デジタルツインの知財分析
昔から製造業で使っているVEやCADを使ったCAM、CAEと何が違うのか?
そもそもシュミレーション自体がパソコンの中で仮想的に行う事なのでデジタルツインとの違いがいまいち分かりませんでした。
AIのイメージがあるので、モデリングしている従来品はあくまで計算だという事かもしれませんね。ということで調べてみました。
デジタルツインの概念は2002年、ミシガン大学のMichael Grieves教授が初めて提唱しました。
もとは、不具合や故障などを仮想空間で忠実にシュミレーションするものがデジタルツインでしたのでAIは関係無しです。
例えば、ジェット機のプロペラなど不具合が万が一にも起こると大事故になるものの経年劣化による影響等を見ていました。一例としてGEやロールスロイスのジェットエンジンの絵をよく見かけます。
周りの優秀な技術者に聞いたりした私の中の定義は、
デジタルツイン=シュミレーション+AI-常識(技術進歩により可能となったこと)
でした。面白かった例が、3Dプリンターを用いた構造設計ですのでこれを深掘りしながら説明します。
これまでも、CATIAなどCADで図面を作り、それをCAEの中で強度分布を色表示させて要求仕様に耐えうるかどうかを確認していました。これがシュミレーション部です。
ここで、デジタルツインは強度を求められていない部分の厚肉部分をそぎ落とした設計を自動的に行い、強度を満たしつつ、コスト(重量)を減らす事が可能になりました。これがAI部です。
って、与件としてこれまでだと、
「こんな作れんようなもん書いて、アホか! 旋盤で回してどうやってこの奥まったエグった形状が出来る?」
と怒られていた形状が、3Dプリンターで積層しながら作成するなら自由自在です。
ベテランの知見が逆に悪さをするという事で、これが常識はずれの設計が新技術により可能になった例です。
下のオマケ、シーメンスの出願がその原型です。
異形の構造を自動的に作り出します。
ちなみに3Dプリンタの発祥が名古屋の弁理士さんというのは知財のウンチクです。
このように過去の偏見によらない設計工程をデジタルツインは行えます。これをもっと大規模に行った例も見ていきます。
工場でのデジタルツイン
このようなデジタル利用の例は、広義のデジタルツイン、工場そのものを改善します。
常識にあたる部分を新たなSaaSのような低額で良いシステムと入れ替え、入れ替えするならばどうなるかもシュミレーションできます。
また、IoTでデータセットを十分確保できるようになったのがこの概念の進展に役立っています。
デジタルツインでこのデータ収集部の故障・不具合も見てIoT部品の交換も検討するなどループが回っているのも印象的です。
って、まだイメージがつかめない。
シムシティだと思ってください。(暴言)
遊んで夜中に作り込んで寝たらえらいことになってる。思いもよらず発達してたり、ボトルネックで固まったり。
バーチャルで行えます。デジタルツインが凄いのはそのパラメータや補正値に今も稼働中の工場でのデータを入れ込む事が出来るのです。下の三菱重工の図を見ても機器のデータをバーチャル世界にフィードバック、バック?というか流用します。より現実的な動きを行えます。
以下はオマケ
デジタルツインの特許
AIというか仮想現実の中で自立的に動くイメージがありますが
これはアルファ碁のようにAI同士で1万回勝負して頭をよくするイメージでしょうか?
さて、デジタルツインの日本の特許を確認しました。
あたりを付けるためだけなので全文でデジタルツインがついているのが70件
三菱レイヨンが94年に使っていますが概念が違いそうなので(レンズシート)
日本初は三菱重工業、4件、競合の川崎重工も4件
【公開番号】特開2018-092511 (2018/06/14) 日本で最も早い公開特許です。
【出願番号】特願2016-237382 (2016/12/07)
【出願人または権利者】三菱重工業株式会社
【名称】運用支援装置、機器運用システム、運用方法、制御方法及びプログラム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の機器の単位で当該単位に含まれる機器の運転状態に関するプロセスデータを収集するプロセスデータ収集部と、
前記収集したプロセスデータに基づいて、
前記1つ又は複数の機器の特性をニューラルネットワークまたは深層学習によって学習した前記単位ごとの予測モデルを構築する予測モデル構築部と、
前記予測モデルに入力する制御データを生成する制御部と、
を備える運用支援装置。
代表図を見てもAIの話なので、デジタルツインの書かれた実施例の図を示します。
第四実施形態の運用支援装置10Cにおいては、
プロセスデータ収集部11Cが定期的にプラント100からプロセスデータ等を取得し、
制御模擬部18が模擬する仮想プラントにその値を反映させるので、
時々刻々と変化するプラント100の運転状態を忠実に再現したプラント100の仮想環境を実現することができる(デジタルツイン)。
あくまで第4実施例です。
ということで特許請求の範囲に入っているのは、
やはりシーメンスでした。2020年10月時点で7件日本に移行しています。
不確かですが、上の3Dプリンターの例もシーメンスが出所だったような気がする。
【公表番号】特表2020-515963 (2020/05/28)
【国際出願番号】PCT/US2018/024490 (2018/03/27)
【名称】設計ツールからのデータおよびデジタルツイングラフからの知識を用いた自律生成設計合成システム【手続補正書あり】
【特許請求の範囲】【請求項1】
デジタルツイングラフを有するシステム内の自律生成設計システムであって、
該システムは、
人間可読フォーマットでシステムの要求ドキュメントを受信し、
該要求ドキュメントに含まれる有効情報を抽出して前記デジタルツイングラフへインポートする、
要求抽出ツールと、
前記デジタルツイングラフと通信し、
前記デジタルツイングラフに含まれる設計問題に関連する情報に基づいて設計代案のセットを生成し評価する、
合成分析ツールを含む、システム。
その他の出願
キャノンがデジタルツインドラムの複写機というのも在りました。
件数が多いのはGEが5件
デスクトップメタルや(株)FUJIも5件
トヨタ自動車が3件
面白そうな図にどっかで公開間近の出願を想起させますね。
ということで、特許も見たし、満腹です。