雨と稲妻
その日は雨が降っていて、傘は持ち合わせていなかったので、濡れて帰った。涙と雨が一緒になるから都合が良かった。ふわふわに巻いた髪もYoutubeをみて真似したメイクも駅前のビルで買った服も全部ぐちゃぐちゃになってしまえばいい。
「ごめん、もう無理。」
鏡の前で服を何回も入れ替える。念入りにスキンケアをして、いつもの2倍の時間をかけて風呂に入った。美容院に行って、髪を整えてもらった。髪の毛の巻き方を教えて欲しいと言って、そのままヘアアイロンまで買ってしまった。
「俺たちさ、たぶんあわないよ」
最近のルーティンで、部活の後は少しだけ遠い中華料理屋さんに行っていた。彼は炒飯定食とラーメンを頼み、私は麻婆茄子を頼んだ。
辛いもの、よく食べれるね。
そうかなぁ、美味しいよ。
伏し目がちにご飯を食べる姿が好きだと思った。
明日、休みだよね。どこかいく?
「君みたいに、好きにはなれない、と思う」
毎日が楽しくて輝いていた。
部活に行けば会えるから、学校に行くのが楽しかった。講義がどんなに眠たくても、彼のことを考えるだけで夢心地だった。
友達には、少したしなめられた。でも、幸せってこういうことだと思ってた。
「正直に言うけど、ちょっと重い」
練習終わりの部室で、彼と二人で片付けをしていた。他の人はバイトがあるとかで帰ってしまっていて、バス停まで送ってくれた。
その時、とうとう口から気持ちが溢れ出てしまった。
彼ははにかんで、嬉しいと言った。
「これからはさ、ただの友達として、がいい。別れよう」
※
泣き腫らした目。まぶたが開けられず、コンタクトレンズを入れられなかったので、眼鏡をかけて学校に行く。 昨日までの可愛い私はどこへいったのだろうか。入学式の時から、可愛くしてたの、欠かさなかったのにな。
それも今となっては忌々しい日だ。部活の勧誘で言われるままに部室に訪れた。そこで君と会った。はにかんだその顔が素敵で、恋に落ちるのは時間の問題だった。
講義室に入り、1番前の席に渋々座る。久しぶりにかける眼鏡は度があっていなかった。そろそろ変えないといけない。
授業の鐘がなる。
と、同時に扉が開く。彼だ。昨日の晩、頭の中から離れなかった忌々しい男。
肩を上下に揺らして、呼吸を整えている。その瞳は潤んで、いやでも目に入る。涙は光を受けて反射し、まるで星が溢れ出しているようで、その星は私の瞳に侵入してきた。その星は稲妻となって、私の脳内に散らばる。
幾度となく撃たれるこの稲妻に慣れることは、もう無理だ。
ああ、もう、何度だってこうやって、彼は私の目の前に現れる。
そのことに、私は愚かにも救われ続けるのだろう。
昨日から降っていた雨はもう止んでいた。
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