Tychonoffの定理の別証
以前, 前位相空間におけるTychonoffの定理を証明したが, そこでは有限交叉性を持つ部分集合系が議論の中心となった. その記事を書いたときはフィルターの収束から直接証明をする方法を思いつかなかったのでそのような方法をとった. 最近証明方法を思いついたのでこうして追加の記事を書いている. 折角フィルターの概念を導入して議論を展開してきたのだから定理のクライマックスぐらいフルに使いたいものだ.
Tychonoffの定理withフィルター
前位相空間の族
$${(S_\lambda,\mathcal{V}_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}}$$が全てコンパクトならばその直積空間
$${(S,\mathcal{V})\quad(S=\prod_{\lambda\in\Lambda}S_\lambda)}$$はコンパクト.
証明
$${S}$$の極大フィルター$${\mathscr{F}}$$を任意にとる. このとき各$${\lambda\in\Lambda}$$に対し, $${\mathrm{pr}_\lambda(\mathscr{F})}$$は$${S_\lambda}$$の極大フィルターである.
$${S_\lambda}$$のコンパクト性から, ある$${x_\lambda\in S_\lambda}$$が存在して, $${\mathcal{V}_\lambda(x_\lambda)\subset\mathrm{pr}_\lambda(\mathscr{F})}$$.
これが全ての$${\lambda\in\Lambda}$$について成り立つ. そこで$${x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}}$$とし, $${\mathscr{F}}$$は$${x}$$に収束することを示そう.
$${V\in\mathcal{V}(x)}$$を任意にとる. 直積位相の定義より, この$${V}$$は, 相異なる$${\lambda_i\in\Lambda\quad(1\leq i\leq n,n\in\N)}$$を用いて
$${(\prod_{\lambda\in\Lambda\setminus\{\lambda_i\}_{1\leq i\leq n}}S_\lambda)\times(\prod_{i=1}^nV_{\lambda_i})\quad(V_{\lambda_i}\in\mathcal{V}_{\lambda_i}(x_{\lambda_i}))}$$
の形のもの全体である.
$${\mathrm{pr}_\lambda(\mathscr{F})}$$の収束性から, $${V_\lambda\in\mathcal{V}_\lambda(x_\lambda)}$$を任意にとったとき, $${V_\lambda\in\mathrm{pr}_\lambda(\mathscr{F})}$$である. よって, ある$${V\in\mathcal{V}(x)}$$が存在して, $${\mathrm{pr}_\lambda(V)=V_\lambda}$$である.
一方, この$${V}$$はある$${X\subset\prod_{\mu\in\Lambda\setminus\{\lambda\}}S_\mu}$$を用いて, $${V=X\times V_\lambda}$$とかける.
$${V\subset S'\times V_\lambda\quad(S'=\prod_{\mu\in\Lambda\setminus\{\lambda\}}S_\lambda)}$$であることは明らか. そして$${\mathscr{F}}$$はフィルターであるから, $${S'\times V_\lambda\in\mathscr{F}}$$.
このことが各$${\lambda_i\in\Lambda}$$について成り立つため, フィルターの条件から,
$${V=\bigcap^n_{i=1}(S'\times V_{\lambda_i})\in\mathscr{F}}$$.
よって, $${\mathscr{F}}$$は$${x}$$に収束する. これで$${S}$$がコンパクトであることを示せた.
補足
私が1点気になっていたことがある. それが$${\mathscr{F}}$$が$${S}$$の極大フィルターのとき, $${\mathrm{pr}_\lambda(\mathscr{F})}$$は$${S_\lambda}$$の極大フィルターになるのか? ということだ. これがいえないと証明できたことにはならないことはお分かりいただけるだろう.
一般に集合$${X,Y}$$とその間の写像$${f\colon X\to Y}$$について,
(i)$${\mathscr{F}}$$が$${X}$$のフィルターならば, $${f(\mathscr{F})}$$は$${f(X)}$$のフィルター.
(ii)$${\mathscr{G}}$$が$${Y}$$のフィルターかつ, $${Y\setminus f(X)\notin\mathscr{G}}$$ならば, $${f^{-1}(\mathscr{G})}$$は$${X}$$のフィルター.
ということがいえる. もし$${f}$$が全射なら, "$${f(X)}$$の", "$${Y\setminus f(X)\notin\mathscr{G}}$$"といった条件が外せる.
一方, $${\mathscr{F}}$$が$${X}$$の極大フィルターであっても, $${f(\mathscr{F})}$$は$${f(X)}$$の極大フィルターとは限らないし,
$${\mathscr{G}}$$が$${Y}$$の極大フィルターで, $${Y\setminus f(X)\notin\mathscr{G}}$$(これは$${Y}$$の極大フィルターであることから$${f(X)\in\mathscr{G}}$$を意味する.)であっても, $${f^{-1}(\mathscr{G})}$$は$${X}$$の極大フィルターとは限らない.
しかし, 直積から射影の場合, これがいえるのである. これはある意味, 直積からの射影が"いい性質"を持った写像であることを示す一例といえる.
選択公理との関係
Tychonoffの定理といえば, 選択公理と同値であることが知られているが, 今回の証明でどこに選択公理を用いているのか自分なりに考えてみた. 恐らく見落としもあると思うが, そこは目を瞑って欲しい…
まず, 各$${S_\lambda}$$で$${\mathrm{pr}_\lambda(\mathscr{F})}$$が収束する点は一意とは限らない. そのため極限点を"選択"してこなければならない.
そもそも$${S}$$が空でないとは限らないが, もし$${S=\varnothing}$$なら明らかにコンパクトであろう.
直積を構成しているところは多々あるが, その存在は$${S}$$が空でない(場合分けから)ため, 選択関数が存在しているので問題ない.
あとは, $${\mathrm{pr}_\lambda(V)=V_\lambda}$$となる$${V}$$の選択だが, これは恐らく回避できる. というのも, $${\mathrm{pr}_\lambda(V)=V_\lambda}$$なる$${V\in\mathscr{F}}$$全体を$${\Omega}$$として, $${U=\bigcup\Omega}$$とすれば, 明らかに$${\mathrm{pr}_\lambda(U)=V_\lambda}$$.
$${V=X\times V_\lambda}$$となる$${X}$$の選択についても, そのような$${X}$$全体のユニオンをとれば選択公理を回避できる.(し, 結局それは$${S'}$$と一致する).
こうして見てみると, Tychonoffの定理の証明で選択公理を使っているのは$${\mathrm{pr}_\lambda(\mathscr{F})}$$極限点の選択だけのように思われる.
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