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3歳の娘が芸能人に恋をした、かもしれない話

2020年の春頃まで、NHK「おかあさんといっしょ」に夢中だった3歳の娘。
中でも、ゆういちろうお兄さん(歌のお兄さん)にトキメいていた。
かかはまこと(体操のお兄さん)派かな〜、なんて言いながら見ていたのもつかの間。

12月に入り、急にジャニーズの「あいばくん、かっこいい!」と言い出したものだから驚いた。
ゆういちろうお兄さんの時は、「娘ちゃん、ゆういちろうすきなんだよね〜」くらいだったのが、少し興奮しながら「かっこいい」という。

驚いて、嵐の相葉くんが好きなの?と口から出た。

娘は、満面の笑みで「うん!」と頷いた。


この”ゆういちろうお兄さん”と”相葉くん”違いは、私にとって、とても深い。
「すき」は、日常的に使うことばだった。

うさぎはね、にんじんがすきなんだよ。
かかは、コーヒーがすきだよね。
娘ちゃん、あいみょんの歌、すきなんだあ。
ととと、かかのこと、だいすきだよ。

毎日聞いていることばは、耳に馴染む。
だから突然「かっこいい」ということばを聞いて、私の心はうわついたのだ。

そして、この「かっこいい」に含まれている「すき」は、いつもの「すき」とは違うぞ、と。




我が家は、ジャニーズ文化にあまり馴染みがない。

私はジャニーズにめっきり弱い。
弱い、というのは顔と名前が一致しない。
ジャニーズからデビューしたグループの年表を見ると、NEWS、関ジャニ∞ あたりから、少し自信がない。

だから、娘がどこで”相葉くん”を「かっこいい」と思うようになったのか、不思議で仕方がなかった。
けれど、もしかして、と思い当たることがひとつある。


12月に増える、年末の歌番組。
2020年12月31日に活動を休止する嵐は、歌番組毎に特集を組まれて、歌とダンスを披露している。

きらきらと照明を浴びながら歌う5名のメンバー。
懐かしいな、これドラマのテーマ曲だったな、と思っていると、娘が「ねえ!」と叫んだ。

「これ、だれ?なんていうひと?」

キッチンにいた私を引っ張って、テレビの前へと誘導する。
娘の目は、テレビの光を反射してきらきらと輝いていた。
カメラワークに翻弄され、娘の指差す彼の名前を答えるのに時間がかかった。


あ、その人ね、”相葉くん”だよ。



そう、そうだった。

その頃から、テレビに映る”相葉くん”すべてに、娘は反応した。
日本郵便が流す年賀状のCM、エバラ焼肉のタレのCM、嵐がメインのバラエティ番組。
”相葉くん”はテレビにたくさん出ていた。

”相葉くん”のどこがすきなの?

と聞くと、「わかない!(わからない)」と怒った。ふて腐れて横を向く。けれど、顔を見ると考え込んでいるようだったので、その場を動かず、待った。

しばらくして、娘はこちらに振り返り、元気よく言った。


「おかお!」



お顔かあ、確かに、かっこいいよね。

そう言うと、娘は「えっとね、あと、踊ってるのとか、その時、きらきらってしてるところ」と、眉を垂らして、にひひと教えてくれた。

そうだね、きらきらしてるね。

そう言いながら、嬉しくてたまらなかった。


これまで、娘が「すき」だと言ったものはたくさんある。

テレビ番組で見たおいしそうなケーキ、私や夫が寝かしつけで歌う歌、保育園で教えてもらった機関車トーマス、アンパンマン。
春には庭先の花、夏には昆虫、秋には落ち葉、冬には雪がすきだから見たいという。りんごジュースや、桃のゼリーだってすきだ。

他にも、たくさん。

でもそれは、私や夫、娘を見守る大人の手で用意した、子どものすきそうなものだった。娘は、その与えられた中から自分の「すき」を見つけてきた。
もちろん、これも大切なことだと思う。


けれど、テレビでたまたま見た”相葉くん”は、娘がはじめて自分から見つけた「すき」。

相葉くん、ありがとう。
相葉くんを見つめる娘は、宝石を見るような、子猫を見るような、大好きなアイスクリームを見るような、そんな目をしています。

”ゆういちろうお兄さん”へ向ける目とは、少し違う眼差し。

これは娘の、初恋なんだろうか。



これから先も、自分の「すき」をたくさん見つけてくれたら嬉しい。
なんでもいい。「すき」をたくさん見つけて、大切にしてほしい。

「すき」は生きる原動力だと思うから。



その後のおはなし


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にわのあさ
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