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最新IPRのやり方をトップ事務所&Square, Inc.の昨日から学ぶ

頻繁にPTAB の規則が変わり、判断基準も未だに定まっていないように感じるアメリカの無効主張の方法。
USで行う無効主張の代名詞IPRを、現在ランキング2位の弁護士事務所の手続きに見ていきます‼️

その前に最近のIPRの動向を最高裁判決から見ていきます。年数件しか知財の判例は出ないのに珍しいことに複数有ります。

1. SAS Institute最高裁判決

35 USC 318(a)は、PTABがすべてのクレームの特許性に関する最終判断を下すことを明記しているとしました。CAFCにおける判決を覆し、PTABがどのクレームに対してIPRを開始するか、そのような判断を許す裁量権は、法律で認められていないとしました。

審査すると決めたら、微妙な無効資料の組み合わせも判断する必要が有ります。IPRの実質審査率が落ちると言われていました。

2. Thryv最高裁判決では、米国特許法第315条(b)の当事者系レビュー(Inter Partes Review、以下、IPR)申請期限についての手続き的な話でした。

今回は関連少なく省略しています。

3. Oil States社最高裁判決はIPRは合憲。ってえらいそもそも論ですね。

(i) IPRおよび特許無効は、議会がUSPTOのような行政代理者に権限を適切に委譲している対象である。(ii) 修正第7条は、議会が今回のような憲法第3条の対象でない機関に決定の権限を適切に委譲する際、陪審員以外の事実認定者による決定に対して独立した障壁とはならない。


しばらく自分自身がIPRをしていないのと、IPRに関する最高裁判決も出たのでやり方も変わったのか分かりません。そこで現在のトップ弁護士事務所のIPRを見ていきます。

題材はなんでも良いのですが投資という趣味と実益を兼ねてスクエアのIPRにしました。スマートカードを読み取るポータブルリーダーに関する無効主張です。

スクエアのIPR

多くの件数を立て続けに提起しています。

U.S. Patent No.と PTAB Case No.と記号

8,286,875 IPR2019-01625 〇

8,286,875 IPR2019-01626 同上

8,281,998 IPR2019-01627 〇

8,281,998 IPR2019-01628 同上

9,269,084 IPR2019-01629 〇

9,269,084 IPR2019-01630 同上

9,016,566 IPR2019-01649 〇

9,311,637 IPR2019-01650 〇

9,443,239 IPR2019-01651 〇

9,613,351 IPR2019-01652 〇

9,818,107 IPR2019-01653 〇

9,818,107 IPR2019-01654 同上

お金を持っている会社だけあって豪儀です。

何故こんなに無効化をしているのかと思ったら案の定スクエアさんは訴訟をやられていました。

4361423 Canada Inc. v. Square, Inc.

4:19-cv-04311  Filed: 07/26/2019

上のIPR一覧では同上と書いた4件の特許について2つのIPRを行っていますね。ニコイチはやらない筈なのにということで後で詳説します。

余りの多さにIPRのなかでも一連の日付をエクセル管理しています。この当たりの見易さもトップ弁護士事務所っぽい。


ここでは右側に書かれたIPR2019-01651-54の4件、3特許のIPRについて見ていきます。

というか昨日口頭審理が有ったので間に合うように至急対応ですよ。

なお先ほどのニコイチのIPRですが忘れないように書いておきます。

9,818,107 IPR2019-01653 

9,818,107 IPR2019-01654 

が併存していて、最近はしないと言ってたのに嘘かよ!と無効のGr.(グラウンドとよび無効ロジックの塊です)を見比べました。

Claims 1-6 and 22-27

Claims 8-13, 15-20, 29-34, and 36-41,

の2つに内容を分けています。

特許のクレーム数が多いのでしょうがないですかね。USだと中間審査でスビーシーズという限定要求されることも多いのでさもあらんと思います。

日本語で言うとグルーピングでは無く、単一性違反になりそうな2つの特許なので潰すのも2件が必要だと言っているのと同義だと思います。

いずれのIPRも最も強いとGr1は「obvious by Valliani in view of Vrotsos.」という2つの特許です。

なので、この内容については以下で詳細に見ていきます。が、トップというからにはまず訴状等から見るに無効化を図るスクエアの弁護士さんは以下のようです。

For Petitioner:無効を申し立てしたスクエアの弁護士名と事務所名

David M. Tennant 、Grace Wang 、Anne-Raphaelle Aubry

WHITE & CASE

中堅どころでしょうね。

対する権利者であるカナダの企業の弁護士さんは、

For Patent Owner:

Jason S. Jackson、Niall A. MacLeod

KUTAK ROCK LLP

余り聞いた事が無いかと思います。

トップの出所はIPRのランキングを探していたらUnifiedpatentsという団体が発行している

Institutional Success IndeX (ISIX) – Petitioner Law Firm

が見つかったので抜粋し報告です。ここではIPRの成功率をインスチチュード(実質審査開始)などからランキングを求めていました。自身もIPRを代理するのでデータベース片手に上位に頼んでいます。

さてそのランキング1位のDuane Morris LLPに次いで2位にランキングされたWhite & Case LLPの名前が有ります。ここは無効率も高そうです。

ちなみに昨日のスーパーセルのIPRはレイサムという多分US一番単価の高い事務所に頼んでいます。ランキング外ですが、なにか?

では、IPR訴訟手続きをみてみます。

スクエアからの資料

ファミリー特許なのか4件を一括で審理されており、昨日の口頭審理のデモンストレーション(スクエア側の主張)をみると、対象特許やIPRによらず同じようなGr.をたてています。

Square v. 4361423 Canada Inc. IPR2019-01652のバワポ提出資料をみてもらいます。

ではもう少し詳細に書類を見ていきます。なお103条というのは非自明性。ひとつでも潰そうとはしていますがあくまでも予備の扱いです。

日本で言うところの特許など文献の組み合わせにより進歩性なしという主張です。

IPR2019-01652U.S. Patent No. 9,613,351

•Ground 1:•Claims 1-10 -Vallianiin view of Vrotsos under 35 U.S.C. §103(a)

•Ground 2:•Claims 1-6 -Bear in view of Lahteenmakiunder 35 U.S.C. §103(a)

•Ground 3:•Claims 4-10 -Bear in view of Lahteenmakiand Vrotsos under 35 U.S.C. §103(a)

•Ground 4:•Claims 1-10 -Vrotsos under 35 U.S.C. §103(a)

4つの大きな主張が有ります。最も強い主張、分かりやすいgr.1 にはgr.4のメイン資料が補足として用いられたロジックです。抜け漏れを無くし針も通さないことが実質審査インステテュートには必要だということでしょうか。

後で、追認する人用に無効資料の番号も載せておきます。

U.S. Patent No. 6,234,389 B1, issued May 22, 2001 (“Valliani”) 1005

U.S. Patent Application Publication No. 2005/0236480 A1, published Oct. 27, 2005 (“Vrotsos”) 1006

U.S. Patent Application Publication No. 2006/0032905 A1, published Feb. 16, 2006 (“Bear”) 1007

U.S. Patent Application Publication No. 2003/0183691 A1, published Oct. 2, 2003 (“Lahteenmaki”) 1009

さて、では無効対象の特許についてひとつの独立請求項をまずは上げておきます。

無効主張された突然の独立クレーム

ですが読む必要は特になく「支払い用ポータブルリーダー」の特許だと思ってください。

1. Claim 1

(a) Preamble: “A portable reader apparatus for reading a payment device having information stored on an integrated circuit incorporated into said payment device, the apparatus

Comprising

(b) Element [1.A]: “a sensor for reading information stored on said integrated circuit incorporated into said payment device

(c) Element [1.B]: “a controller coupled to the sensor for converting said information to a format suitable for transmission to a mobile communication device; and

(d) Element [1.C]: “a communication link for coupling the portable reader apparatus to said mobile communication device for the transmission of said information there between

(e) Element [1.D.1]: “wherein the sensor reads said information,

(f) Element [1.D.2]: “the controller converts said information into a format suitable for transmission to said mobile communication device and

(g) Element [1.D.3]: “[the controller….] transmits said information via the communication link to said mobile communication device, and

(h) Element [1.D.4]: “said mobile communication device transmits said information to a remote transaction server for processing a commercial transaction.”

図面はこんな3つのエレメントですね。

図示の説明です。

A POS device 12 (blue, similar to the POS device of the applicant admittedprior art (“AAPA”)

青いブロックはPOSシステムだそうです。

a communication device 14 such as a mobile phone (red,similar to the wireless communication device of the AAPA)

赤は例えばスマホです。

data over the communication network 26, such as the internet (id. 7:21-23) to a remote transaction server 18 (purple, similar to the remote computer of the AAPA), which transmits the data to a remote processor/issuer 20

紫はリモートシステムです。 

無効主張する資料

次に無効化するための特許です。

A. Valliani

Valliani discloses a point-of sale transaction system (depicted in Fig. 1, reproduced below with annotations) for reading and processing data from a smart card 230 (blue). The system includes a module 200 (red) having a smart card reader 260 plugged into a device 10 (green), which is a “portable computing device such as a laptop computer or a personal digital assistant (‘PDA’)”.

分かりやすくするための色合わせを行い何処に同じ記載があるか対比しています。

同じくバワポも組み合わせ特許も含め色を付けています。


クレームコンストラクションという用語の限定が争いの重要なファクターです。

ある用語が引例・無効資料と同じであれば潰せるし、違うなら異なり無効できない。

先の特許については3つのワードが争われています。センサーとコントローラなんて一般的過ぎて定義によってマチマチになるので争われます。

’239 claim 1: “A portable smart card reader device for reading a smart card having recorded information stored on an integrated circuit incorporated into the card…”

’239 claims 1 & 4: “[a] sensor for reading said / the recorded information stored on said / the integrated circuit [incorporated into said card]”

’239 claims 1 & 4: “a controller coupled to said sensor for converting the recorded information [stored on said integrated circuit] into an encrypted signal indicative of the recorded information”

カナダの特許権利者主張

これに対してデモンストレーションのバワポで特許権者の意見です。余り出来は良くなく冗長なので次の日本語まで飛ばしてください。

•“Vallianidoes not disclose the encryption of the information from the integrated circuit in module 200. Vallianionly discusses that ‘additional software can also provide data encryption and decoding’ somewhere in the system, with the only encryption explicitly described as happening in module 200 is when PIN data is manually entered by the user at the keypad and then encrypted.” (POR, p. 22)

•“Vallianidiscloses only the intent and capability to encrypt PIN information and provides no indication of any controller in the reader encrypting recorded information read from the integrated circuit.” (POR, p. 23)

•“The combination of Vallianiand Vrotsos does not disclose transmitting an encrypted signal produced by the controller and representing information stored on an integrated circuit.” (POR, p. 23)

•“[A] POSITA would not understand Vrotsos’s ‘smartcard read/write head’ to constitute a reader of a smart card integrated circuit.”(POR, p. 23)

•“Vrotsos does disclose the encryption of the card information, but the encrypted information is derived from Vrotsos’s magstripe reader 23.” (POR, p. 24)

更に組み合わせ先の特許です。

Vrotsos fails to disclose:

•(1) the claimed sensor for reading a smart card containing an integrated circuit

•(2) a controller for converting information from an integrated circuit into an encrypted signal suitable for transmission to a mobile communication device

•(3) transmitting a signal containing encrypted information from an integrated circuit

•(4) the further processing of card information by a mobile communication device.

読みたく無くなるぐらい文字ばっかりです。反面教師にしたいという例として敢えてあげます。

そもそも無効資料2つのまとめ方の違いから違和感を感じます。

さてそもそも何の特許か説明仕切れていないので、Gr.1の内容では特許権者側は無効資料が以下の点を説明しきれていないと主張している資料をみます。

簡単に言うとクレジットカードに付いている下記四角から情報を読み取りリモートで処理する、今では当たり前の技術について権利を持っているというカナダ企業の主張です。

(https://www.electroschematics.com/wp-content/uploads/2010/02/smard-card-pinout.jpg?resize=533%2C250)

VCC: Power supply input 電源供給

RST: Used itself or in combination with an internal reset control circuit.リセット

CLK: Clocking or timing signalクロック管理

GND : Ground グラウンド

VPP : Programming voltage input 電圧入力

I/O : Input or Output for serial data to the integrated circuit inside the card.入出力

クレジットカードについている四角いマークにはこんな仕組みになっていることが説明されています。

IPR手続きの流れ

IPRの嫌なところは提起から半年で中間テストの結果発表が行われることです。箸にも棒にもかからないとPTAB に判断されるとそこで終了、ゲームオーバーです。

今回のOrderを見ると

For the foregoing reasons, it is

ORDERED that parties’ joint proposal to change Due Dates 1–4 in IPR2019-01651, IPR2019-01652, IPR2019-01653, and IPR2019-01654, is

granted; and

FURTHER ORDERED that Due Dates 1–4 in each of IPR2019-01651, IPR2019-01652, IPR2019-01653, and IPR2019-01654 are changed to the respective dates marked in red in the table presented above for those cases.

Square, Inc. v. 4361423 Canada IPRより

口頭審理のデモンストレーションまで行ってるので当たり前ですが通過しています。

その後、スケジュール調整が行われます。

訴訟提起 September 30, 2019

DUE DATE APPENDIX

DUE DATE 1 ............................................................................. July 31, 2020

Patent Owner’s response to the petition

Patent Owner’s motion to amend the patent

DUE DATE 2 ...................................................................... October 23, 2020

Petitioner’s reply to Patent Owner’s response to petition

Petitioner’s opposition to motion to amend

DUE DATE 3 ..................................................................... December 4, 2020

Patent Owner’s sur-reply to reply

Patent Owner’s reply to opposition to motion to amend

(or Patent Owner’s revised motion to amend)

DUE DATE 4 ................................................................... December 28, 2020

Request for oral argument (may not be extended by stipulation)

DUE DATE 5 ....................................................................... January 19, 2021

Petitioner’s sur-reply to reply to opposition to motion to amend

Motion to exclude evidence

DUE DATE 6 ....................................................................... January 26, 2021

Opposition to motion to exclude

Request for prehearing conference

DUE DATE 7 ....................................................................... February 2, 2021

Reply to opposition to motion to exclude

DUE DATE 8 ..................................................................... February 10, 2021

という日程ですが、分かりやすくするための図示します。

左側の赤がスクエア、右側の青が権利者でそれぞれ専門家を召還して戦います。

紫はPTAB です。

昨日が口頭審理の日程でしたが、書面を見ていおきます。

Oral argument (if requested)

IPR2019-01651 (Patent 9,443,239 B2) IPR2019-01652 (Patent 9,613,351 B2) IPR2019-01653 (Patent 9,818,107 B2) IPR2019-01654 (Patent 9,818,107 B2)

II. ORDER

Accordingly, it is

ORDERED that a consolidated oral hearing for the above-listed cases shall commence at 1:00 PM Eastern Time on February 10, 2021, by video, and proceed in the manner set forth herein.

ということで昨日ついに口頭審理しています。

まとめというか所感

US訴訟って日本人からすると分からないのが主張するのが自分が召喚した専門家、質問するのが弁護士で、原告や特許権者が蚊帳の外ってことが多いんですよね。

昨日のデモンストレーションでも

・今回も多分、専門家の言葉の信ぴょう性を崩すとか(過去に共同研究してたから味方の言動であるなどなど)

・ロジックの不備を、専門家の口から新たに説明させたり(証言録取で強い点を敢えて相手側の専門家に言わせる)

・過去の録取の時に口走った言葉尻をとらえて叩いたり(裁判官ならぬPTABに理解を深めてもらうため再度キーワードを登場いただく)

していると想像します。

勿論一番大事なのはPTABの心証なのでパワポも見易く作って自分の側のパワポを当日の審理で中心にみてもらえるよう配慮します。

今回の103条非自明性なら組み合わせの示唆が有る点などは分かりやすく説明するのだと思います。

今回だとまた、デモンストレーションの文章にもあるように下記のような専門家の説明を戦う場だと思います。コロナ禍かつ遠方で見に行けないですね。

The objective of Vallianiis to produce a line of PCMCIA based products. See Ex. 2004 (Zatkovich Dec.) at ¶94-101. (POR, p. 27)


でIPRをするのは良いことか?

今回は併行して動いている地裁が止まったのでIPRに注力して潰しきれればいいので良かったと思います。

トライアルになると、文字通りそこらに歩いている人に特許の組み合わせを説明するイメージになりそれはそれは厳しいですから、、、

トップ弁護士事務所のIPRを見て来ましたが、実質審理の獲得のためにgr .1の主張は細かいです。二点見習いたい主張方法が有りました。

ひとつめが、クレームコンストラクションの用語について、当てはめを懇切丁寧に行うことです。ここではあえてなのか不利な記載も有ることを隠さず説明しているように感じました。

ふたつめが、先ほどの不利な点を組み合わせ資料で補足できると、これもエレメントひとつ、ひとつにじっくり書き込みされている点が凄いと感じます。当たり前だって声が聞こえそうですが90ページに抑えるため自明な点は、省きたくなるのです。それをクレームのエレメント

(d) Element [1.C]: “a communication link for coupling the portable reader apparatus to said mobile communication device for the transmission of said information there between

でも、今まで散々説明したのに資料Aと資料Bのコンビネーション、組み合わせの示唆を説明しています。

(e) Element [1.D.1]: “wherein the sensor reads said information,

でも資料Aと資料Bのコンビネーション、組み合わせの示唆を説明しています。

(f) Element [1.D.2]: “the controller converts

でも資料Aと資料Bのコンビネーション、組み合わせの示唆を説明しています。

これだけしつこく組み合わせロジックを説明しないと認められないと思っていると分かり勉強になりました。

完全に自分の勉強のためのまとめですがここまでお付き合い頂きありがとうございました。力果てました。


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