「こころがわり」
<舞台裏>シリーズ No.6
かいのどうぶつえん 園長です。
貝の動物の制作現場では、毎日さまざまなエピソードが生まれています。このシリーズでは、舞台裏の失敗談や内緒話、奇想天外な空想や徹底した“こだわり”などをチョイスしてみました。
第6回目は「こころがわり」です。
園長の浮気者ぶりを、恥ずかしながらそっとご紹介します。
遠来客を案内して、近所の海岸を歩いていたときのこと。足元に思いがけない貝を発見して胸がときめきました。かがんで手にとると、とある動物の顔がくっきりと浮かびあがったのです。
日本列島を2週連続で超大型台風が襲い、海岸には流木やら海藻やらロープなど、海が吐瀉した漂着物が山積していました。そんなゴミのなかで見つけたのは「イタボガキ」。カキの仲間で汚染に弱く、最近めっきり数が少なくなった貝です。
めずらしく左右そろっていて、大小ふたつ。手にした瞬間、頭に浮かんだのはダチョウの顔でした。しめた!これはいけるぞと家にとんで帰り、よく洗って乾燥させた後、大型ホタテの台にしっかり接着しました。
ダチョウと言えば、ペンギンとならんで飛べない鳥の代表選手です。体長は2〜3m、体重は100〜160kgもあって、現生する鳥類では最大種。スピードは最高時速70kmになるそうです。
人間を乗せて走ることもできるサバンナの英雄も、その顔をクローズアップすると、分厚い唇やギョロギョロ大目玉と長いまつ毛が実にユーモラス。
ひろった貝に目鼻を付ければラクダの顔が完成すると楽観し、白目や黒目、牙に使う貝の品定めを楽しんでいました。
しかし、7日経ち10日たっても貝は貝のまま。どうしてもダチョウに変身してくれないのです。ほとほと困り果てていると、思いがけないところから救いの手がさしのべられました。
それは「締切」でした。遠くにいるときはまったく気にならない存在ですが、だんだん近づいてくると恐ろしげな表情に豹変し、直前ともなれば夜叉か赤鬼に形相を変えて「ヤバいぞ」と迫ってくるのです。
とうとう、明日中に撮影を終えないと公開日に穴があく!という土壇場で、背に腹はかえられないと方針変更。半徹夜で、似ても似つかぬ生き物が誕生しました。
貝の身になってみれば、ダチョウになれると思いこんでいたのに「怪獣親子」とは!・・・と、さぞ情けなくも恨めしく、園長のこころがわりを嘆いたことでしょう。
でもね、(ここからは言い訳です)締切がやってこなかったら、君たちはまだ貝のままだったんだよ。
初志貫徹は格好がいいけれど、ときには、きっぱり軌道修正しないとね。
人間はどう頑張っても、時間を追い越せないのだから。我慢、ガマン。
さて、次の締切はいつだっけ?(つづく)
貝は「割らない。塗らない。削らない」のスッピン勝負
「恐竜親子」 ~貝の配役~
★頭 :イタボガキ
★白目 :親/トミガイ、子供/ホワイトモンゴス/
★黒目 :親/バテイラ(ふた)、子供/スガイ
★牙 :シラタケ
★歯 :ヤカドツノガイ
★舌 :ベニガイ
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