タイトルだけで傑作決定(エッセイ編)

 私の脳は、人の名前を覚えない。仕様だから仕方がない。

 本を買う際も、一部の作家を除いて、作家で選ぶよりもタイトルで選ぶ場合が多い。だから、うちの書棚を見れば、「これは面白そうだな」という本だらけである。見ているだけでワクワクする。

 もちろんいいタイトルにも色々あって、例えば河野多惠子さんの「思いがけないこと」などは、地味であるがいいタイトルだ。逆に井田真木子さんの「かくしてバンドは鳴りやまず」は、派手ないいタイトルの筆頭だろう。

 今回は、その中でも私が特に好きなタイトルをご紹介するのである。

 まず、佐野洋子さんの「死ぬ気まんまん」である。帯の惹句に「元気に逝った佐野洋子が」とあるので、おそらく遺作だろう。で、今、パラパラとめくっていたら、この人、あの「100万回生きたねこ」の作者なのだ。いや、驚いた。ちっとも知らなかったよ。

 佐野洋子さんのセンスに琴線が触れるのか、他にも2冊、彼女の著作が書棚にあった。「あれも嫌いこれも好き」「そうはいかない」である。3作ともしゃれっ気と勢いがあるタイトルだ。

 実は、3冊ともまだ読んでいないのだが、タイトルを見ただけで傑作は約束されている。いずれ読もうと思う。

 次に挙げるのは宮田珠己さんの「ときどき意味もなくずんずん歩く」だ。これも勢いのあるタイトルで、書店で思わず手に取ったのを覚えている。

 実際に、ずんずん歩いている人のようで、海外のあちらこちらやら原発やらジェットコースターやら、ずいぶんと行動力のある人のようだ。これなら書くネタに困らないだろう。

 これは文庫本なのだが、単行本の際は「52%調子のいい旅」というタイトルだったんだそうで、これは変えて正解。前のタイトルなら「数字を入れたら注目すると思ってるんやな。そうはいくかい」と手にも取らなかっただろう。

 今、チラッと読んだら、なんとなく親近感を覚える文章だった。結構面白いような気がする。いずれ読もうと思う。

 北大路公子さんの「頭の中身が漏れ出る日々」もタイトルだけで傑作決定である。

 これは、ジュンク堂のトイレでオシッコをし終わり、立派なモノをぶんぶんと振り回し、「よし、もう大丈夫だな」とパンツにしまったとたん、チョロチョロとオシッコがが漏れた直後に見つけた本だ。

 頭の中身が漏れ出るよりも、オシッコの方がマシですよ。

 なんとなく作者からそう励ましてもらったような気がして、お礼を兼ねて購入した。

 で、今、表題作の「頭の中身が漏れ出る」を読んだんだが、これは、かなりおもしろい。さすがにタイトルだけで傑作決定本に選ばれただけのことはある。いずれ全部読もうと思う。

 さて、番外編である。

 佐野研二郎さんの「思考のダイエット」だ。

 さすがにこの人の名前は覚えた。東京五輪のエンブレム疑惑で有名になった人である。最近は、ニュースにも出てこなくなり、少しさびしい。この本を買った時の記憶もはっきりあって、「ほお、ダイエットを思考と結びつけたか。つまり、アホになろうと言っているのだな。結構結構」と手に取った。

 あとがきにこうある。

「(デザインの仕事の)一つ一つを思い返してみると、いかにしてムダを削ぎ落とし、明快なコミュニケーションを作ることができるかの挑戦と葛藤の連続だったと気付かされました」

「ほんまかいっ」と私は「思考のダイエット」に向かって突っ込みを入れたが、もちろん本は何も返してこなかった。

 まあ、デザイン書を除いて、彼が上梓した初めての本である。彼の名すら知らずにピンポイントで購入した私を、褒めてやればいいのか、それとも笑ってやればいいのか、結論は今も出ていない。

 ちなみにこの本は、いずれにしても読まないと思われる。




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