きみのおめめ 夏の日 #31
黄昏時、蝉の幼虫が木を登っていた。
見つけた娘はあっと声をあげてかけよると、鼻先がくっつきそうなほど顔を近づける。
蝉の幼虫が驚いて、鎌のような前足を娘に振り下ろさないかと僅かに慌てつつ、そんなことあるわけがないと己の心配性にため息を吐く。
遠くから、沈みかけの太陽が娘の短い髪や頬、木々の輪郭を淡く光らせていた。
娘に顔を寄せると、梅雨明けの湿った土と汗の匂いがする。
頭上に蝉の声が矢のように注ぐ。鳴き声は身体に沿って地面に叩きつけられ、空に跳ね返る。
ただ、この世界を確かめながら登り続ける、そこだけが無音だった。
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