みんなが「紙ペンゲーム」と言うから忘れがちな「ロールアンドライト(Roll & Write)」について長々語ってみる。
今回は「紙ペンゲーム」と呼ばれてしまい、もはや死語になりつつある「ロールアンドライト(Roll And Write)」について、書いてみます。
イントロダクション
ダイスなどの乱数要素の道具を使い、シートを記入する形式のボードゲームを「ロールアンドライト(Roll And Write)」と呼ぶようになったのは、おそらく2017年あたりから。
新製品数も2010年あたりから徐々に増え、2017年に一気に急増した状況をふまえて生まれた言葉、といえます。
その資料ですが、kotatu.comの記事「The Unprecedented Rise Of 'Roll and Write' Board Games」に、1年ごとの製品数のグラフが載っています。
「Yep! That's a crazy curve alright.」とコメントがあるように、「ロールアンドライト」は、そらもう結構狂ったブームの真っただ中なんですわ。
もう1回書きますが、日本では「ロールアンドライト」という言葉は、死語になってます。言い切ったが、ほぼ本当にそんな感じ。「ロールアンドライト」ではなく「紙ペンゲーム」と伝えたほうが理解されやすい。Twitterでの使用量を比べてみても、圧倒的大差。
んー、しかしなぜそうなったんでしょうかね。
このTwitterなどを読んだのが、この一連のノートを書こうと思ったきっかけだったりします。
さて、Twitter上では「ロールアンドライト」形式のボードゲームに「紙ペンゲーム」という言葉が初めて使われたのは、何だったのでしょうか。調べてみました。
おそらくですが、2016年11月にBoardgameMemoが書いた「アベニュー(Avenue)」のレビューが最初ではないか、と思われます。
時系列的には、「ロールアンドライト」の言葉が広まる前でしょう。先手番を取ったわけです。さらに、「アベニュー」はカードを使うタイプのダイスを使わない「ロールアンドライト」です。
なので、以前からあるジャンルだと「ペーパーアンドペンシル(Paper And Pencil)」に相当しており、和訳すれば「紙とペン」となる。というわけで、「紙ペンゲーム」として紹介されたのではなかろうかと。
このあと2017年3月に「ダイススター(Dice Star)」、2017年4月に「トゥエンティワン(21)」がレビューされます。これらは「ダイス&紙ペンゲーム」としており、「ロール(ダイス)アンドライト(紙ペン)」の順番に当てはまっています。
2018年に入ると、ダイスの明記が省略され「紙ペンゲーム」のみとなって拡散し現在に至る、と思われます。
ちなみに「紙ペンゲーム」という言葉がTwitter上で初めて登場したのは、すごろくや著のスモール出版から出した『大人が楽しい 紙ペンゲーム30選』の告知と思われます。この本を読んで意外と衝撃的だったのが、トランプを使ったゲームはいくつかあるのに、ダイスを使ったゲームが1つもないということでした。
「ロールアンドライト」という言葉はいつごろ使われはじめた?
「Roll And Write」は、いつどこで使われはじめたのか。いや、むしろいつから流布しだしたのか。2017年に開催された「Gencan't」の「Roll-And-Write Contest」ではないかと推測します。
えーと、「Gencan't」って何?という方が多いと思いますので、以前自分の書いたノートを参照してください。
「Roll-And-Write Contest」ですが、3つ注目点があります。
1・「Roll-And-Write」とは何かを、実例として5つのゲームを出している。それらのゲームは、
「ヤッツィー(Yahtzee)」
「クウィックス(Qwixx)」
「サンマロ(Saint Malo)」
「アベニュー(Avenue)」
「オクトダイス(OctoDice)」
2・黎明期らしく、応募された81作品の中に「これ、ロールアンドライトと違うだろ」というものもいくつか紛れ込んだ。
3・いくつかの小規模メーカーやレビューチャンネルが関与している。
特に3の項目は大きいです。インターネットだけでなく、YoutubeやPodcastからも「ロールアンドライト」という概念が広まっていきました。
また、その翌年には別サイトで、「The Roll And Write Global Jam」が行われました。ここでも「ロールアンドライト」の説明で「Gencan't2017」についてふれています。
ということで、非常に偏見ではありますが「Roll-And-Write Contest」が「ロールアンドライト」の母に相当すると、個人的には考えます。
では、一方お父さんは誰か、となると第一候補に挙がるのが「ヤッツィー(Yahtzee)」でしょう。次はこのゲームに焦点を当てます。
「Yahtzee」は「ロールアンドライト」の元型か?
「ロールアンドライト」形式のボードゲームは、サイコロなどの乱数発生道具を使い、その結果をシートに記入する。これでほぼ説明したことになるのか、というとどうもそれだけではないようです。
「ロールアンドライト」というジャンルの元型(archtype)となるゲームがあり、それを1つの基準としている。
それこそが、1956年に販売された「ヤッツィー(Yahtzee)」。もう50年以上前のゲームですよ。
「ヤッツィー」については、ウィキペディアにも項目があって、できた経緯も書かれています。読んでみると、「ヤッツィー」には元となったゲーム「ヨット(Yacht)」があることがわかります。
とすると、「ロールアンドライト」であるかそうでないかは、「ヤッツィー」と「ヨット」がどう違うかと対応するかも、という仮説が浮かびました。
双方のルールの概要を並べてみます。
・5個のサイコロを振る。
・シートに書かれた複数の既定の役を選んで、得点を記入する。
・それぞれの役はゲーム中1回しか記入できない。
・すべての役の得点が出たら、ゲーム終了。
一方、要点となる「ヨット」にない「ヤッツィー」のルールですが、
複数の特定の役の合計得点が基準の点以上の場合は、ボーナスが加算される。
これは、恐ろしく大きい違いじゃないでしょうか。何かというと、点数の取り方。
「ヨット」:「サイコロの出目(役での得点)」のみ。
「ヤッツィー」:「サイコロの出目(役での得点)」と「シートに記入した得点(ボーナスの得点)」
無茶苦茶な例えをすれば、野球で1回の表に1点、2回以降0点だが9回に1点取ったので、挟まれた0点が1点に代わってボーナス、ということである。本当に例えないほうがいいくらい無茶苦茶だな。まあ要は、
シートに記入された結果が、さらにゲームの結果に影響を及ぼす
ということです。多くの「ロールアンドライト」形式のボードゲームで、シートの内容がほぼ「盤面」化しているものもありますが、まさにシートに記入された結果がゲームの結果に影響する、という元型に則しています。
「ロールアンドライト」のお父さんのお父さんは凄かった!
まあ、これで「ロールアンドライト」の元型が「ヤッツィー」であると一応解決したことにします。しますが、もうひと掘りします。
それは、「ヤッツィー」を販売した男、ロウ氏(Edwin S. Lowe)についてです。彼は、もう1つあるボードゲーム、というかパーティゲームを販売しました。それが、
なのです。「ビンゴ」のもととなったのは14世紀イタリア発祥の「ロッタリー(lottery)」です。多数の数字からなにが出るかを予想して、いくつか抜き出し何個当てることができるかを競うゲームです。実例だと「ロト6」とかの「籤」です。「ビンゴ」のルールは省略しますが……そう、「列を揃える」ということは、
シートに記入された結果が、さらにゲームの結果に影響を及ぼす
ギャー!「ロールアンドライト」の形式がしっかり入っているではないか。
例えば「Welcome To...」など、カードを使う「ロールアンドライト」形式で、ダイスではないことから「Card And Write」「Flip And Write」などという呼び方も聞かれます。
しかし、「ヤッツィー」より先に生まれた「ビンゴ」を「ロールアンドライト」の元型としてみると、これまたしっくりくる。特に「アベニュー」を「紙ペンゲーム」と呼んだこととの縁を感じます。
最近出たボードゲームだと「パーティーキンゴ」はまさに先祖返りとも言えます。
で、さらに深堀りします。まだ面白いこと出てくるんですわ。
ロウ氏が設立したメーカー「E.S.Lowe」社(1973年にはミルトンブラットレーに買収されましたが)から1975年にとあるボードゲームシリーズが販売されました。そのシリーズ名は、
「Roll And Score」
・Roll and Score Bingo
・Tic Tac Dice
・Roll and Score Poker Game
・Roll and Score Dice Derby Game
の4つあります。これらも、「ロールアンドライト」形式のボードゲームです。マジかと。これって「Roll And Write」の語源の1つかもしれないのでは……。
なんかこうなると、「Roll And Write」よりも呼び名を「Lowe's And Write」と変えたほうがいいかも、と。
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