盛岡市動物公園ZOOMO周辺の野生動物たち~トラップカメラの記録・2023年冬~
盛岡市動物公園ZOOMOは、東京ドーム8個分の敷地の中に多くの自然環境が残されており、その敷地の周りは園内の飼育動物の脱柵や園外からの野生動物の侵入に備え外周柵で囲われています。外周柵の周辺は森や林へとつながっていて、野生動物の生息場所となっています。
周辺に生息する野生動物は多種多様で、特別天然記念物であるニホンカモシカをはじめ、ニホンツキノワグマやニホンジカ、ホンドタヌキ、ホンドギツネ、ニホンアナグマ、ニホンリス、トウホクノウサギなど例を挙げればきりがないくらいの種類が暮らしています。近年では、10年ほど前まではZOOMO周辺であまり見かける機会がなかったニホンジカの個体数が増加し、さらにはニホンイノシシの目撃例も出てきています。ニホンツキノワグマについては2023年(令和5年)の6月と7月に園内への侵入があり臨時休園としましたが、ニホンツキノワグマの追い出しと電気柵などによる侵入防止対策を強化して再開園し、その後は園内へのクマの侵入は確認されていませんのでご安心ください。
現在はニホンツキノワグマの侵入対策として、園内の外周柵の数か所にトラップカメラを設置しています。トラップカメラには日常的に外周柵の外を移動する野生動物が写っており、改めて周辺環境の自然の豊かさと野生動物の現在の様子が感じられます。これからもトラップカメラに写った野生動物の様子をお知らせすることで、多くの皆様の自然への関心が高まることを期待したいと思います。
※ニホンツキノワグマも時々写りますが、園内の安全性についてはその都度確認済です。
トラップカメラに気が付いたのか、カメラに視線を向けたホンドギツネ。
ニホンカモシカは、目の下にある眼下腺から出るすっぱい匂いのする分泌液を、木の枝などにこすりつけマーキングします。外周柵の支柱はマーキングにちょうどいい形なのかもしれません。
ホンドタヌキもトラップカメラに気が付いたようです。
園内には12月時点で4か所のトラップカメラを設置しています。各所で野生動物が写りますが、この場所でもニホンカモシカは外周柵の支柱にマーキングしています。
外周柵内外には複数のホンドタヌキが生息しています。
写真の2頭は外周柵の内側の個体ですが、写真と同時に記録される動画を確認したところ3頭が行動を共にしていました。
外周柵の内側で2頭(実際には3頭)のホンドタヌキが写った2時間半後の様子です。
今度は外周柵の外側に2頭のホンドタヌキが行動を共にしていました。
前日の夜中にホンドタヌキが外周柵の内外で見られた日の夕方です。
今度は外周柵の内側でホンドテンが写りました。園内のホンドテンの生息は確認されていますが、動作が俊敏なためかなかなか姿を見かける機会が少ないです。
ニホンジカは、1ヶ月くらい見かける機会がありませんでした。季節によって移動ルートを変えているのかもしれません。
写真はオスで、角が小さいことから若い個体と推測できます。
それにしても、この24時間でホンドタヌキ・ホンドテン・ニホンジカと多くの動物の往来がありました。
写真だと分かりにくいですが、手前側にヤマドリのオス1羽、メス3羽の群れがいました。
こうやって見ると、オスの派手な色合いもメスの控えめな色合いも共に保護色の役割を果たしているのがわかりますね。
外周柵の外側を歩くニホンジカのメス。
メスが通り過ぎたすぐ後にオスが写りました。繁殖期も終盤ですがメスの後を追いかけているようにも見えます。
近年ハクビシンの生息数が増え、盛岡市街地でも目撃例や農作物被害などが問題となっています。長い胴体と長い尾、短い四肢が特徴で、木登りが得意です。
トラップカメラに気が付いたニホンカモシカ。
この距離で見ると目の下の眼下腺もわかりやすいですね。
トラップカメラに気が付いただけではなく、さらに近寄ってきました。
一旦通り過ぎたとおもったら、5分後にまたトラップカメラをのぞきこんでいるように見えます。もしかすると、トラップカメラを保護しているカバーに眼下腺をこすりつけていたのかもしれません。
そう言えば、トラップカメラのデータ確認に行った時にカバーがずれていることがありました。
次の日もニホンカモシカが近づいて来ました。
野生のニホンカモシカの口元をこの距離で見られるのもトラップカメラのおかげです。
ただ、トラップカメラを設置している目的は、あくまでも野生のニホンツキノワグマの侵入対策です。冬とはいえ、日々の警戒を怠らないよう気を引きしめてます。
単独で移動するニホンジカのオス。
数日前にメスの後を追いかけていった個体でしょうか。
早朝に活動するホンドギツネ。
冬の積雪時は夜間の活動だけでは、十分な食糧を確保できなかったのでしょうか。
メスの群れのようです。
ニホンジカは夜間にも活発に活動します。ニホンジカが多く生息している地域では、道路に突然シカが出てくることもあるので車両の運転には気をつけましょう。特に夜間はシカの道路横断が多くなります。対向車が来ない時にはハイビームにして、反射して光る眼やお尻の白い毛を早目に見つけるようにしましょう。1頭通り過ぎた後に続いて数頭出てくることもあるので要注意です。
冬毛で真っ白になったトウホクノウサギです。
積雪時に藪の中でじっとしていたら完全に景色に溶け込むでしょう。
ニホンカモシカが外周柵の外側を移動中に、柵の支柱でマーキングしています。
外周柵の内側のホンドタヌキです。
3頭のうち先頭の1頭がトラップカメラに気が付いたようです。
動物側としてはトラップカメラを警戒している写真ですが、なかなかいい構図だったので、私としては1月1日(元日)にこの写真がとれたことが少しうれしかったです。
地面の匂いを嗅いでいるように見えるホンドギツネ。
ホンドギツネは、肉食傾向が強く特にノネズミが大好物で、音で獲物を察知します。ノネズミのわずかな足音を聞き分けて発見し、ジャンプしてノネズミの真上から襲いかかります。
10頭くらいのニホンジカの群れです。
ニホンジカのオスの群れです。3頭が写っていました。
角を良く見ると、先端の色が白くなっているのがわかります。オスは角を木の幹などの固い部分にこすりつけて角の表面の皮をはがします。この角研ぎによく利用される木は皮がめくれ、シカが多く生息する地域では木が弱ってしまい枯れてしまうこともあります。
トラップカメラに気が付いた園内の野生のニホンカモシカ。
特定外来動物のアライグマが動物公園周辺で目撃された情報はこれまでありませんでした。もともと日本には生息していなかったアライグマがペットとして国内に持ち込まれ、飼育しきれなくなり野に放たれた個体や逃げ出した個体が、野生化した結果として日本全国に生息域を広げています。雑食性で水辺の動物も食べることから、農作物被害の他にも漁業被害も起きています。
2日前のアライグマが撮影されたのと同じ場所のトラップカメラに写ったホンドタヌキです。
トラップカメラの前で休息するニホンカモシカ。13時21分から14時2分までの約40分間休息していました。
近い距離からの撮影なので、毛艶の状態までわかります。とても状態がいいホンドタヌキです。
ホンドタヌキは主に夜間に活動するので、朝の明るい時間に見かけることは少ないです。
これだけ明るいと体型まではっきりと分かりますね。秋のまるまるとした姿に比べるとだいぶスリムになってきたのが分かります。
地面の草を食んでいるのでしょうか。今年は積雪が少なかったので、園内のトウホクノウサギにとっては冬毛の保護色効果が少ない反面、食事がしやすかったのかもしれません。
トウホクノウサギもトラップカメラに気が付いたのかもしれません。
積雪が多いと、動物達も移動が大変です。
ホンドタヌキは四肢が短いので、ラッセル状態になります。
日中なのではっきりと全身状態がわかります。全身の毛艶や体格はいい状態に見えますが、尾の毛が少し乱れているので尾に怪我をしているのかもしれません。休息をした時の毛の乱れだと良いのですが…などと、飼育係の目線でつい見てしまいます。
この日は日中に園内の避難訓練があり、雪面には職員の足跡が多くついていました。写真のホンドギツネは人の足跡の匂いを嗅いでいるようでした。
通りすがりにトラップカメラを見つめるニホンカモシカ。
ニホンジカのオスの群れの中に片方の角が無い個体がいました。ニホンジカのオスは角が毎年生え変わります(メスには角がありません)。春に角が抜け落ち、徐々に成長し夏ごろには新しい角が完成します。
すでに両方の角が落ちた個体がいました。
今回は9時14分から10時5分までの約50分間の休息時間でした。日中でも以外なほど長い時間座って休息しています。
園内の野生のニホンカモシカの親子も、仲良く外周柵にマーキングしていました。
いかがでしたか?周辺環境の自然の豊かさと野生動物の現在の様子が感じられましたでしょうか。これからもトラップカメラに写った野生動物の様子をお知らせすることで、多くの皆様の自然への関心が高まることを期待したいと思います。
副園長 村山