見出し画像

「園長の青べか物語」

<舞台裏>シリーズ No.9

かいのどうぶつえん 園長です。
貝の動物の制作現場では、毎日さまざまなエピソードが生まれています。

このシリーズでは、舞台裏の失敗談や内緒話、奇想天外な空想や徹底した“こだわり”などをチョイスしてみました。

第9回目は「園長の青べか物語」です。
園長の大好きな山本周五郎の世界を、貝で再現しました。

『樅ノ木は残った』(1954)、『赤ひげ診療譚』(1958)、『青べか物語』(1961)、『さぶ』(1963)・・・。
高校から大学にかけて、山本周五郎作品はいつも私(園長)の書棚の真ん中に顔を揃えていました。

1972年(昭和47)、長男誕生と同じ月に、地元の船大工に頼んだ木造伝馬船が進水。社会人になったばかりで預金ゼロ。無理を承知で自分の舟を発注した胸の底に、周五郎の『青べか物語』が息づいていたのは、間違いありません。

新造費用は、当時の月給10ヵ月分。長男の出産費用と重なって四苦八苦の状態を見かねた父と弟が、船外機代と櫓の費用をカンパしてくれました。
妻(副園長)には、言葉にならないほどの苦労をかけました。

とはいうものの、鎌倉杉製の愛船を入手した園長は得意満面。以来30年間、無我夢中で相模湾の魚を釣りまくりました。

30年使って、園長の「青べか」もくたびれてきました。船首の釣り人は副園長

時は移り、木造船も年老いてプラスチック船に乗換え、人間も老いて乗船回数が減ってきたころ、浦安市から作品展の依頼がありました。

とっさに『青べか物語』の世界を、貝で表現しようと思い立ちました。

いい船だ!買いなと押し付ける<芳爺>
ことわれず困り果てた<先生>
第一話「青べか」を買った話   <長>「あのぶっくれ舟か」「青べかってえだよ」
                 <芳爺>「これ以上は鐚(びた)一文負からねえだ。
                      三と五十、これで話はきまっただ」

この名作は昭和初期の浦安を題材としています。1961年(昭和36)文藝春秋に連載。赤裸々で貪欲で辛辣な漁師町の住人たちの日々を、鋭い筆致でえぐり出した32のエピソードで構成されています。

第三話「青べか馴らし 」  <長>「先生のばかやつら、ええ流されてるだ、
              海まで流されるだ、ばかやつら、
         いいきびだ、わあい」

各話それぞれに面白いのですが、子どもたちに読ませたり、聞かせるにはちょっぴり抵抗を感じる露骨な内容や表現なのです。とはいえ周五郎が本音で語りたかったはずの、小学3年生の「長」と「先生」のほほえましい交流を、なんとか貝で表現できないだろうか?

第十三話「ごったくや」  <先生>「そこでビールを下に置いてくれ、みんなだ」
               <女給>「まあこの人は、そんな憎ったらしいことを云って
                            承知しねえだぞ」

「カチカチ山」にしろ「赤ずきん」にしろ、元となった昔話や民話は現代の子どもたちには残酷すぎます。

第十七話「貝盗人」     <看視人>「ここは貝の活け場だ。こんなところで貝を採ったりすると
              ただじゃあすまねえだよ

そこで、絵本や童話ではかなり省略したり、甘くやわらかく味付けされているのに習って、言葉や説明は抜きにして、印象的な場面を立体的に造形。視覚で楽しんでもらいながら、いずれ大人になったら小説を読んでもらおうと考えました。

「対話(砂について)」   <富なあこ>「これはこんなふうに砂っ粒だけみてえに見えるけれど、                    これでそうじゃねえ、これでちゃんと生きてるんだぜ」
第十六話「経済原理 」  <長>「みんな」「それじゃあこれ先生にくんか」
        <かんぶり>「先生、これ先生にくんよ」
        「みんな、勝手にいってあけんべや」

しかし何度読み返しても、なかなかイメージが固まらず、土壇場になって浦安市郷土博物館を訪問。

べか船に試乗(浦安市郷土博物館)
再現された船宿(浦安市郷土博物館)
天麩羅屋の室内は、関連資料がぎっしり(浦安市郷土博物館)

屋外展示場に再現された昭和初期の町並みを見学。壁にさわり、べか舟に乗り、天麩羅屋の卓をさわっていると、浦安人の青べかへの誇りを感じることができ、ようやく自信が湧いてきました。まさに「百聞は一見に如かず」ですね。   つづく

なお『青べか物語』を入手できない方は、「青空文庫」で読むことができます。

貝は「割らない。塗らない。削らない」のスッピン勝負

       第一話「青べか」を買った話
         ~貝の配役~

芳爺:アサリ/ツメタガイ/ハナマルユキ/フトコロガイ/キクノハナガイ
先生:アマオブネガイ/スズメガイ/スガイ/ハツユキダカラ/フトコロガイ
:アサリ/スガイ/キイロダカラ/フトコロガイ
青べか:マガキ/パイプウニ/マテガイ  
地面:ホタテガイ ★:サンゴ ★:パイプウニ

第三十二話「三十年後」     <長>「でえじょうぶだってば」
                       「こっちは馴れてるだからしんぺえはねえよ、さあ」
            「さあさあ、おぶさんなよ」


いいなと思ったら応援しよう!