前位相空間を理解する2

前回は,  フィルターと前位相空間の定義をした.  本来ならば位相空間における開集合や閉集合に対応する概念の定義をしたいところだが,  そんなことしていると定義ばかりで飽きてしまうであろうから,  連続写像の定義をして少し定理と例をやっていこうと思う.以下$${(X,\mathcal{V})}$$のように書いたらこれは前位相空間とする.

定義3

$${X}$$上のフィルター基$${\mathscr{F}}$$が$${x\in{X}}$$に収束するとは

$${\forall{V}\in\bm{\mathcal{V}}(x)\quad\exist{A}\in\mathscr{F}\quad s.t.\quad A\subset V}$$

を満たすことである.また,  $${\mathscr{F}}$$がフィルターのとき,  フィルター$${\mathscr{F}}$$が$${x\in{X}}$$に収束するとは

$${\mathcal{V}(x)\subset\mathscr{F}}$$

となることである.(フィルター$${\mathscr{F}}$$についてこの二つの定義が一致することは後ほど証明する)

定義4

写像$${f:X\to{X'}}$$が連続であるとは次の条件を満たすことである.

$${X}$$上の任意のフィルター基$${\mathscr{F}}$$が$${x\in X}$$に収束するならばフィルター基$${f(\mathscr{F})}$$は$${f(x)}$$に収束する.

定理1

写像$${f:X\to X'}$$が連続$${\iff\\V'\in\mathcal{V'}(f(x))}$$ならば$${f^{-1}(V')\in\mathcal{V}(x)}$$

証明

$${(\impliedby)}$$
$${V'\in\mathcal{V'}(f(x))}$$を任意にとる.  このとき定理の条件から,  $${f^{-1}(V')\in\mathcal{V}(x)}$$であり,  連続の定義における仮定から$${\exist A\in\mathscr{F}\quad s.t.\quad A\subset f^{-1}(V')}$$である.  写像の性質から$${f(f^{-1}(V'))\subset V',\quad f(A)\in f(\mathscr{F})}$$となるため,  $${f(A)\subset V'}$$で$${f(\mathscr{F})}$$は$${f(x)}$$に収束する.

$${(\implies)\\}$$ 定理の条件を満たさないとき,  即ちとある$${a\in X}$$及び$${V'\in\mathcal{V'}(f(a))}$$が存在し,  $${f^{-1}(V')\notin\mathcal{V}(a)}$$とする.  このときフィルター基$${\mathscr{F}}$$で,  $${a}$$に収束するが$${f(\mathscr{F})}$$が$${f(a)}$$に収束しないものが存在することを示そう.  と,  言っても実は$${\mathcal{V}(a)}$$がそれを満たすフィルター(基)となる.

  明らかに$${\mathcal{V}(a)}$$は$${a}$$に収束するが,  とある$${V'\in\mathcal{V'}(f(a))}$$が存在し,  $${f^{-1}(V')\notin\mathcal{V}(a)}$$であり,  任意の$${V\in\mathcal{V}(a)}$$に対し$${V\not\subset f^{-1}(V')}$$である.($${\because V\subset f^{-1}(V')}$$なら$${\mathcal{V}(a)}$$がフィルターであることより$${f^{-1}(V')\in\mathcal{V}(a)}$$となり矛盾)即ち,  $${f(\mathcal{V}(a))}$$は$${f(a)}$$に収束しない.

定義5

集合$${X}$$上のフィルター基$${\mathscr{F}}$$に対し
$${\lang\mathscr{F}\rang\coloneqq\{F\bm{\mid}\exist A\in\mathscr{F}\quad s.t.\quad A\subset F\}}$$とすると,  $${\lang\mathscr{F}\rang}$$はフィルターとなり,  これをフィルター基$${\mathscr{F}}$$によって生成されるフィルターという.

定理2

前位相空間$${X}$$上のフィルター基$${\mathscr{F}}$$に対し次の(i),(ii)は同値
(i)$${\mathscr{F}}$$がフィルター基として$${x\in X}$$に収束する.
(ii)$${\lang\mathscr{F}\rang}$$がフィルターとして$${x\in X}$$に収束する.

証明

$${(\implies)}$$
仮定から$${\forall V\in\mathcal{V}(x)\quad\exist A\in\mathcal{F}\quad s.t.\quad A\subset V}$$である.  このとき$${\lang\mathscr{F}\rang}$$の定義から,  $${V\in\lang\mathscr{F}\rang}$$即ち$${\mathcal{V}(x)\subset\lang\mathscr{F}\rang}$$である.

$${(\impliedby)}$$
$${V\in \mathcal{V}(x)}$$を任意にとる.  このとき仮定から$${V\in\lang\mathscr{F}\rang}$$であり,  $${\lang\mathscr{F}\rang}$$の定義から,  $${\exist A\in\mathscr{F}\quad s.t.\quad A\subset V}$$これはフィルター基の収束条件に他ならない.

(1)空でない集合$${X}$$及び$${x\in X}$$に対し$${\mathscr{F}=\{A\mid x\in A\}}$$は$${X}$$上のフィルターとなる.このフィルターを$${x}$$で生成される単項フィルターという.  $${x}$$で生成される単項フィルターは明らかに$${x}$$に収束する.
(2)無限集合$${X}$$に対し$${\mathscr{F}=\{A\bm{\mid}\mid X\setminus A\mid\lt\infty\}}$$とすると,  これはフィルターとなる.  この$${\mathscr{F}}$$を$${\mathrm{Fr\'{e}chet}}$$フィルターという.
(3)$${(a_n)}$$を$${\lim_{n\to\infty}=a\in\mathbb{R}}$$なる実数列とする.  このとき$${\mathscr{F}=\{a_n\bm{\mid}\exist n_0\in\mathbb{N}\quad s.t.\quad n_0\leq n\}}$$と定義すると,  これは$${a}$$に収束するフィルター基となる.  このことから分かるように,  フィルター基やフィルターは数列の一般化といえる.
(4)空でない集合$${X}$$の各点$${x}$$に対し$${\mathcal{V}(x)=\{X\}}$$,  $${\mathcal{V'}(x)=\{V\bm{\mid}x\in V\}}$$と定義すると,  $${(X,\mathcal{V}),(X,\mathcal{V'})}$$は共に前位相空間となる.  前者を密着空間,  後者を離散空間という.
(5)離散空間$${(X,\mathcal{V})}$$及び任意の前位相空間$${(X',\mathcal{V'})}$$に対し,  任意の写像$${f:X\to X'}$$は連続写像となる. 

また,  任意の前位相空間$${(X,\mathcal{V})}$$及び密着空間$${(X',\mathcal{V'})}$$に対し,  任意の写像$${f:X\to X'}$$は連続写像となる. 

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