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創作詩「赤い屋根の家のあった町」  ~童謡「赤い屋根の家」後日談~

 
高校入試の帰り
ぼくは電車に揺られていた
窓を見ると
頬に少しにきびのある 学ラン姿の自分が映る
その奥に
ビル街が走り抜けていく
そういえば、と胸の内につぶやいた
幼い頃に住んでいた あの赤い屋根の家は
どうなったんだろう……
 
「あっ、前のおうちだ!」
電車に乗るたび あの赤い屋根を見つけては
無邪気にはしゃいでいた
けれどある日
あの赤い屋根は ビルの裏側に隠れてしまった
どんなに背伸びしても
二度と見つけることはできなかった
そのビルさえ
今では影も形もない
もう町全体が変わってしまったようだ
 
ずっと忘れないつもりだったのに
押し寄せる日々のあれこれで
すっかり思い出すことはなくなっていた
でも まだ心の片隅には残っていたらしい
ふと両手を握り込む
庭に植えた柿の種の感触が
原っぱを走り抜けた自分の足音が
蘇ってくる
 
やがてビル街も通り過ぎ 住宅街が見えてくる
夕日が辺りを包み込む
ほどなく電車が止まり
ぼくは学生カバンを提げ プラットフォームに降りた
そのまま人波に流され 改札口へと歩いていく
ここが
今ぼくの住んでいる町
寒風が頬を撫でていく
あの赤い屋根の家のあった町
今はどんな人が住んでいるのだろう

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