3歳の娘が芸能人に恋をした、かもしれない話
2020年の春頃まで、NHK「おかあさんといっしょ」に夢中だった3歳の娘。
中でも、ゆういちろうお兄さん(歌のお兄さん)にトキメいていた。
かかはまこと(体操のお兄さん)派かな〜、なんて言いながら見ていたのもつかの間。
12月に入り、急にジャニーズの「あいばくん、かっこいい!」と言い出したものだから驚いた。
ゆういちろうお兄さんの時は、「娘ちゃん、ゆういちろうすきなんだよね〜」くらいだったのが、少し興奮しながら「かっこいい」という。
驚いて、嵐の相葉くんが好きなの?と口から出た。
娘は、満面の笑みで「うん!」と頷いた。
この”ゆういちろうお兄さん”と”相葉くん”違いは、私にとって、とても深い。
「すき」は、日常的に使うことばだった。
うさぎはね、にんじんがすきなんだよ。
かかは、コーヒーがすきだよね。
娘ちゃん、あいみょんの歌、すきなんだあ。
ととと、かかのこと、だいすきだよ。
毎日聞いていることばは、耳に馴染む。
だから突然「かっこいい」ということばを聞いて、私の心はうわついたのだ。
そして、この「かっこいい」に含まれている「すき」は、いつもの「すき」とは違うぞ、と。
◇
我が家は、ジャニーズ文化にあまり馴染みがない。
私はジャニーズにめっきり弱い。
弱い、というのは顔と名前が一致しない。
ジャニーズからデビューしたグループの年表を見ると、NEWS、関ジャニ∞ あたりから、少し自信がない。
だから、娘がどこで”相葉くん”を「かっこいい」と思うようになったのか、不思議で仕方がなかった。
けれど、もしかして、と思い当たることがひとつある。
12月に増える、年末の歌番組。
2020年12月31日に活動を休止する嵐は、歌番組毎に特集を組まれて、歌とダンスを披露している。
きらきらと照明を浴びながら歌う5名のメンバー。
懐かしいな、これドラマのテーマ曲だったな、と思っていると、娘が「ねえ!」と叫んだ。
「これ、だれ?なんていうひと?」
キッチンにいた私を引っ張って、テレビの前へと誘導する。
娘の目は、テレビの光を反射してきらきらと輝いていた。
カメラワークに翻弄され、娘の指差す彼の名前を答えるのに時間がかかった。
あ、その人ね、”相葉くん”だよ。
◇
そう、そうだった。
その頃から、テレビに映る”相葉くん”すべてに、娘は反応した。
日本郵便が流す年賀状のCM、エバラ焼肉のタレのCM、嵐がメインのバラエティ番組。
”相葉くん”はテレビにたくさん出ていた。
”相葉くん”のどこがすきなの?
と聞くと、「わかない!(わからない)」と怒った。ふて腐れて横を向く。けれど、顔を見ると考え込んでいるようだったので、その場を動かず、待った。
しばらくして、娘はこちらに振り返り、元気よく言った。
「おかお!」
◇
お顔かあ、確かに、かっこいいよね。
そう言うと、娘は「えっとね、あと、踊ってるのとか、その時、きらきらってしてるところ」と、眉を垂らして、にひひと教えてくれた。
そうだね、きらきらしてるね。
そう言いながら、嬉しくてたまらなかった。
これまで、娘が「すき」だと言ったものはたくさんある。
テレビ番組で見たおいしそうなケーキ、私や夫が寝かしつけで歌う歌、保育園で教えてもらった機関車トーマス、アンパンマン。
春には庭先の花、夏には昆虫、秋には落ち葉、冬には雪がすきだから見たいという。りんごジュースや、桃のゼリーだってすきだ。
他にも、たくさん。
でもそれは、私や夫、娘を見守る大人の手で用意した、子どものすきそうなものだった。娘は、その与えられた中から自分の「すき」を見つけてきた。
もちろん、これも大切なことだと思う。
けれど、テレビでたまたま見た”相葉くん”は、娘がはじめて自分から見つけた「すき」。
相葉くん、ありがとう。
相葉くんを見つめる娘は、宝石を見るような、子猫を見るような、大好きなアイスクリームを見るような、そんな目をしています。
”ゆういちろうお兄さん”へ向ける目とは、少し違う眼差し。
これは娘の、初恋なんだろうか。
◇
これから先も、自分の「すき」をたくさん見つけてくれたら嬉しい。
なんでもいい。「すき」をたくさん見つけて、大切にしてほしい。
「すき」は生きる原動力だと思うから。
◇
その後のおはなし