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【弁理士試験】差止請求権の単独行使について調べた【持分権/保存行為】

弁理士試験の論文式で、ここ2年連続で特許権(意匠権)が共有にかかる場合において、差止請求権が単独で行使できるかについて出題されています。

2 甲と大学丙は特許権Pを共有している(中略)
(2)特許権Pの効力が錠剤Cに及ぶ場合、甲は単独で、丁に対し、特許権Pに基づく錠剤Cの製造販売の停止を請求することができるか理由とともに説明せよ。

令和5年特実 問題II

(2) 当該意匠登録出願に係る万年筆の意匠について意匠登録がされ、甲及び乙は当該 登録意匠に係る意匠権(以下「本件意匠権」という。)を共有している。丙は、登録 意匠と類似する万年筆を業として製造・販売している。
この場合、甲は丙に対し、単独で、本件意匠権に基づく差止請求権を行使することができるか。理由とともに説明せよ。

令和6年意匠 問題II

単独で差止請求権を行使することができる根拠として、持分権を根拠とする見解と、保存行為を根拠とする見解があるとのことです。

令和6年度に受けた試験では、持分権説についてあまりちゃんとわかっていなかったので、無効審判の審決取消訴訟の単独提起と同じノリで書ける保存行為説で書いたのですが(答案開示の記事およびサムネ参照)、
試験後、気になって図書館に行って、いわゆる基本書を調べてきたので引用します。

まずは両方の見解を載せている新・注解(3分冊になっている分厚い本です)より

差止請求権についても、判例、学説ともに各共有者が単独で行使しうるとしているが、その根拠については、保存行為(民252条)として可能であるとする見解(橋本・特許〔第4版〕180頁)と、各共有者が有する持分権に基づいて当然になしうるとする見解(中山・特許〔第3版〕317頁)とに分かれる。後者の見解は、差止請求が保存行為であるとすると、敗訴した場合には他の共有者にも判決の効力が及び、一種の処分行為を行ったのと同様の結果となり不当であるのに対し、共有者の持分権に基づくものとすれば、判決の効力は訴えを提起した共有者にのみ及び、他の共有者は別途訴えを提起することができる点を指摘する。しかし、そもそも訴訟当事者ではない共有者に既判力が及ぶとした裁判例は見当たらず、大阪地判昭55・10・31無体集12巻2号632頁は、引水権につき保存行為説に立つ大判大10・7・18民録27輯1392頁を引用して、共有特許権に基づく差止請求訴訟は共有者全員による必要的共同訴訟ではなく、一部の共有者のみが差止請求権を行使しうると判示しており、保存行為説に立っているように思われる。
信用回復措置(特106条)についても、共有持分に基づき単独で請求しうると解すべきである。

新・注解 特許法 第2版 p1425

次に、新・注解で保存行為説として紹介されている橋本特許法

共有に係る特許権について侵害が生じた場合,共有者のうちの1人が単独で侵害行為の差止め、損害賠償の請求などをすることができるかについては、共有者の一部が脱落することが直ちに他の共有者の不利益になること等を考慮して、単独でも訴訟適格を認めるべきであるとされている。特に差止請求権については保存行為の性格を有するところから認めるべきであるとされている。

橋本 特許法 第3版 p233

最後に、新・注解で持分権説として紹介されている(文言上、「保存行為として」とも言っている)中山特許法

つぎに問題となるのは妨害排除請求である。各共有者は、共有物全体に及ぶ支配権原(物の場合でいえば所有権)を有しているのであるから、その持分権に基づいて、保存行為として単独で妨害排除請求ができると解すべきである。(脚注:共有にかかる所有権に基づく妨害排除請求と同様に考えることができよう)単独で訴えを提起できるが、その既判力はその訴えを提起した者についてのみ及び、他の共有者の妨害排除請求権に影響を与えるものではない。したがって共有者の1人が単独で訴えを提起して敗訴したとしても、他の共有者は別途訴えを提起できることになる。ただ訴えを提起された者は、後に他の共有者からの訴えによる紛争の繰り返しを避けたければ、他の共有者に対して訴訟告知をすることができ(民訴53条1項)、訴訟告知を受けた他の共有者が参加しなかった場合には、参加することができた時に参加したものとみなされ(同条4項)、その者にも判決の効果が及ぶ(同46条1項)。

中山 特許法 第5版 p344

ちなみに、予備校の解答速報には、中山特許法の表現を用いた解答例が記載されています。

ここで、各共有者は、共有物全体に及ぶ支配権原を有しているのであるから、その持分権に基づいて、保存行為として、甲は、単独で差止請求権を行使することができると解される。

TAC 解答速報

ここで、共有に係る特許権の各共有者は、共有物全体に及ぶ支配権原を有
している。したがって、自己の持分権に基づいて、保存行為として単独で差
止請求できると解される。

LEC 解答速報


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