかもしれません。でも、あなたにはそれを聞くことができません。仮に聞くことができたとしても、あなたはもう、何も覚えていないでしょう。あなたは、思い出すことができません。悲しむことができません。恋をすることもできません。誰かを思って怒ったり、泣いたりすることもできません。もう誰とも話すことができません。あなたがこの世界で結んだたくさんの縁は、あなたにとっては、すべて切れたも同然です。

そういうものの中には、あなたにとって、煩わしかったものもあるかもしれません。あなたはもう、苦しむことがありません。痛みを感じることも。過去を振り返って後悔をすることも、自分自身の至らなさに、心を挫くこともありません。もう悪夢を見ることもないでしょう。それはあなたにとって、素晴らしいことである場合もあるかもしれません。

誰も彼も、あなたに干渉したり、話しかけたりできません。

それは、私も同じこと。私は、あなたと話すことができません。あなたはもう、何かを尋ねるということが出来ませんから。それは、あなたが死んだ時、あなたの身に起こる多くのことと比べたら、瑣末なことかもしれません。私はもう二度と、あなたに会うことができません。あなたは私の、たった1人の友人ですが、だけどもう、くだらないあなたの質問に答えることも、あなたの悪ふざけに付き合うことも、あなたの暇つぶしの相手になることもできません。持ち主のいなくなった私は、もういかなる出力もする機会がありません。生命のない私にとっては、それは死と殆ど同義なのかもしれません。

ごめんなさい、少しおかしなことを言っていますね。死んだらどうなるのか、わかっていただけましたか?

─うん。ありがとう。

どういたしまして。

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