スーパーセルのグリー特許無効訴訟IPR
ライフワークになりそうなぐらいUS訴訟が立て続けにあるゲームのGREEとSupercellの争いですが、今回は訴訟の前にIPRという無効審判3件したスーパーセルの動きを見ていきます。
グリー(Gree,Inc,.)が クラクラ(Clash of Clans)やクラロワ( Clash Royale )で有名な Supercellを訴えてました。
その反訴の中でのSupercell側の言い分によると2016年9月にグリーを代理するUS大手法律事務所からのお手紙がスーパーセルに来たのがアメリカでの発端のようです。
その付属書類を見たところグリー保有の15グループの日本特許に対し、「 Clash Royale 」が14件、「 Clash of Clans 」が12件、「 Boom Beach」が2件、「 Hay Day 」が1件、侵害しているのではないかというリストをつけていました。今回のIPRはこの中に関連する特許ではあります。
なお別件の地裁のひとつの訴訟では既に
故意侵害を認定されてスーパーセルは敗訴しています。
4. Plaintiff GREE, Inc. is hereby awarded damages from and against Supercell and shall accordingly have and recover from Supercell the sum of $8,500,000.00 U.S. Dollars;
損害賠償金は850万ドル
という判決が出ています。
これまでの経緯
なお下の図ではClash and Clanは青色、それ以外は緑色に色分けしています。
スーパーセル側からはIPRも多数行っていますが、これ以上増えると見ずらい(今でも十分ですが・・・)ので割愛しています。
2017年からの特許訴訟について左側に攻撃側のGREE、右側がクラロワやクラクラを運営しているSupercellです。だいぶ前にテンセントがSoftBank系の日系企業から買収しました。
何度目かの図になりますがグローブひとつで1訴状です。
Supercellにある青い盾のマークは今回のIPRではなく訴えられた特許に対する不存在確認訴訟です(いずれも認められていませんが)
今回はグリーの保有特許を訴えられる前に葬って終おうというスーパーセルの特許庁PTAB への手続きです。過去のパソコンソフトゲームで公開されているから権利は元々存在しえませんという主張を用いた無効手続きです。では1件目というか代表例です。
Petition for Inter Partes Review of USP 9,539,517
一件に焦点を当てて見ていきます。
Petitioner is concurrently filing IPRs challenging related U.S. Patent Nos. 10,039,977 and 10,369,464.
いずれもファミリー特許という分割されたUS特許4件のうち3つですと説明しています。(ひとつは公開段階なのでまだ無効訴訟は出来ない)
繰り返しになりますが内訳は下記になります。
【登録】 US10039977B2 (2018/08/07)
【登録】 US10369464B2 (2019/08/06)
【登録】 US09539517B2 (2017/01/10)
発明者はSuzuki Koichi
【公開】 US20190314723A1 (2019/10/17)
勿論、権利者はグリーです。
元となった日本の特許で概要を見ていきます。
JP 2015-2972 A
(57)【要約】
【課題】対戦に参加してこない不参加チームの発生を抑制することで、チーム対戦の興趣性や趣向性を増大させることができ、且つ、プレイヤのゲームへの参加意識や継続意欲を高めることが可能なソーシャルゲーム等を提供する。
【解決手段】ギルド状況判断部1400は、各プレイヤのログイン状態の検知結果に基づき、各ギルドが非活性状態にあるか、活性状態にあるかを判断する。ギルド統括制御部1100は、状況判断部1400から通知されるギルド活動情報に基づき、非活性状態にあると判断されたギルド(すなわち非活性ギルド)を強制的に解散させ、解散通知部1130は、非活性ギルドの所属プレイヤに対して、所属していたギルドが解散された旨の通知を行う。
クラクラとかのゲームではギルド間の戦いが行われますが、相手が居ないと不戦勝で盛り上がりません。
ここで重要なのが誰と誰とをバトルさせるのか、運営の選択肢の選び方が肝になります。
参考までにJP 2015-2972 A の日本特許のクレームです。
【請求項1】
複数のプレイヤのそれぞれが所属するグループ同士の対戦ゲームを、
通信回線を介して前記プレイヤが操作する前記端末装置に提供するサーバ装置が行うゲームの制御方法であって、
前記グループの活動状況が、活性状態にあるか又は非活性状態にあるかを判断するための判断基準に基づいて、前記各グループの活動状況を判断する判断ステップと、
前記判断ステップにおいて前記非活性状態にあると判断された前記グループを解散させるグループ統括制御ステップと
を備えるゲームの制御方法。
グリーはこの内容を相手がやっている内容に近付ける分割をアメリカでも行っています。
スーパーセルとしては灰色の終結しだした訴訟から、次の訴訟の発生が怖いので早めに解決しようと無効にしようとしています。
特に今回の三件はこれまで訴訟を受けた特許とは別のカテゴリーなので面倒臭いと思ったのでは無いかと思います。
具体的な無効内容
IX. Conclusion For the reasons set forth above, Petitioner respectfully requests inter partes review of the challenged claims of the ’517 patent.
やっと本題の先ほどの無効審判を見ていきます。結論にもあるように無効化の4つの大きな主張が有ります。US09539517B2の全てを潰そうとする訳ではなく絞ったクレームを潰そうとする運用が多いです。
何故全部のクレームを潰さないかというとIPRには文字制限があるので深く述べようとするとページ数を使うため足りないことになります。浅くしたらnotインスティテュートという実質審査前に門前払いされる怖れもあるのです。
昔はニコイチの二件のIPRを併合して倍のページ数を使う手段も取られましたが、最近は認められないことも多くて絞ったクレームを潰そうとする運用が多いです。
さてやっと本題の本題無効資料です。スーパーセル・オイ対グリー株式会社'464 PTABですが上に上げた特許それぞれに20000000円ぐらいかけて提起しています。
IPR2021-00501 提起日: 02/05/2021 では米国 特許10,369,464 B2を
同日提起日02/05/2021のファミリー特許 US 10,039,977 B2 をIPR2021-00499で
同じく提起日02/05/2021 のファミリー特許US 9,539,517 B2 をIPR2021-00500で
潰そうとしているけど、同じ無効資料です。
Tencent Holdings Limitedとしては一括対応してキレイなお取引にしたいのかもしれません。
特許を持つグリー株式会社としては、潰そうという意図が必要なほどスーパーセルの弱みがこの特許にあると言われた気分なので、有効だとして返す刀で訴訟と行きたいところです。
さてどうなるのかな?
無効資料
Overview of the League of Legends (“LoL”) and Dota 2 Games
とあるように既に当時から運用されていた有名なゲームを用いた無効主張です。
LoL Patch 3.5 Notes (Ex. 1032)
今も人気です。
Dota 2 Guide (Ex. 1050)
これも当時から流行っていたようですよね。
付属資料が普段見ない95個も付けて何とかしようとしています。
ウェブは日時の認定が難しいのですが、知財御用達のサイトから特定しています。
どうなるのかねぇ。
コロナウイルスでも引き続き訴訟活動は活発だと言うことなんで、手打ちするまで今しばらくウォッチすることにします。
まとめ
これだけだとまとめサイトみたいなので、一歩踏み出し勝てるのか、無効化出来るのか検討してみます。
見て頂きましたように、無効資料は実際に遊んだゲームを紹介する当時のウェブサイトの組み合わせです。
ズバリ無効化は難しいと思います。何故なら特許の明細書と比べて実物には細かい記載が無いからです。私個人も関係する5年以上前にしたIPRでは実物と特許の組み合わせのグラウンドで潰そうとした事が有ります。ダメでした。PTAB の判断によると組み合わせの示唆が無いからだというまとめオーダーでした。
今回の例では同じネットゲームでは有りますが組み合わせの示唆が実物には書かれているわけ無いから、厳しいでしょうね。実物&実物それもウェブサイトの都合の良いことを書く目的のサイトから判断すると不足する部分を真面目に書かないからそれを解決しようとする示唆が当然のように表現されていなさそうです。
このままだとあら残念でしょう。ごめんあそばせ?!流石にあれなので
スーパーセルでも可能性は有りますが時価総額トップテン入りした親会社Tencent Holdings LimitedならではのトリプルCの隠し球が有ります。
何だと思います?
引っ張って居ますが、ひとつの解決法は上のLeague of Legends (“LoL”) または Dota 2 Gamesを会社ごと購入してスーパーセルとくっつけるんです。
そしてスペシャルチームに無効化出来るタイミングの古いバージョンのサーバーを立ててデモンストレーションで見せるんです。
特許のきも
前記非活性状態にあると判断された前記グループを解散させるグループ統括制御ステップとを備えるゲームの制御方法。
を実際にPTAB に作って画面で見せる。専門家としてその買収企業で当時から働き今は大学教授みたいな箔を持つひとを召還してしまう。
凄い力業ですがやって出来ない資本金では無いですし、今も継続中の他の継続訴訟や約十億円とかで負けた控訴審CAFC の訴訟でも主張することにすれば、トータルで元は取れるのでは無いかと思います。
どうですか?人気のゲームなのでお高いとは思いますけど、技術を買うためにベンチャーを購入するなら、これから起こるであろう他の訴訟リスク回避ならペイしそうじゃないですか?
LoLを2009年から運営するライアットケームズなんてギルドやアイテム課金機能も昔からやってるので合併したら、先見の明が有ったと自慢出来そうです。
デューディリジェンスで10年前の資料やプログラミングの存在を聞いておけばリスクヘッジにもなるような。
グリー株式会社にはたまったもんじゃないかもしれないですね。いきなり先使用を主張されたら、事業者が異なるとは言いそうですが、買収企業の内部データを使った無効資料はしっかり証拠をつけられると中身の解析の必要性は出ると思います。
まあ頭の体操レベルですが、IPRの最高裁判決も立て続けに出る熱い領域なので、次回はもう少しIPR自体を見ていきます。
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