【第3話】私の家に来ませんか
「兄さん、大丈夫かい?」
(その言葉が痛い。痛いんです。)
「ありがとうございます。何でも無いです。美味しかったです。」
とバタバタと会計済まして
逃げるように喫茶店を出たのでした。
後悔という言葉で済ましてはならないのだが、
なぜあの瞬間、
私は右にハンドルを切ったのだろうか。
今、私はまたもや
目標を見失ってしまった。
自死と言う選択をしたにも関わらず、
達磨夕日を目に焼き付けて逝こう
という目的が達成できない。
商店街を抜けアーケードもなく
宿毛の 港町を
流浪と言うか
徘徊していた
というのが正しいかもしれません。
しばらく防波堤沿いを歩きながら
時折こみ上げる涙を
こぼさないために空を見上げるのです。
それでもため息と同時にどうしても下を向いてしまう。
とうとう私は涙で霞んで
そこにしゃがみ込んでしまった。
今頃家族は心配をし、
おそらく 警察に捜索願いを出しているのではないか。
家出をして丸2日が経とうとしていました。
気がつくと雲行きは怪しくなり
雨がポツポツ 降ってきた
考えてみると 私の服装は仕事着のまま
ワイシャツにスラックス体はベトベトだ
本降りになってきそうだったので
近くの民家の屋根に駆け込んだ。
やがて 予想通り本降りになり 滝のような雨が降ってきた。
屋根の意味がないぐらい
自分が蒔いた種なので 誰を恨む必要もないが
この時ばかりは天を仰ぎ 叫びたいぐらいの気持ちだった。
所謂、高知県太平洋側は天候が変わりやすく
10分もすれば雨は止んだりします。
そんな天気で嘘のように
青空が自分の心とは裏腹に顔をのぞかせます
漁船
インナーのパンツまでビショビショ
これはもうどこかで服を買って着替えて
さっぱりするしかない
それにしてもこのまま ショッピングセンターに行っても
白い目で見られるであろうくらい濡れているので
防波堤の上で 少し乾かそうと寝転んでいると、、、
1艘の漁船がこちらに向かってきた
少し 邪魔になるかと思い
立ち上がって様子を見ていると
40歳前後のご夫婦っぽい姿
船から降りてきて こちらをチラリ
それはそうであろう ワイシャツにスラックス
しかも 先ほどの雨でぐちゃぐちゃ
革靴の中は歩く度
カエルのような鳴き声に似て貧相極まりない。
そのご夫婦の奥さんと見られる
ショートカットの日焼けしたやや筋肉質な女性が
私を見るなり
「どでかい雨やったなあ、ずぶ濡れやんか!ちょい待っといてや」
と漁船に戻り 花がらのタオルを私に差し出した。
(何ていい人なんだ)
「千円頂きまーす!」
一瞬思考が止まった。
間髪入れず
「冗談、冗談やん!」
とニヤける
旦那さんと思われる方は漁船で 後片付けをしている。
そんな合間に その女性は 私に色々と聞いてくるのだ
「おら、その恰好どしたんじゃ?」
屈託のない笑顔で
その女性は私をまっすぐ見てくる
何を言ってもバレそうで、、。
続けて
「おらどこから来た? 釣りに来たわけでもあるまいし 」
それでも私は とっさに嘘をつく、
「営業回りしていると突然この雨に合い ご覧のありさまです。
どこか 下着を売っているような お店ありませんか?」
「ふうん? 営業 ね ?大変だね!」
。 。
「うちに来んかね?」
「へ?」
「そんな恰好で営業も有りますまい」
目が点になった
噓と罪
人の人格形成は、
10歳までに整うと言われています。
小学校の高学年くらいか
私の父親はサラリーマンではない
父親の仕事は【流し】と言われる仕事
その当時 カラオケとかそういったものは無く
その代わりに ギターで伴奏をしたり
歌を歌ってお金をいただくという仕事だ
その時代の前後はあるが
大卒初任給3万5000円程度の時に
流しで稼ぐ 1日のあがりは平均で 9000円ぐらい
とにかく私はよく嘘をついた。
母親から「宿題やった?」と問われ
「やったよ!」と答えるのだ
それがまんまと うまくいくことを覚えると
今度は学校に行って保健室に行き
お腹が痛いとかいって
昼まで眠ったり
体温計をこすり
さも熱が高いことを見せつつ早退をしたり
本当に始末に負えない
学校に何をしに行くか と言えば
寝に行くのだ
ただ それには理由がある
私の父親はとにかく 酒を飲む
仕事がらとにかく 浴びるほど酒を飲む
そして 酒に溺れる。
管を巻く
そして母親に暴力を振るう
決まって夜中の2時3時である。
私はそれを
父親の暴力を止めるでもなく
布団の中でじっと震えながら我慢をしているのだ。
そしてその暴力が収まるのは
父親が酔いに任せて
掛け布団もせず寝落ちするまで
それは続く
だから学校で寝るしかないのだ
話がそれてしまった。
スモールワールド
私はその女性の施しを
ありがたく受けることにした。
そこへ 旦那さんらしい男の人が漁船から上がってきた
私はとっさに
「お世話になります」
するとその男性は一言も喋らず
笑顔で軽く会釈するのだ。
その男性が 発泡スチロールの入れ物 重たそうに持ってるので
とっさに私も端を持って ついて行き、軽トラの荷台に乗せた
女性は 助手席に私に乗れと言うので
とっさに「いや私よりも旦那さんに乗ってもらった方がいいですよね」
と言うと
「あははは 旦那じゃないよ 私の弟だよ」
私の大きな勘違いであった。
私は助手席に乗り「漁の話」や「宿毛市」「噓の営業話し」など
とにかく よく喋った
それは相手に質問をさせないように
とにかく喋ったのだ。
10分ぐらいだろうか 車を走らせ商店街の中に入っていく、、。
「!?」
そして私は
「まさか!?」
と思うのである。
そう私が宿毛に来て 「鳥の唐揚げ定食 大盛り」を
涙ながらに食べた 喫茶店である。
(なんてこったい。何なんだ 一体!)
そしてその女性は先陣を切って
喫茶店の扉を開く
「 カランカラン !」
そして、その女性はこう言い放つのだ。
「おじさん!毎度!お客さん連れてきたよ!」
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