人狼苦手な人こそ面白い、『ジャックと探偵』の逆張りゲームデザイン
『ジャックと探偵』というボードゲームを作りました。イエローサブマリンさんなどのホビーショップや、各種ネット通販で発売中です。スマホアプリ化もしていて、ニンテンドースイッチ版も開発が決定しました。
このゲームは、かつてロンドンで起こった切り裂きジャックの事件をモチーフになっています。プレイヤーはロンドン市警に協力要請を受けた私立探偵か、殺人犯の切り裂きジャック、あるいはその心酔者になって、ロンドンを舞台に推理合戦を繰り広げます。
3年前に『切り裂きジャックは誰?』という名前で50個だけ作ったゲームのリメイクなのですが、当時は4人プレイ専用だったルールを見直し、3〜6人で遊べるようにしました。
『ジャックと探偵』は、正体隠匿系と呼ばれるジャンルのゲームになります。各プレイヤーの陣営が隠されており、それぞれが違った目的(多くは相手陣営の抹殺)に向けて、話し合ったりするタイプ。いわゆる『人狼ゲーム』がその代表格です。
しかしそんなゲームを作っておきながら、ミヤザキは正体隠匿系があんまり好みでないゲーマーでした。
だけど、切り裂きジャックのwikipediaを読んでいて面白いな、ゲームにしたいなと思って企画を始めて、「でも切り裂きジャックなら正体隠匿系だよなあ」という個人的な壁にぶつかり、それを色々やって乗り越えられる形で出来上がっていきました。本noteではそこで考えていたことや工夫した点をお話しします。
ゲーム作り以外のジャンルでも、苦手をテコにしてクリエイティブをつくるときの参考にもなればいいなと思います。
汝はなぜ人狼が苦手なりや
正体隠匿系は好みではないと言いましたが、僕自身は例えば人狼ゲームを誘われればやるし、やったらやったで割と楽しめるタイプです。ただ、ゲーム会などで自分からは提案しないことが多いのです。
なぜかというと、それらのジャンルのゲームはデジタルゲームに例えるなら格闘ゲームやアクションゲームに近い気がするからです。人狼ゲームにおける議論の誘導法や役割別のセオリーは、格ゲーにおけるコントローラーのスティックさばきの熟達度とか、コンボの暗記に近いものがある気がします。
なので、慣れている人同士や、好みを分かりあっている人たちならともかく、そこまででもないゆるい会でやると場がぶっ壊れてしまう危険性があると思うのです(なので人狼をやりたい人が集まる人狼ルームとかの存在はめちゃくちゃ正しい)。
ただ、僕も人狼ゲームの楽しいところは理解しているし、実感したことも何回もあります。村人のときに人狼に思い切り騙された〜って時は『ライアーゲーム』のテーマソングが脳内に流れますし、人狼で見事勝利した時の「計算通り」の気持ちよさはハンパない。
だったらそういう楽しいところだけできるゲーム作ればいいじゃん!ということで『ジャックと探偵』の初期構想がはじまったのでした。
人狼のつらいところを逆にしてみよう
出発点として、人狼ゲームのつらいところを逆にしたら、全部楽しいゲームになるのでは?と考えました。
その結果、僕が人狼でつらいのは主に下記の2点でした。
脱落する人が出る…つまり途中からゲームに参加できなくなる人が存在すること。ただ、自分が何かプレイングをミスった結果なら納得感あります。しかし何も情報がない中で流れや「なんとなく」の根拠なき議論によって脱落させられた時はとてもつらい。仮に初プレイでそうなってしまったら、多分もう二度とやらない。
慣れてる人が強い…どんなゲームでも経験者は当然有利ですが、人狼ゲームは先にもあげたように、ロジカルなセオリーがあるのでその傾向が顕著です。また、会話がコアとなって進行するゲームなので、頭ではわかってても口がうまくなければゲームを有利に進められないという難しさもあります。犯人が分かったのに、うまく伝えられなくて負けみたいな悔しすぎる展開はよくあります。
というわけで、これらを逆にして、「脱落する人が出ない」「経験がなくても(口が下手でも)対等に遊べる」人狼ゲームにしようと思いました。
人のかわりにマップを脱落させればいい
しかし、人狼ゲームがゲームとして成立するには脱落する人は不可欠です。いつ、誰が、なぜ殺されたか。それが推理の材料になって、人狼を追い詰めていくのがゲームの趣旨であり魅力だからです。
人が脱落することを避けるために色々考えましたが、結果、人が脱落したら困るんだったら、人じゃない何かが死ねばいいと気づきました。
人狼ゲームにおけるプレイヤーの死は、あくまでゲーム中の推理の材料やストーリーが構築されていくための材料です。よって「プレイヤーが死ぬこと」自体は必須でありません(余談ですが、マーダーミステリーはそれに特化した人狼ゲームと言えますね。だから大好き)。
そうしてできたのが、下記の画像のようなマップを用いたシステムです。
プレイヤーたちは探偵になってロンドンを表すタイル上を動いて捜査するのですが、ジャックの凶行が起こると、タイルは一転、殺人現場となります(ひっくり返すと赤いタイルになって人が死んでいる)。ジャックが殺人できる範囲は決まっているので、人狼ゲームと同じように、いつ、誰が、なぜ殺されたのかという推理の材料がプレイヤーたちに与えられるわけです。
探偵たちは、名誉欲にかられた私立探偵である
そして口が達者でなくても遊べるようにしたかったので、会話は禁止にしました。
そのためにプレイヤーたちは「ジャック逮捕」の名誉を熱望する私立探偵ということになりました。自分が手柄を独占するために、他の探偵に情報を渡さないのです。
乱暴かもしれませんが、これは大正解だと思っています。人狼ゲームの面白さをかたち作る要素として、「視点の違いによる情報量の違い」があると思います。『ジャックと探偵』では全員で同じ盤面を見ていながらも、自分が操作するコマや、めくられたタイルから受け取れる情報がそれぞれ異なるので、会話をせずともこの面白さをクリアーしているのです。
おかげでそれぞれのプレイヤーは、「何をどう言おうか」というコミュニケーションに悩まされることなく、推理(あるいは殺人の偽装工作)に集中できるようになりました。
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そうして出来上がったのが、『ジャックと探偵』というゲームです。僕のような、人狼ゲームがやや苦手だけど、面白さは分かるんだよ…!という方にぜひ遊んでいただきたい作品になっています。
(2022.01.13 追記)
『ジャックと探偵』のスマホアプリがリリースされました!無料で遊べるので、まずはこちらからお試しするのもおすすめです。
(2022.07.28 追記)
ニンテンドースイッチでのリリースも決定しました。
ナイスプレー!