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Black Lives Matter - 今だからこそ聴くべきHipHop

こんにちは。

アメリカで黒人男性が取り調べ中に窒息死した事件を発端とした、アメリカ全土での大規模デモが拡大し続けています。

もはやコロナウイルスはどこへやら(多分これでさらに爆発するでしょうね)、集まって抗議しており、略奪なんかも一緒に起きています。
日本では黒人差別は存在しない※ので、少し現実感のない問題なんじゃないでしょうか。

※日本では外国人差別は確実に存在すると思いますが、黒人だから、という理由では差別されません。

さて、僕は何度もHipHopについての記事を書きました。見たことない人はぜひ見てください。
そんな僕が、こういう情勢だからこそ聴きたいHipHopの曲をいくつか厳選してみました。

HipHopは、このマガジンでも言及していますが、差別されていた黒人から生まれた曲で、そういう人たちの本音・気持ちを訴えるのにずっと使われてきました。
当然今回のこともいくつか扱っているものがあるわけです。


はじめに

Black Lives Matterは、今回始まった運動ではありません
そもそも、警官による黒人への不当な扱いは、アメリカにおいて以前より問題になっています。

アメリカでは黒人の1000人に1人が警官による射殺で死亡すると言われており、黒人男性の死因で6位に入るほどです。
これが大きく問題になった一番最初の事件としては、1992年のロス暴動があげられます。

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その後、2013年あたりからBlack Lives Matterという標語が使われ始め、黒人の人権保障・待遇改善・人種差別撤廃を目的に運動が始まりました。

なので、このエントリーでは、今回の騒動以外のものも含むことになります。


This is America / Childish Gambino

この曲は絶対に外せません。

この曲は、アメリカの銃暴力、および黒人差別について克明につづった曲です。

PVがかなり衝撃的です。
最初はアメリカで流行しているのんきなダンスから始まるんですが、顔に袋を被された、椅子に拘束されている人物が画面にうつり、さらにChildish Gambinoが、黒人差別の象徴的存在であるJump Jim Crowのようなポーズを取っていきなり手に持った拳銃をぶっ放し、射殺します。そこで急に曲調が変わり、「This Is America」と、曲が始まります。

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左 Jump Jim Crow、右 PV

享楽的なダンスが社会現象化し、そういったトレンドには敏感なのに、差別や暴力問題には関心を持たない人々が表現されていると言われています。

ここでの射殺は、最初のBlack Lives Matter運動(2013年ぐらい)の発端となったと言われている、Trayvon Martinさんが白人自警団員に射殺されたのにも関わらず逮捕されなかった、Trayvon Martin殺人事件を指していると言われています。

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さらに、そのあとゴスペルが綺麗な歌唱をしますが、それもライフル銃で射殺されます。このパートは、アメリカの教会で、2015年に起きた白人青年による黒人9名射殺事件をもとにしていると言われています。

ここでも、殺した後に「This is America」と入ります。

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歌詞でも

Guns in my area (word, my area)
俺の住んでるところでは銃がはびこっている
I got the strap (ayy, ayy)
だから銃を持っているし
I gotta carry ‘em
だから銃を持たざるを得ない

や、

You just a black man in this world
この世界では、おまえはただの黒人
Drivin’ expensive foreigns, ayy
高級な外車に乗ってても
You just a big dawg, yeah
ただのデカい犬にすぎない
I kenneled him in the backyard
俺は裏庭で、その犬を飼ってたけど
No probably ain’t life to a dog
犬ごときに人生なんてないだろ?

など、痛烈に人種差別や銃社会を批判しています。

銃社会だからこそ、警察も厳しい態度を取ります。
銃社会だからこそ、人種差別が行き過ぎたとき、悲惨なことになるのです。

結局根本は銃社会であり、そこをPVも合わせて巧みに書いた曲です。

この曲は、リリース直後から今日に至るまで、Black Lives Matterのテーマ曲であり続けています。


Alright / Kendrick Lamar

2015年に出た曲です。This is America同様、Black Lives Matterでのテーマ曲であり続けています。

前年にミズーリ州で白人警官が黒人の少年を射殺した事件があったこと、およびアルバム、「To Pimp a Butterfly」全体が黒人の歴史について描いた大大傑作であったことから、Kendrick Lamarは時代の寵児となります。

そしてアルバムを代表するこの曲は、2015年にクリーヴランド州立大学で行われたBlack Lives Matterの集会で大合唱されたことをきっかけに、Black Lives Matterの代名詞的な曲になっています。

さらに、Kendrickは、BET Awardsという賞の授賞式で、落書きされたパトカーの上に乗り “Alright”のパフォーマンスを行いましたが、白人のGeraldo Riveraという人がこれを受けて、「近年ではヒップホップが人種差別よりも若いアフリカ系アメリカ人に悪影響を与えている」と発言し大炎上しました。

こういうこともあってより一層、Black Lives Matterにおけるこの曲の地位は高くなりました。

この曲のメインメッセージは「We goin' be alright = 俺らはきっとうまくいく」で、非常にポジティブなものです。
今は差別されているけど、この状況はきっと好転する、だから抗議していこう、というデモの団結力を高める役割を背負っている曲です。
先ほどの動画をきっかけに、Black Lives Matterのデモ中にこの曲の大合唱が起こることがよくあります。


さて、アルバムTo Pimp a Butterflyも是非。

このアルバムは2015年、グラミー賞にノミネートされます。前述のようにこの前年、アメリカ・ミズーリ州で白人警官が、黒人の少年を射殺した事件があり、Black Lives Matterが盛り上がりを見せていたこともあり、2015年のグラミー賞授賞式でも何度となく繰り返されました。
Princeが「Like Books And Black Lives, Albums Still Matter」とその式で言いましたが、まさにこのアルバムを象徴するような言葉です。

しかし、そんな時代を代表するアルバムがグラミーのAlbum of the yearを受賞できなかったことで人種差別だと言われることになります。
この年受賞したのはTaylor Swiftの1989でしたが、お世辞にも1989のほうが出来がいいとはとても言えないので、言われるのも仕方ないと思います(ただ、グラミーは売上重視であることには注意すべきで、評論家の批評ではTo Pimp a Butterflyの圧勝)。


Murder to Excellence / Jay Z & Kanye West

続いては、Jay Z と Kanye Westという、Hip Hop界の超大御所二人が組んだこの曲です。2011年リリース。

Music Premiumでないと視聴できないのでそうでない人はこちらから。

今回は白人警官が黒人を殺したわけですが、黒人に殺される黒人も非常に多く、これをBlack on Black Crimeといいます。この曲はそれについてのものです。

この曲は二つのパートに分かれており、一つ目のパートである'Murder'では、黒人社会における貧困の連鎖と、Black on Black Crimeについて語られており、人種差別や政治上の不公平な取扱に向き合うことの大切さについて語られています。

And a "I could die any day"-type attitude
「いつ死ぬかもわからん」
Plus his little brother got shot reppin' his avenue
そして彼の弟が道で銃撃された
It’s time for us to stop and redefine black power
もうこんなことは止めて、黒人の力ってのを考え直そうぜ
Forty-one souls murdered in fifty hours
だって50時間で41人も殺されちまってるんだぞ…

二つ目のパートである'Excellence'では、もう少しポジティブで、こんな社会でも貧困から抜け出して成功者となっている黒人も(それこそJay ZやKanyeのように)いるので、徐々に、そして確実にアメリカにおける黒人の扱いはマシになってきている、というものです。

Only spot a few blacks the higher I go, uh
俺みたいに成功した数人の黒人を見てみろ
That ain’t enough, we gonna need a million more, uh
まあでももっとそういう人がほしいな、もう百万はいるぜ
Kick in the door, uh, Biggie flow
Kick in the door、ビギーの曲※みたいにさ、ぶち破ろうぜ

※Kick in the doorというのは、以前記事で解説したNotorious B.I.G.が出した曲です。



Killing in the Name / Rage against the Machine

HipHopのカテゴリに通常入りませんが、ラップ・ロックでかつ警察の腐った体制について抗議した曲として外すわけにはいきません。

この曲は以前和訳しているので、そちらも見てください。

くわしくはこの記事に載っていますが、警官の強大な権利、およびその名を借りた殺人についての曲です。

Those who died are justified, for wearing the badge, they're the chosen whites
死んだ奴らは正当化される、警察のバッジをつけてることをいいことに選ばれた白人ぶってるんだ
You justify those that died by wearing the badge, they're the chosen whites
世間は殉死した警官を正義扱いする、特別な白人というわけだ

Some of those that work forces, are the same that burn crosses
十字架を燃やしてるのと変わらないような警官がいる
Killing in the name of
正義の名の下の殺人だ

Rage Against The Machineは、他にも政治についての曲を多数出しています。
今回の事件に近いものだと、ロス暴動についてのアルバムである、「The Battle Of Los Angeles」も必聴でしょう。



ここからは、事件が起きた後出された、つまりものすごく最近の曲を紹介していきます。
最近のなのであまり考察が進んでいませんがご了承ください。

FTP / YG

今回の事件のプロテスト曲の中では代表的なものの一つです。

FTPはFuck the Policeの略で、ストレートに警察に対する抗議の曲です。N.W.A.のFuck tha Policeという曲がHipHop界では超有名で、それを明らかに意識しています。

この曲は今回の事件、および以前より目立つ腐敗した警察への抗議の曲です。歌詞を見てみましょう。

Murder after murder after all these years
最近殺人に次ぐ殺人だよな
Buy a strap, bust back after all these tears
銃を買って後ろから撃つんだよ、涙にあふれるぜ
Mommas cryin', how they gon' heal? (How they gon'?)
撃たれたやつらの母親は泣いてるよ、どうやったら彼らは報われるんだ?
We supposed to be free like the Masons
フリーメイソンみたいに”フリー”になるべきだろ
I'm tired of being tired of being tired
疲れることに疲れることに疲れた
I'm tired of being shot at like a opp
撃たれるなんてもううんざりなんだ

YGは元々かなり反体制・反政府のメッセージを載せることで有名なラッパーです。
以前にもFDT = Fuck Donald Trumpという曲を出しています。

この曲は今回のデモにおいて使われており、この曲を歌う群衆がYG本人のInstagramで公開されています。


Black Lives Matter / Teejayx6

警官に殺された、George Floydさんに宛てた鎮魂歌です。

歌いだしはGeorge Floydさんに捧げています。

I can't breathe
息ができない
R.I.P. George Floyd
George Floydさん、ご冥福をお祈りいたします

内容はかなり直接的な警察批判になっています。

How the fuck my momma gon' sleep at night and the police keep killing us? 
母さんが寝て、そして警官が俺らを殺し続けるってどういうこった?
I can't even go outside no more
外に出ることすら怖くてできねえよ
I get shot for bein' innocent
無実なのに撃たれるんだぜ
Kill my people for no damn reason
俺のダチをクソみたいな理由で殺しやがる
Another black man done died
また黒人が死んだ
From a cop, it ain't even a surprise
警察のせいで、もはや驚きもしない
Shootin' at people for no damn reason
クソみたいな理由で撃ちやがる
All you can hope is you stay alive
生きることを祈ることしかできない

実際、黒人という理由だけで、無実なのに撃たれたり、他の人種より撃たれたりすれば、それは相当に怖いでしょう。
最後にBlack Lives Matterで締めています。

All we can say is, "Black lives matter"
ただ言えることは、「黒人の命を軽んじるな」ってことだ

そしてこの曲は、Black Lives Matter運動と、現在のアメリカのリアルな様子がPVとして使われています。
かなりグロいですが、PVとともに見ることをお勧めします。


Walking in the Snow / Run The Jewels 

この前新アルバムを出したRun the jewelsの曲のうちの一つです。

この曲は、様々な社会問題について扱った曲ですが、特に警官による暴行と、普通の国民からの搾取という社会構造の問題について綴った曲になります。


And you so numb you watch the cops choke out a man like me
お前はマヒしてる、俺みたいな黒人男性の首を絞める警官を
And 'til my voice goes from a shriek to whisper, "I can't breathe"
俺が「息ができない」とやっとの思いで絞り出すまで見ているんだ

黒人への不当な扱いに目を背けることなく、「無関心な傍観者」にならないことの大切さを説いています。


Otherside of America / Meek Mill

これもものすごく最近出た曲です。


冒頭では、トランプが貧困層を卑下したスピーチが使われています。

You're living in poverty, your schools are no good, you have no jobs, 58% of your youth is unemployed -- what the hell do you have to lose?
お前らは貧困にあえいでいて、教育も仕事もねえし58%の若者は無職なんだから、お前らに失うものはないだろ


さて、Meek Millは2018年に収監されていた牢屋から釈放されます。その際、このように述べています。

I grew up in America in a ruthless neighborhood, where we were not protected by the police.
俺はアメリカで、冷たい隣人に囲まれて、警察に守られていない地域で育ったんだ
We grew up with people selling drugs on our neighborhood, on our front steps, we grew up on ruthless environments, we grew up around murder.
俺らは、近所でドラッグを売っている人たちと共に育ったんだ、冷酷な、殺人に囲まれた環境で育ったんだ

At 18 years old I was arrested by a narcotics strike force (…) most of these guys were found out to be liers, they lied on the stand. I was arrested by pointing a gun to a strike force (…) without any shots being fired.
18歳の時麻薬取り扱い法違反で逮捕されたんだけど、証人台で嘘をつかれて、やってもないのに銃をぶっぱなした罪で逮捕されたんだ…全くやってないのに

このような環境で育ち、かつ警察から不当な扱いを受けた彼は、メディアが報じようとしないリアルな”Other side of america”を伝えるとしています。

Reportin' live from the other side (Yeah)
アメリカの知られざるところからお伝えします
Same corner where my brothers died (Yeah)
私の兄弟が死んだところです
Livin' life, we ain't got a care
人生で、援助を受けたことがない


まとめ

このように、国民の、特に黒人の気持ちを代弁するのがHipHopであり、特にこのインターネット社会では新しい曲が出てくるのが非常に早いです。
皆さんもHipHop市場と社会の動きにぜひ注目して、いい曲を拾ってみましょう!

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Zoe
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