スズメの巣 第17話

第17話 校長の話が長いってなかなか言えません。

8時半。
橋口は、優雅に朝食を食べていた。
お台場のホテルで自腹で前乗りし、ビュッフェをたしなんでいた。

あの決起集会の後、予約していたホテルへ向かった。
あの不運な橋口が、お台場のホテル宿泊券を年末の商業施設の福引で引き当てていたのだ。
その宿泊券の期限が9月末であったこと。
そして、リーグ・ザ・スクエアのアリーナがお台場にあったから。
ちょうどいい機会だと思い宿泊を決めた。
いつもより大きめのバックは、台場駅のコインロッカーに入れていたためバレていないはずだ。
ただ、帰りどうしよう。
まぁいいかと思い、ビュッフェを後にした。

部屋に戻り、チェックアウトの準備をする。
パンツスーツに身をまとい、かばんにはユニフォームを入れた。
忘れ物がないか確認をして部屋を出た。
正直リラックスできた。
たまにはアリだな。ご褒美泊まり。
緊張しないで出来そうだ。
そう思いながらチェックアウトを済ませた。

でもまだ、10時である。
待ち合わせは11時だ。
来ていないだろう。
そう思ったら、スマホが鳴った。
金洗だった。
「おはよう!うーみん。」
「おはよー。どしたー。」
「うーみん。今どこ?」
「えっ。なんで急に?ちょっと早めにお台場の駅だけど。」
「もしそこにいたとしたら?」
「またまた~。うそでしょ!?」
駅のほうを見ると、ミドルヘアーの女性がいる。

正しく金洗だ。
電話を切るなり、こっちに来た。
「おはよう。早いね。」
「いやいや。そうでもないよ。」
「いつも10分前ぐらいじゃなかった?」
「いつもはね。今日はなんかそわそわしちゃって。」
「確かになぁ。まぁ慣れるといいんだけど。」
「じゃあ向かおっか。」
「そうだね。あの2人はそれぞれ車だし。」

会場に向け歩き出した。
「同じスーツの人も多いねぇ。」
「チームスタッフだったりして。」
「まさか~。」
そんなことを話しながら歩く。
台場駅から徒歩10分ほど。
少し暑かったが、汗をかかずに会場に着けたのは幸いだ。

リーグ・ザ・スクエア Jアリーナ。
ここが対局会場である。
アリーナ棟とスタジアム棟に分かれていた。
アリーナ棟は、観客を入れるときの観戦用座席が完備されていた。
ライブにも使用は可能であると、視察の際に言っていた。
キャパは1万5000ほど。
基本的に選手が使うのは、スタジアム棟である。
1部リーグの対局を行う白を基調としたメインスタジアム。
新設された緑と赤を基調としたサブスタジアムなどがある。
正直雰囲気にのまれそうだ。
屋外の駐車場は、300台は止められそうであり、地下にも500台は止められそうだ。
ちなみに、観戦者以外の一般のお客さんにも開放するらしい。

この時点で10時15分。
集合にも待ち合わせにも微妙な時間だ。
「11時現地でよかったかも・・・。」
橋口はそう後悔していた。

「早すぎたかなぁ。」
「まぁ仕方ないんじゃない。どのくらいに入ればいいか分からないし。」
そんな話をアリーナの前の通路で話していると、見覚えのある顔が来た。
「金洗さん。それに橋口さん。」
「ああ。天津さん!」
横浜シティドラゴの天津だった。
「お2人は初めてですもんね。」
「少し早すぎたと思うんですが・・・。」
「いえいえ。そんなこともないですよ。」
「そうですか?」
「ええ。そうだよね?」
後ろの男性と女性に訪ねる。
「はい。このぐらいに来ておいて損はないと思います。」
「へぇー。そうなんですね。」

やはり気になってしまった。
「えー・・・。後ろの方たちは?」
「あ。失礼いたしました。男のほうが分析担当の韮澤、女のほうが今年配属された新人の菊楽です。」
「分析担当の韮澤です。よろしくお願いします。」
「菊楽です。お願いします。」
「それで、こちらが今シーズンから2部に参戦するJOY V-deersスタッフの橋口さんと金洗さん。」
「橋口と申します。」
「金洗です!よろしくお願いします。」
互いに挨拶と名刺交換を済ませた。

韮澤が話した。
「だいたい同じなんですけど、経験から行くと正直11時半とかだとギリギリですよ。」
「本当ですか?」
「ええ。準備ですとか、ヘアメイクとかかなりきつきつですしね。」
「分かりました。ありがとうございます!」
「というわけで、私たちはこれで。」
「お疲れ様です。」
天津をはじめ3人は、アリーナに消えた。

「良かったかもしれないね。」
「あとは選手の方が、どのくらいに来るかだね。」
「それによって分かれそうだなぁ。まあ入って荷物置いて待とうか。」
「賛成。」
そう言って、アリーナへ入っていった。


受付を済ませ、控室に入る。まぁ控室は大きな会議室だが。
1部と2部で隣同士で控室が分かれていた。控室に入ると、1部の控室は人でごった返していた。2部リーグの控室は少し空いていた。
おそらく、1部リーグは経験上早く来ようと分かっていたのだろう。
それで、この人数の差なのだな。
橋口は、思った。

一部の選手とスタッフのみがおり、その中に愛田と鳳がいた。
「遅いぞぉ。」
「逆に早くないですか?」
「俺はツテがあって10時半前には来といたほうがいいって。」
「自分もです。早ければ早いほどいいと。」
「そうでしたかぁ。選手が心配です。」
「あ。それなら問題ない。集合ちょっと10時40分ぐらいに早めたいって連絡しといたから。」
「愛田さんすみません。ありがとうございます!」
「じゃあ。選手迎え行くの2人ぐらい行っとくか。俺行くか。」
「じゃあ私も行きます。」
「いや、お前はあいさつ回りがあるかもだから。金洗行くぞ。」
「はい。分かりました。」

一方アリーナの外では、太平が困っていた。
誰も来てない。会場間違えたかな?心の中で落ち着かなくなっていた。
すると、女性が声をかけてきた。
「太平ちゃん。」
「あっ。はい・・・。」
振り向くと沖村がいた。
「どうしたの?こんなところで?」
「いや・・・。誰もいなくて不安だったんですけど・・・。よかった~。」
「なるほどね。噂をすれば来たよ。」

アリーナの入り口から出てきた。
鳳と金洗だ。
「いやお待たせしてます。申し訳ない。」
「じゃ金洗。案内よろしくな。」
「分かりました。こちらです!」
アリーナの控室に案内した。

橋口は、すでに到着していたチームスタッフと選手にご挨拶を始めた。
先のドラフト会議では、挨拶もできる雰囲気ではなかった。
「ご挨拶よろしいですか。」と3チームぐらいしか挨拶ができなかった。
後日談だが、全部のチームに挨拶してみたものの。
やはり個性的な人が多かったそうだ。
また、本業とともにチーム運営をしているとあってなかなか会えない。

10時40分ごろ。
無事、日ノ出と布崎も合流した。
12時を超えて、選手たちが揃い始めると和やかな雰囲気と親交のあるプロ同士で話すことも多くなった。
それに加えてチームスタッフたちの交流も多くなった。

運営本部のスタッフが入ってくる。
「皆さんリハーサルを始めますので、アリーナへお願いします。」
「はーい。」と言って控室を出始めた。

橋口は、見学に行くなり、衝撃を受けた。
「開会式ってこんな豪華なんですか?」
一緒にいた愛田にこそこそ話しかける。
「ああ。ステージは大きいしな。」
「にしても大きすぎませんか?」
「JOYグランドスラムのグループ会社にライブの現場を指揮する知り合いがいてな。この写真を見せたら、マジのアーティストのライブ級だなと言ってた。」
「ですよね。」
驚きを止められない。

「では、リハーサルを始めますのでよろしくお願いいたします。」
リハーサルは淡々と続く。
立ち位置の確認。
選手宣誓のごあいさつ。
まずはブロックごとにリハーサルが続く。

そして、通しでリハーサルを行った。
その間もスタッフたちは、動きまくる。
ざっと1時間半ぐらいであろうか。
14時前には、リハーサルが終わった。
「では、皆さんよろしくお願いしまーす。」
各自控室へ戻っていく。

「みなさんお疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
「いかがですか?」
橋口が尋ねる。
「緊張してますね。フフフ。」
「日ノ出さんもですか。私もです。」
「そうですか?みくちゃんは大丈夫です?」
「えぇ。怖いんですけど・・・。」
「もしあれだったら前変わるからね。」
「ありがとうございます・・・。」
「凛ちゃん男前~。」
なんかチームとしてまとまってきたと思う。

各チームや各選手この時間を活かして各々時間を過ごす。
スマホを見る者。パソコンで作業する者。ご飯を食べる者。など分かれていた。
気になるのは、所々で撮影をやっているということだ。
すると、ある選手が控室を訪ねた。
「こんにちは。小樋ですー。インタビュー取らせてくださーい。」
どうやらチャンネルの「小樋放送局」の生配信だという。
「じゃあまずは、ぬのっちちょっと。」
「俺?」

布崎が小樋のもとへ行く。
「では、改めて視聴者の皆さんに自己紹介を。」
「雀士協会の布崎勇気です。どうも~。」
「前に生配信にも出てくれて。」
「いやいや。とんでもない。」
「初選出だけどどう?」
「緊張はしてる。正直怖いね。」
「だよね。そりゃ怖いよなぁ。」
「明日から試合?」
「そうなんだよ。ぬのっちもだろ?」
「自分は水曜から。」
「水曜の試合出んの?」

橋口たちのほうを見た。
秘密で!!
手帳をカンペ風に見せた。
「チームのスタッフさんからNGが出た。というか出るかもわからない。」
「まぁ戦略練られたらねぇ。当たり前ですが。」
「逆に出んの?」
「俺はチームにも確認した。言っていいのかなって?」
「ああその言い方はダメだな。」
「そしたらオッケー出たの。」
「じゃあ言えるんだ。どっちよ。」
「明日のどっちかの試合には・・・出ます!」
「おおー。出るんだ。」
「ただ、どっちの試合までは言えないです。ただ試合あんのかな?」
「まあそうだろうね。確かにどうなるか分からないもんね。」
「うん。じゃあ最後に意気込みとか一言くれる?」
「オッケー。えー。皆さん恥じないような麻雀を打ちたいと思います。よろしくお願いいたします。」
「というわけで、ありがとね。布崎さんでしたー。」
「どうもー。」
小樋は去っていった。

やはりプロだ。橋口は感心していた。

一方1部リーグの楽屋は全員が仲のいい感じだった。
1クラス感もあった。
ただ、チームごとのミーティングになると急に静かになる。
メリハリがついている。

六本木桜花隊陣営は、落ち着いていた。
すでに、選手を決めていた模様。
「昨シーズン優勝は、まぐれではないと。証明しましょう。連覇はまだ少ないです。今年の優勝だけでなく、その次シーズン合わせて3連覇を視野に入れてます。よろしくお願いいたします。」
「今アツい人もいますしね?」
「天下統一戦決勝まで行ったんですから。」
「僕かい?丁寧に打つまでですよ。」
「すごい大人。」

横浜シティドラゴ陣営は、全員が本気の目をしていた。
「新田ちゃん。団体代表として言ってやんな。」
「今年こそは優勝目指しましょう!」
「よっしゃ!新田ちゃんのため勝つよ。」

麻雀組 焔陣営は、浅野中心で話が進められていた。
「おそらくエースが出てくるかと。つまりエースを叩くいい機会です。」
「なるほどね。戦略的に攻撃派が出てくると。」
「戦略的に西さんで行こうかなと。」
「僕ですか。了解。」
「お願いします。」

有楽町麻雀カルテット陣営は、熱くなっていた。
「今回ダイヤモンズが欠場表明したことで、このままだと新たなシステムで降格は免れないです。意地でもジャパングランプリ本戦出場はマストです。」
「確かに。」
「なので、開幕戦は、若井さんにお願いしたいんです。」
「分かりました。全力を尽くします。」
「優勝目指すぞ!!」
「おー!」

各自の思惑をのせ、シーズンが始まる。

16時。
まさに、会場はライブさながらの熱気だった。

「さあ始まりました。リーグ・ザ・スクエア開会式であります。」
「まずは、開会宣言。」

「ただいまより、リーグ・ザ・スクエア新シーズンを開幕いたします。」
その言葉と同時にキャノン砲から紙吹雪が発射された。

「ありがとうございました。続きまして選手入場!!」
BGMに合わせてナレーションが読まれる。

「新たな風たちよ・・・。暴れまくりやがれ!!!!」
「夕暮れポセイドンズ!!」
選手が出てくる。
この繰り返しであった。


橋口は、思わず突っ込んだ。
「もう完全にライブじゃないですか!!」
「演出に凝ってるからなぁ。」
「毎回すごいですよね。」
「野外はびしょ濡れになったこともあったなぁ。」
「なんで!?」
意味が分からない。
選手入場は続く。

すべて出終えた。
次は1部リーグの入場だ。
「新しい風?やれるもんならやってみろ!!頂を目指すのは俺たちだ。」

「海賊が生き返ると狂暴になるんだよ。魅せてやる。海王ゴールドバンディッツ!!」

「今年も桜吹雪はやむことはない!!王者は俺らに決まってんだよ!! 昨シーズン覇者六本木桜花隊!!!」
六本木桜花隊だけせり上がりで、登場した。
さすが優勝チームだった。

全チーム入場が終わる。
すると司会が話し始めた。
「では、入場を見て頂きました。続きまして優勝旗返還。」
旗が返される。

「続きまして、選手宣誓。昨シーズンMVPでありますRAKUWAホビーウォーリアーズ 美岡選手お願いします。」

「宣誓。我々選手一同はスポーツマンシップに則って真剣に戦うことを誓います。また、イカサマなどした場合は絶対に許さない姿勢。そして手を染めないことを固く誓います。選手代表RAKUWAホビーウォーリアーズ 美岡義郎」

拍手が巻き起こった。
「続きまして、大会役員のごあいさつ。」

これがまぁ。長い。
正直卒業式の話よりも長い。
橋口は落ちかけていた。
「橋口、寝るな。」
「まだ大丈夫です。」
「目がとろんとしてるよ。」
「大丈夫。寝てる人もいるから。」
右の鳳を突っついた。

20分ぐらいだろうか。
すごく長かった。

「では、続いて開幕選手発表に移ります。一斉に発表します。こちら!!」

東 East  六本木桜花隊     青山 侑大
南 South 横浜シティドラゴ   金沢 敬八
西 West  麻雀組 焔      西  瑠真
北 North 有楽町麻雀カルテット 若井 波男

「開幕選手はこちらになります。この後18時試合開始予定です。」
「では、こちらをもって終了と言いたいところですが・・・。」
「1部リーグの皆様・そしてファンの皆様にサプライズ発表がございます。」

「何だ。」
「俺にも分からない。」
「何も聞いてないです。」
2部リーグスタッフ陣は、混乱していた。
1部リーグの控室では動じなかった。

「サプライズはこちら!!」
「トライアングルルール始動。」
会場がざわつく。
「今回ダイヤモンズが欠場いたします。それに伴い麻雀のシステムの一つであります三麻に注目いたしました。」
「週2日は通常ルール。週2日はトライアングルルールで行います。」
「なおトライアングルルールは、通常と同様25000点持ち30000点返し。1着2着は点数の差異なしの順位点1着20ポイント+ウマ20ポイントの40ポイント、2着は+10ポイント。3着は、△60ポイントとなります。ちなみに、通常ルールが、3着-10ポイント、4着で△30ポイントです。」

「以上になります。選手の皆さま頑張ってください。」

スタッフ陣は混乱した。
「つまり、四麻とサンマをやるってかんじですね。」
「でも、2部は関係ないですよね。」
「そうだな。」
「昇格しやすくなるチャンスかもですね。」
「いや。そうとも言い難い、サンマは攻撃力が上がる。一度の上がりで点差を付けられる。守りに入るか攻めるか。ただ、守りを固めてもマイナス60はでかい。どんな場合にも対応出来るようにしとかないと一気に落ちる。つまり、ジャッジメントトーナメントでは一段と強くなってる相手を倒さざるを得ない形だな。」
「なるほど。怖いですね。」
橋口は、口をとんがらした。

第18話へ続く。



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