「面目躍如」
<舞台裏>シリーズ No.13
かいのどうぶつえん 園長です。
貝の動物の制作現場では、毎日さまざまなエピソードが生まれています。
このシリーズでは、舞台裏の失敗談や内緒話、奇想天外な空想や徹底した“こだわり”などをチョイスしてみました。
第13回目は「面目躍如」です。
園長の、常識破りなチャレンジをご覧ください。
高知県の友人から届いた小包には、ビニール袋で2重に包んだ活貝が入っていて、封を切るとかすかに匂いました。
宿毛市沖の島の断崖絶壁を、ロープで下った荒磯で採集した4個の貝たちが、
普通郵便で何日もかかったため、半死半生で到着したのです。
その貝の名は「ムラサキイガレイシ」と「シロイガレイシ」。
庭の水道を流しっぱなしで入念に洗い、毎日少しずつ中身を出す作業を10日間つづけました。ようやく身綺麗になった貝は親指半分ほどのサイズで、口の色が紫と白でそれぞれ2個。
ギザギザの乱杭歯が異様な雰囲気を放射し、第一印象は「怖い!」でした。
それでも、なんとか晴れ舞台に立たせねばと頭を絞り、思いついたのが「タスマニアデビル」。
オーストラリアのタスマニア島にだけ生息する絶滅危惧種。肉食性の有袋類です。強力な顎と鋭い歯を持ち、すごいうなり声を出して小動物を襲うことから、デビル(悪魔)と呼ばれるようになったそうです。
「よし、ぴったりだ」。しかし、完成するとストレートすぎて、貝の魅力が十分に引き出せなかったと不満が残りました。
とはいえ、残りの2個はイメージが湧かず、気にかかって仕方がありません。
寝ても覚めても、憑かれたように考え続けているうちに、情が移ってしまったのでしょう。
やがて「この貝なら、ひょっとしたら!」と、掟破りの不遜な考えが黒雲のようにわきあがり、脳裏に居座ってしまったのです。何を思いついたのか?
それは俵屋宗達の『風神雷神図』でした。
江戸美術を代表するその屏風絵(京都・建仁寺)は、尾形光琳や、酒井抱一など多くの画家が模した傑作中の傑作。
世に名高き国宝を、貝で立体表現しようとは、われながら無謀な試みであることは承知していました。
しかし、何度も図録を見直しているうちに、権威の丸呑みばかりじゃ面白くない。なんとかなるかも!という気分になってきたのです。
今にして思えば、貝にそそのかされていたのかもしれません。
「人のやらないことを、一緒にやろう」・・・。
常識の川を飛び越えて、批判や嘲笑は受け流そうと開き直りました。
風袋から風を吹く『風神』の顔は紫色の貝(ムラサキイガレイシ)、
太鼓を叩いて雷鳴と稲妻をあやつる『雷神』の顔は白い貝(シロイガレイシ)を配役しました。
手前味噌ですが、豊後水道の激しい潮流にもまれて育った強面な貝の面目躍如といったところでしょうか。
つくり始めると貝たちは、まんざらでもない様子。写実、写生とは縁を切り、出来不出来は棚にあげて、勝手気ままに楽しく作業することができました。とはいえ、鎌倉の作品展で初めて展示した時は、観客の目や声がちょっぴり気になったことは白状しておきます。
『風神雷神図』の後、
貝と園長との二人三脚チャレンジは、『鳥獣戯画絵巻』(高山寺)20連作へと展開し、現在、次の国宝シリーズを虎視眈々と狙っているところです。つづく
貝は「割らない。塗らない。削らない」のスッピン勝負
『風神雷神図』 〜成分表〜
★風神:ムラサキイガレイシ/ハナマルユキ/カニモリガイ/イモフデ/コハクダマ/スガイ/キタケノコガイ/ヒバリガイ/イガイ/アカウニ
★雷神:シロイガレイシ/ハツユキダカラ/キタケノコガイ/コハクダマ/スガイ/キタケノコガイ/ヒバリガイ/イガイ/アカウニ
★雲:マドガイ ★大地 :ホタテガイ
★カエル :アサリ/ツメタガイ/スガイ/ミノムシガイ