「運命共同体」
<舞台裏>シリーズ No.7
かいのどうぶつえん 園長です。
貝の動物の制作現場では、毎日さまざまなエピソードが生まれています。このシリーズでは、舞台裏の失敗談や内緒話、奇想天外な空想や徹底した“こだわり”などをチョイスしてみました。
第7回目は「運命共同体」です。
地球上の生き物たちへの、園長の思い入れをお聞きください。
イベントの打ち合わせで、茨城県自然博物館を訪ねた時、ミジンコの大型模型と出会いました。
何百倍にも拡大された微生物の迫力に圧倒され、つくろうと心に誓ったものの、1年以上も思案に明け暮れていました。
くわしく調べると体長が2㎜にも満たないミジンコの体の構造が、とても複雑なことがわかってきたのです。
小さくても、ちゃんと心臓や腸や触角や肢を持ち、大きな眼(複眼)は横から見ると左右があるようで実は一つ目小僧なのだ!という発見もありました。(下部に極小の単眼あり)
これは難しいぞ!と怖じ気づきながらも、胎内に黄色い卵を抱いている姿を表現したくてたまりません。
そこで細部はバッサリ切り捨てて、身体に半透明のアオイガイを選択することで見切り発車しました。
ところが、貝が薄くて割れやすく、瞬間接着剤が使えないなど試行錯誤を繰返し、ようやく完成することができました。
それから二年後の春、玄関横のメダカの池(火鉢)にカエルが卵を産みました。
ヤマアカガエルでしょうか。
毎日眺めていると、カエルの卵の中のゴマ粒が日を追うごとに成長し、
やがて尾が出て泳ぎはじめました。
ふと思いついて、池の水をスポイトで数滴吸いあげ、顕微鏡で観察。すると、何匹ものミジンコがピコピコと泳ぎ、餌を食べ、糞をしているではありませんか。
図鑑とは比較にならない臨場感と、“わが家のミジンコ”という親近感が合体して、愉快でたまりません。
翌日、海岸で海水を汲み顕微鏡でのぞくと、シャーレの中は極小のエビや魚、得体の知れない微生物で満員状態。
そうか、水中だけでなく空中や土中、深海から高山まで、地球は生命が満ちあふれているんだな!と実感させられました。
もちろん、私生活を覗いた池のミジンコたちは池に、海の生物は海に、そっと戻しました。姿形は異なっても、みんな人間と一緒に地球をわが家とする、運命共同体なのですから。
貝のミジンコ誕生の翌年には、水田で暮らすカブトエビを制作しました。太古のままの姿形で“生きている化石”と呼ばれ、飼育しているファンも多いとか。実はエビの仲間ではなくミジンコに近い種類だそうです。
いずれも、小さな体に進化の不思議がぎっしり詰まっている極小生物たち。
「ミジンコ」も「カブトエビ」たちも、作品展では人だかりができる一方、目を背ける方もいらっしゃるなど、とてもユニークな存在です。つづく
貝は「割らない。塗らない。削らない」のスッピン勝負
「ミジンコ」~貝の配役~
★身体 :アオイガイ
★触角 :ヤカドツノガイ/アカウニ
★複眼 :シッタカ(ふた) ★卵:ヒメカノコ
★脚:タモトガイ/アカウニ ★腹:ウラシマガイ ★尾:シラタケ
★水:マドガイ ★柱:パイプウニ