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交渉学からみるオリンピック

オリンピック開催は交渉学ネタの宝庫でした。7月23日〜8月8日 - 第32回夏季オリンピック(東京オリンピック)をなんとか開催するため頑張ってます。

交渉している誰を主体としてみているかによりますが、今回は仮想的にIOCのコンサルタントがいるとしてどんな提言をしたのか交渉学の立場からその動きをみていきます。

まず前提として今年の1月時点と最新の6月での日本のオリンピック開催の世論をみます。その推移から日本国民との交渉が上手くいっていることを示します。

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2021年1月13日のNHKの世論調査より

ことしに延期された東京オリンピック・パラリンピックについて、NHKの世論調査では、「開催すべき」は16%で先月より11ポイント減りました。一方、「中止すべき」と「さらに延期すべき」をあわせるとおよそ80%になりました。

NHKは、今月9日から3日間、全国の18歳以上を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行いました。調査の対象となったのは、2168人で、59%にあたる1278人から回答を得ました。

ことしに延期され夏の開幕に向け準備が進められている東京オリンピック・パラリンピックについて聞いたところ、「開催すべき」が16%、「中止すべき」が38%、「さらに延期すべき」が39%でした。

先月に比べて「開催すべき」が11ポイント減り、「中止すべき」と「さらに延期すべき」はいずれも7ポイント前後増え、合わせると77%になりました。

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/51524.html

以後、毎月行われる同一の世論調査より推移をみます。今の雰囲気からわかる通り、開催待ったなしの状況です。

オリンピック開催を狙う交渉学の考え方

IOCのオリンピックの目的は、成功裏にオリンピックを開催することです。

そこで縦軸、上に望ましい開催方式で、下に観客を減らす開催方式、無観客、来年に延期、中止という選択肢を並べます。下にいくほどIOCにとって望ましく無いと思ってください。当初の最低限のおとしどころは再延期のようにみえました。

当たり前ですがNGなのはオリンピック東京大会自体が中止されることです。交渉相手が誰なのかわかりませんので仮に日本国民としておきます。

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この対する一般的な日本人およびその世論を気にする政府は、オリンピックだけをみておらず、イベント自粛のさなかの特権や不公平な扱いについて憤り中止を望んでいました。中止や延期で8割近くだったので逆風です。

1月時点 IOCとしてNGなのは中止、国民は中止多数なので噛み合いません。

IOCとしては中止以上の通常通りの開催が最も良い交渉成果で、BATNAという最下限の成果は何とかオリンピックを開催することでした。

ここでIOCが行ったのが、あえて背水の陣として再延期を消すことでした。

これにより、5月までに中止の判断が出なければ実施が見込めるという意図が透けてみえます。

これは、日本の優柔不断なところを攻める手段です。一旦もう時間切れで決まってしまったら「しょうがない」と従順に従う事を考慮に入れています。

実施さえ決めればあとは一気に攻め込み現在6月では1万人の観客での開催できる土壌です。

ここで使われたのが交渉学です。

交渉①「ドア・イン・ザ・フェイス」

「shut the door in the face(門前払いする)」ような極端な要求で一度断ってもらって、次の少し低めの要望を受け入れしてもらう方法です。

最初の要求は断ってもらわなければならないので、あまり低くては想定通りに交渉が運べなくなります。

世論調査で圧倒的不利な開催と中止との比較に、あえて更に無理筋の観客有の大規模開催を入れて、観客有をあえて断ってもらいます。

アンカリングされた「やるか?やらないか?」に対して、通常通りの開催という「ドア・イン・ザ・フェイス」でシーソーの中央を開催にずらしたテクニックです。

このテクニックは古くから日本にも有ります。松竹梅のメニューを用意することで本来なら要らない竹に誘導する理論を使い開催自体は仕方無いことだとしようとしています。観客の有無で判断させればいつの間にか中止は前提から離れて行く。やはり上手いですね!

後に述べますが、アルコールについても「ドア・イン・ザ・フェイス」として「shut the door in the face(門前払いする)」される会場内での提供を出しています。翌日には最初の要求は断ってもらい、うやむやに一万人の観客は前提になっていきます。

熱中症予防のためにノンアルコールの提供など当たり前の内容は駄目で、断ってもらわなければならないので、あまり要望が低くては想定通りに交渉が運べなくなります。しかし断られるためといって、無理難題ともとれるような要求を提示するとこれも駄目なので風向きをみるアドバルーンはバットコップにお願いしています。

さて、元に戻って再延期を止めて、開催か否かに観客有を入れてしまいました。これにより、アンケートの選択肢自体が変わりました。

2月5日(金)~7日(日) 東京オリンピック・パラリンピックの開幕まで半年を切りました。IOC=国際オリンピック委員会などは、開催を前提に準備を進めています。どのような形で開催すべきだと思うか聞いたところ、「これまでと同様に行う」が3%、「観客の数を制限して行う」が29%、「無観客で行う」が23%、「中止する」が38%でした。
3月5日(金)~7日(日) 東京オリンピック・パラリンピックをどのように開催すべきかについては、「中止する」が33%で先月から5ポイント減りました。
一方、「観客の数を制限して行う」がほぼ同じ34%に増えました。
「これまでと同様に行う」が5%、「観客の数を制限して行う」が34%、「無観客で行う」が19%、「中止する」が33%でした。

3月の推移は下記になります。

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なお2月のその他が多いのは再延期を選択肢から除いたからです。

アンカリングのためにあえて二万人や酒の提供などなど無理難題を列挙する。どうもアルコール提供するスポンサー企業からの持ちかけはなかったそうですが上手いです。

交渉学②「フット・イン・ザ・ドア」

フット・イン・ザ・ドアとは一貫性の原理と言われ、訪問販売の時に「お話だけでも!」と、ドアに足を挟み込む手法が由来となっています。

一度イエスと言ったらノーと答えにくくなるという心理を活かしたテクニックで、小さなことから相手の「イエス」を積み重ね、もう「ノー」と言えないようにして、相手の意思でその答えに行き着いたという状況に持ち込みます。

一旦認めさせたら、それを足掛かりに着々とオリンピックでは

中止 ⇒ 開催 ⇒ バブル方式 ⇒ 一部例外有 ⇒ 14日の観察期間の例外 ⇒ 有観客 ⇒ マンボウ5000人の上限 ⇒ 一万人 ⇒ パブリックビュー ⇒ 二万人 ⇒ オリンピック貴族は別立て ⇒ 酒を飲みたい

中止ははるかに遠く。お手本通りの手続きです。

さて3月以降の世論調査から抜粋します。まずは4月から

4月9日(金)~11日(日)東京オリンピック・パラリンピックについて、IOC=国際オリンピック委員会などは開催を前提に準備を進めています。どのような形で開催すべきだと思うか聞きました。
「これまでと同様に行う」が2%、「観客の数を制限して行う」が34%、「無観客で行う」が25%、「中止する」が32%でした。東京オリンピック・パラリンピックをどのように開催すべきかを3月と比較すると、「無観客で行う」が6ポイント増えて25%でした。

その翌月5月です。

5月7日(金)~9日(日)東京オリンピック・パラリンピックの観客の数について、IOC=国際オリンピック委員会などは来月判断することになりました。
どのような形で開催すべきと思うか聞いたところ、「これまでと同様に行う」が2%、「観客の数を制限して行う」が19%、「無観客で行う」が23%、「中止する」が49%でした。東京オリンピック・パラリンピックをどのように開催すべきかを支持政党別に見てみますと、「中止する」と答えた人は、与党支持層で40%、野党支持層で61%、支持なし層で55%といずれも、最も多くなりました。

年代別に見ても、「中止する」はすべての年代で50%前後となり、最も多くなっています。

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そういえば天皇陛下のお言葉が有りました。これでオリンピックを中止にすると国政介入として憲法四条違反のおそれもあり、逆に開催はお墨付きをもらったかっこうです。

6月は東京オリンピック・パラリンピックの観客の数について、IOC=国際オリンピック委員会などは今月判断する方針です。どのような形で開催すべきだと思うか聞きました。
「これまでと同様に行う」が3%、「観客の数を制限して行う」が32%、「無観客で行う」が29%、「中止する」が31%でした。

一歩一歩進んでここまできました。

交渉学③「グッドコップ・バッドコップ」(Good Cop/Bad Cop)

バットコップのIOCのオリンピック貴族に好き勝手に言ってもらい

グッドコップのJOCが中間管理職のようにしょうがないと落としどころをみせる

主な出来事だけでも辞任でもただでは転ばないのがわかります。

2月には11日に不適切発言を理由に森喜朗が辞任します。バットコップにしても筋が悪いので、早めに損切りする姿はIOCの強さです。

3月には東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の東京2020 開会式・閉会式 4式典総合プランニングチームの責任者の佐々木宏エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターが週刊文春の報道で不適切な演出案が発覚して辞任します。

これでも開催はズレないとの強い意志を見せます。

外堀を埋めるために聖火イベントを着々と実施し無人であろうと、中止が有ろうとオリンピック開催自体に変化が無いとアナウンス効果を狙います。

オリンピック貴族からは犠牲を払う、アルマゲドンでも実施するという男前なコメントもありましたね。

まとめ

実際、1月と6月の世論調査のオリンピック開催に対する評価を見ると見事な施策だと言えると思います。シーソーで中間をその他とみた時のガマン勝ちがわかります。

「ドア・イン・ザ・フェイス」では、大きく中止に傾いたシーソーを会場満員の観客有を掲げることで、リセットします。

またこれにより無観客開催することにアンカリング出来ました。

まずはなにか小さく一回OKさせたらその足場を拡げる。「フット・イン・ザ・ドア」で元々国民の選択肢になかったAまたはBと迫り一歩、また一歩とひろげます。パブリックビューするか観客有の会場かをみせてどちら?というのは秀逸でした。そもそもの中止多数はどっかいきました。

「バットコップ、グットコップ」 もオリンピック貴族に、犠牲を払ってもやるや、アルマゲドンが来てもやると言わせて、まぁまぁといなす。

他にも数字の独り歩きのテクニックなどもふんだんに使います。数字のトリックで例えば水泳の会場では1日3交代ぐらいしているので3万人の観客が同じ会場に集まることになります。

交渉学が流行った10年前から、日本人の交渉力があがったと聞くことは余りありませんが、今回の一連の動きを観察したら、上級者クラスは恐るべしですね。

オリンピック貴族コメントの負の側面もプラスにする動き。恥も外聞も捨てて、したたかに開催に導く。ここまで来たら応援したくなりますね。

IOC は「東京五輪についてはコロナやその他の感染症、猛暑により健康被害や死亡に至る可能性がある、などに署名同意を求めた」とあり、更に参加をためらう選手への恐怖をあおりますがこれにも何か交渉学のテクニックが含まれるのでしょうか?



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