3歳の娘は″米とぎ″をお手伝いする
娘が″お手伝い″に夢中な話。
「娘ちゃん、おはし並べるの手伝ったげる!」
「これ、重いから持ったげよーか?」
「リモコン、ここあるよ!はい、どーじょ」
ありがとう。嬉しい。上手だね。
そんな言葉が聞きたいと思ってくれているのか、それとも、その健気さについ微笑んでしまう夫や私を見たいのか。娘の”お手伝いしよーか?”は止まらない。
本当は、娘の苦手なおもちゃのお片付けや、お出かけの準備などをてきぱき進めてくれるともっと嬉しいんだけど、と思っても、それは言わないお約束。
娘は、”私から拾えるお手伝い”がないかを、常に目を光らせる。
昼ごはんを食べ終わり、お皿を洗って片付ける。
娘は、お皿を洗う様子を踏み台に登って見下ろす。
ちらりと盗み見ると、ゴシゴシ動かすスポンジを、瞬きせず目で追っている。
クリスマスにサンタクロースからもらったキッチンセット。
おもちゃのお皿と娘のハンドタオルを使って、「あわあわ〜ごしごし〜」と小声で遊んでいる後ろ姿を見た。
きっとお手伝いしたいんだろうな、けどガラスもあるし、割れて手を傷つけたら痛いだろうし。と、得意の過保護を発動させる。
片付けを終えると、夕食の下準備をはじめる。
まずは、と口から小さく漏れた。
米びつから1.5合分のお米を、ジャ、とだす。
相変わらず踏み台の上で手を握りしめている娘から、「おこめだ!」と聞こえた。「おこめ、おみずでジャーってするの?」という声を背中に受けながら、そうだよ、と答える。
お、そうだ。
炊飯釜のを斜めにして、娘に中身を見せる。白くてクリーム色の粒が、ぱらぱら、とそれに合わせて斜頸をつくる。
前のめりに顔を寄せて、じいっと、米粒の動きを見つめる娘。
お米研ぐの、やってみる?
ふっ、と勢いよく顔をあげる。
キラキラとひかる娘の目から、期待に満ちた星がバチバチっと勢いよく飛んできた。
「うん!やる!」
大きくうなずくと、娘の耳にかかった短い髪の毛が、ばさりと揺れた。
ジャーーー、と勢いよく水を入れる。
炊飯釜から目を離さない娘に、どうぞ、と言って、ごとりと目の前におく。
ハッとした顔をして、私の顔を見る。
ほんとうにいいの?と目で言われているようで、私は大きくうなづいた。
恐る恐る、右手の人差し指を、ひた、と浸けて、わあ、と言いながら慌てた様子で指を出した。
ぷわ、と、濁った水が波紋をみせる。水面に映る娘の顔も、ぷわ、と波打った。
「ふふ、なんだかちめたいねぇ」
ちめたいよねぇ、と言って、私も、ふふ、と笑う。
水に触るの、初めてなんかじゃないのにね。お米と一緒に入った水は、娘にとって特別な水になんだ。
しゃ、しゃ、しゃ、
緊張しているのか、小指だけアンテナのようにピンと立っている。4本の指は、第二関節までしか入っていない。
娘は、指先を見ながら、すっ、すっ、と、手を横に往復させる。娘の指にゆるゆるとまとわり尾をひく波は、手を止めるたび小さくなっては消える。
今は幼いこの手つきは、この先、きっと私や夫の真似をしながら、たくさんのことを覚えていく。
しゃか、しゃか、しゃか、
右手でお米を撫でていた娘の手が、ぴたりと止まる。と、同時に、ばしゃ、という音が響き、両手を釜に突っ込む。
がしゃ、がしゃ、がしゃ、
「ふたつのおててでやると、がさがさ、ってなるねぇ」
そうだね、大きな音になったね、と言う。もう、娘の手首まで、ぐずりと水に浸っていた。
娘は自分の両手をじっと見ながら、何かを探すように、お米の中でがさがさと動かす。
沈黙に、少しどきどきしていた。
ばしゃ、ぼたぼた、ぼた、
あ、と声が出た私を尻目に、娘の手とともに炊飯釜から出てきた水が、音をたてて床に落ちる。
突然、勢いよく水面から飛び出た娘の両手は、ピンと指が伸びている。娘の頭上に挙げられた両手は、つやつやとみずみずしい。つう、と細い腕を水がつたう。
わ、手、戻して戻して、という私の声は、娘に届かない。
たくさんの小さな粒がついた手を、ぐっと私の顔に近づけて、誇らしげな顔をする。
「みて!おこめ、娘ちゃんのおててが好きみたいよ!」
照れたように、へへ、と笑う娘。
ぼた。
とどめを差すように、肘から落ちるお米を、慌てて手で受けながらつられて笑う。
3歳のお手伝いは、新しい発見の連続なのだ。