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起業家の心の闇

数百人の起業家を研究した結果、起業家が抱えている心の闇について判ったことがあるので、少し纏めようと思います。

「自分の価値が何なのかを確かめたい」
「存在価値を証明したい」
「世の中に自分を認めさせたい」

インタビューをしていると、ある一定数の起業家から、このような起業動機を聞きます。

また、そういった起業家の幼少期からの過去を聞いて調べてみると、人生のどこかで、自分の存在価値を疑うような経験をしていることが判りました。

自分に対する価値観を失う経験、虚無感や劣等感などに苛まれる経験することにより、自分に対して無価値観の感情を引き起こしています。
 

1 愛してほしい人から、愛されなかった経験

具体例をお伝えすると、例えば「愛してほしい人から、愛されなかった経験」です。

その中でもっとも多かったのが、親からの愛情です。昔の日本ではよく「甘やかしたらダメ」と躾ける方がいましたが、実際には幼少期、学童期にたっぶり甘えさせて、愛情を注がれた子どものほうが愛が満たされるため、スムーズに精神的に自立することが判っています。

逆に愛が満たされなかった子どもは、愛に飢えたまま年を重ねていきます。その愛されなかった不足感は、複利のように徐々に膨れ上がっていくため、その反動として愛を満たすための歪な行動や、愛情表現を引き起こします。

例えば、特殊な性癖やストーカーなどです。不足感が強い人は、このような歪な行為を取ることがあります。

また、何か自分がした行為に対して、感謝してほしい(自分を認めてほしい)という欲求、見返りの欲求が強くなります。感謝されないと怒りの感情が沸き上がったり、御礼を言われないと、その態度に対して感情的になりとても厳しくなる方もいます。

愛の不足が小さい方は、上記ほどではありませんが、それでも自分に対する価値観(自信)を失ったり、心に虚無感が生まれることが多いようです。
 

親以外にも、パートナー、友人、同僚など、身近な人で愛してほしい(認めてほしい)人から愛されない経験をすると、その満たされなかった度合いにより、自分の存在価値を否定する感情が生まれることがあります。一種の心的外傷(トラウマ)です。
 
この場合、他の方の愛情により満たされる場合もありますが、本来愛されたいと思った人でないと、心の不充足感や虚無感が満たされないことがあります。例えば親の愛情が不足している人は、やはり親から愛されることが最も心を癒すことになります。
 
また依存体質の強い人の場合は、仲の良かった人に裏切られたことによって、その感情が生まれる場合もあります。何かの拍子にその関係が壊れたときに、「自分は必要とされない人間なんだ」という勘違いの感情が生まれ、自分の存在価値を疑うようになります。

2 世の中に対する怒りの感情

二つ目は、世の中でまかり通っていることで、自分が納得いかないことがある場合です。要は世の中に対する怒りの感情です。そういう怒りを持っている人は、自分の考えている価値観が正しいことを、世の中に証明したい。自分の存在価値を確かめたいという感情が生まれやすいです。
 
このような方は、話すといつも世の中に対する怒りの感情が、溢れ出てきます。

3 人生の挫折

三つ目は、これは性格特性にも起因しますが、人生のどこかで挫折を味わった時です。受験や仕事や起業など、何か目標としていたことを達成できなかった経験をすると、自分は役に立たない人間なんだという無力感、無価値観に苛まれることがあります。
 
これはとくに責任感の強い人や、周りの期待に応えようとする人、周りに迷惑を掛けてはいけないという想いに駆られている人に起きやすいです。
 
例えば、自分が達成できなかったことによって誰かを失望させた、周りの人に利益をもたらすことができなかったという気持ちが、己の無価値感をさらに拡張させます。そして自分はここにいて迷惑になる、不利益をもたらす人間になるのだと感じ、ここにいるのは良くないと、自分の存在さえも疑い始める人もいます。
  
また、自分に自信を持っている人も起きやすいです。例えば、その何かにチャレンジする前は、少なからずある程度の自信があったからこそ、一歩踏み出しています。そうでないと行動はしません。

しかしやってはみたものの、上手くいかなった。または周りに自分よりもすごい人がいて、比較してしまい、自信を失ってしまう。存在意義を見失ってしまうことがあります。これは本人の気づかないところで、プライドの高さがあるのですが、それが心的外傷として、無価値観、劣等感、虚無感に繋がっています。すると、自分の存在価値について確かめたいという感情が芽生えます。

逆にプライドがない人は、こういった経験をしても、あまり無価値観を感じません。自分に対しての期待値が、そもそも低いためです。プライドが高い人は、自分は特別な人間だと意識・無意識下で感じているため、自分に対しての期待値が高く、それが崩れると、心的外傷を負いやすいです。

以上、大きく三つの原因のいずれか、もしくは複合的に原因を持ち合わせた場合、自分の存在価値を確かめたいという情動が生まれます。

起業動機が 「自分の存在価値を確かめたい」 という人

実際このような動機の起業家とは、幾度と出会います(表向きの動機は違いますが)。

個人的には、起業の動機はエネルギーが湧きさえすれば、最初は何でも良いと思っています。但し一つ気をつけたほうが良いことは、「自分の存在価値を確かめたい」が動機の起業家は、会社を私物化する傾向がある点です。

感情面から考えれば、ある意味致し方ない現象ですが、それにより、組織崩壊を招く確率が高くなります。なぜなら、そのことに本人が気づいていないためです。本人にとってはその状態がデフォルトなので認識がないですが、日頃の発言や行動が、自然とそこに寄っていきます。

すると親交が深まるほど、周りのメンバーはそれに気づいていくので、会社の方針や進め方に違和感を覚えます。

企業のビジョンは、結局のところ創業者の個人的な価値観から生まれているため、広義な意味では、みんな上記に当てはまるのですが、「自分の価値を確かめたい」という欲求が強い起業家は、知らぬ間にその感情に沿った意思決定をしていきます。

そうなると、同じ個人的な価値観でも、「ユーザに喜んでほしい」が根源の起業家とは、細部に違いが出ます。細部に神が宿るではないですが、思考は知らぬ間に微細な表現に出てきます。
 
一方、表向きはそういう雰囲気を醸し出していません。何か満たされなかったことが起業動機というのを、全く感じさせないほど健全なビジョンを掲げています。それは本人も無自覚であるが所以です。

しかし時が経つにつれて、その本当に個人的な動機に、周りが節々で気づき始めてしまいます。この多くは、掲げている上位概念と、実際の発言や行動に対しての矛盾、違和感により気づいていきます。

起業家は、日々色々な物事に追い込まれた状況下で、意思決定していくことになりますが、その際に、心の中で色んな感情が蠢きます。無意識下の心の奥底にある感情が何度も顔を出し、意思決定に影響を与えます。

満たされない愛、世の中に対する怒り、挫折による心的外傷などから生まれた感情は、そういった窮地で悩み逡巡しながら意思決定しようとする時ほど、知らぬ間に姿を現します

実はこれが、冷静な状況時に掲げていたことと、矛盾が生じることがあり、それがメンバーの不安感や違和感へと繋がります。

すると次第にその不満が、疑いや虚構感の感情へと変化していき、終いには組織崩壊という事態を引き起こします。
 
ある起業家にインタビューした際、その方は、世の中に対して価値感の確認、認めさせてやるというほどの強い情動を持たれていました。色々お聞きしていくと、世の中に対しての怒りや、過去の満たされない愛情欲求など複合的に持たれていました。

その企業は、創業メンバーのうち8割が去り、その後も2、3年以内の周期で、メンバーが全員入れ替わっていました。辞められる方は、最初好感を持って参画されますが、去る時は参画した時よりも会社を嫌いになって去るという、悲しい状況が度々起こっていました。
 
他の企業でも、知っている限りそういった起業家は、高い確率で倒産か組織崩壊を招いています。

満たされないという歪んだ感情から生まれた動機は、最初の動機としては問題ないどころか、行動の大きなエネルギーになるようです。しかしその感情での組織作りは長続きしない(長続きさせるものではない)ということが判りました。
 
健全なものでない歪な信念からは、歪なものが生み出されます。

故に上記が動機の起業家は、出来るだけ早くその根源を満たし、健全なマインドにて事業創造することをおすすめします。
 

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