「パンドラ」
オリンポスの神々と人間のドラマ 第二話
今回は、ギリシャ神話「パンドラ」(Pandora)が手に持っているのは、匣か?壺か?論争です 。
天上の火を盗んだプロメテウスと、彼がつくった人間(男)を懲らしめるため、ゼウスは息子のヘパイストスに人間の女の制作を命じました。
泥をこねて完成した絶世の美女に、ゼウスは命を吹き込み“パンドラ”(すべての神からの贈り物の意)と命名。
パンドラには、「開けるな」と言い聞かせて、匣(箱)を持たせ、プロメテウスの弟のエピメテウスに嫁がせました。
ゼウスの目論見通り、パンドラは好奇心に負けて禁断の匣を開け、病気や闘争などの厄災が噴出。人間世界は大混乱しました。
しかし、匣の底には「希望」が残されていたという、ギリシャ神話の中でも広く知られたエピソードです。
園長の書棚の『ギリシャ神話』はどれも、パンドラが開けたのは匣で、古典画集などの絵姿も、匣が常識でした。
ところが、里中満智子さんの『マンガ・ギリシャ神話』(里中プロダクション、全8巻 )を見ると、実は匣ではなく“壺”が正しいようだ、とされているのです。
びっくり仰天でしたが、神話に関する里中さんの調査研究は入念で精緻です。
制作にあたっては、誤解を招くのでは?と悩んだものの、彼女の言葉を信じ、また他の資料も調べて、貝のパンドラに”壺”を持たせました。
補注:紀元前700年頃、古代ギリシャの叙事詩人ヘシオドスは著書『仕事と日』で、パンドラがゼウスにもらったのは、“ピトス”「壷」と古代ギリシャ語で記述しました。
時を経て、ルネサンス時代(14 - 16世紀)に、ロッテルダムの人文主義者デジデリウス・エラスムスが、パンドラの物語をラテン語で叙述した際、“ピトス”を“ピュクシス”「匣」と訳し、以後「パンドラの匣」が定着し、今日に至っています。ただ、最近では「壷」が定説になっているようです。
貝との約束は「割らない」「塗らない」「削らない」
<貝の配役>
★「パンドラ」:
頭/タマガイ 目/スガイ 眉・口/ガンガゼ 鼻/ヒメキリガイダシ
髪/イガイ 身体/ジュドウマクラ 手足/タモトガイ+クダタマガイ
耳/フジノハナガイほか
★髪飾り:ナミマガシワ/チグサガイほか ★壺:ニシキミナシほか
★椅子:ヤカドツノガイ+レモンカノコほか ★床:ヒオウギガイ
☆参考文献
『ギリシャ神話』 新潮社 呉 茂一
『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 阿刀田 高
『ギリシャ・ローマ神話』 岩波文庫 野上弥生子 他
『名画で読み解く「ギリシア神話」』 世界文化社 吉田敦彦
『ギリシャ神話』 紀伊国屋書店 山室静
『ギリシャ神話』 里中プロダクション(全8巻 )里中満智子