スズメの巣 第31話
※この物語はフィクションです。
第31話 天下は見たくない。
ジャッジメントトーナメントが終了した。
その翌日から始まったジャパングランプリは、横浜シティドラゴが制したという。
つまりシーズンを終えた。
チームの選手は、個人のタイトルをかける戦いに戻っていく。
そんなバタバタな毎日が落ち着くはずだった。
しかし、いまだ続いている。
橋口は、チームオフィスで新たなスポンサーの模索をしている。
そして、金洗・鳳はスポンサーの交渉やらで外回りに行っている。
プルルルル。
電話が鳴った。
「はい。リーグ・ザ・スクエアチームオフィス。橋口です。」
「受付の峰です。お疲れ様です。」
「ああ、お疲れ様です。」
「太平みく様というお客様が見られています。お通ししますか?」
みくちゃん?なんでまた?
そう考えながらも、橋口はこう言った。
「お願いします。通してください。」
「承知しました。ご案内しますね。」
「はい、失礼しまーす。」
ガチャ。
しばらくして。
チームオフィスに、太平がやってきた。
「おはようございます。橋口さん。」
「おはよう。どうしたの?急に。」
「ちょっと話がありまして。」
「話?まぁ立ち話もなんだしね。こちらどうぞ。」
応接室に案内する。
「たしか、お茶だったよね。」
「お気にならさらず。」
紙コップに注いだ緑茶を差し出す。
「ありがとうございます。」
「で、どうしたの?」
「急な報告になってしまうのですが、私会社を辞めました。」
「あっそっか。会社勤めだったもんね。」
元々、太平は会社勤めでこっちは副業だった。
あれ?こっちが本業?
ちょっと混乱したが、それよりもえっ?
軽い感じで言ったが、冷静になって驚いた。
「というか、辞めちゃったの!?」
「はい。」
「ああ・・・。」
橋口は、ひどく動揺している。
「なんで、辞めちゃったの?」
「実は、覚悟を決めたいなと思いまして。」
「覚悟?」
「ええ。こんな若輩者ですが、ありがたいことに天下人も取れた。そして、リーグ・ザ・スクエアにも参加させてもらっています。その中で、去年から団体のタイトル戦とかリーグ戦とかも着実に進化できている実感がありました。ただ、会社だと縛りも生まれちゃうかなと思って・・・。退職する決意を固めたんです。」
「なるほど。」
「だから、自分自身さらに強くなりたいし。チームにも貢献出来たらなと思ってます。」
「そういうことか。ってことはこれ一本?」
「まぁ、出来たら他のアイデアがあったらやるつもりですけど・・・。」
「そっか。みくちゃんが決めたことだもん。応援するよ!」
「ありがとうございます!」
緊張しているのかもしれない。
でも・・・。
やっぱ可愛すぎない?
橋口は、心中ニヤニヤしていた。
おいコラ変態!
心の中で、そんな自分に喝を入れ橋口は聞き返した。
「ところで、天下統一戦も近いけど調整はどうかな?」
「なんとかやってます。」
「目指すは?」
「今回は、出来ればファイナリストになりたいです。」
「優勝じゃないの?」
「ええ。連覇は考えたくないんです。プレッシャーになるかなと・・・。」
「いいんじゃない?」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、自分らしくね。」
「はい。」
「そしたら、このあとは?」
「ちょっと用事が・・・。」
「そっか!じゃ気を付けて。」
「ありがとうございます。失礼します。」
橋口は、太平を見送った。
橋口には分かった。
その決意は、ゆるぎないものだと。
現在3月中旬。
麻雀天下統一戦は、4月第1週の日曜日に決勝・準決勝が開催される。
あと、2週間ほど。
連覇は珍しくないが、もし連覇ってなったら太平にとっては大きな自信になるだろう。
そういや準々決勝は、終わってるのかな?
そう思った橋口は、デスクに戻る。
橋口は、麻雀天下統一戦の結果を見た。
「あ。終わってる。」
そうつぶやいて、サイトを見た。
麻雀天下統一戦 準決勝進出者
(所属団体・準決勝進出回数)
※通過順位順
麻雀天下人 太平みく
(振興会・2年連続2回目)
帝雀位・翻王位 鮫島 武
(競技・4年ぶり6回目)
ジェネレーションカップ30代部門王者
藤尾 清助
(全日本・準決勝初進出)
eサバイバル総合優勝
須野江 唯司
(全日本・8年ぶり2回目)
雀猛位 鵠沼 昭夫
(全日本・13年ぶり3回目)
紅王位 鈴木 もみじ
(雀士協会・準決勝初進出)
電現王座 新田 天
(電現・2年連続2回目)
ルーキーズグランプリ王者
川戸 あかり(競技・本戦初出場・初進出)
スポーツ麻雀選手権 優勝
目瀬 あおい
(振興会・5年ぶり2回目)
オーバー60玄人戦王者
赤坂 五十六
(全日本・4年連続15回目)
琉猛位 北谷 ゆりな
(全日本・準決勝初進出)
男女統一ツアー総合優勝・女子ツアー年間優勝
若宮 香菜
(雀士協会・本戦初出場・初進出)
今年は、女流が多く準決勝ステージ進出した。
そして、5団体すべての最高王座が準決勝に残った。
それは、24年ぶりの快挙だという。
ただ、橋口は名前を見てもなんのこっちゃ分からない。
勉強中であるものの、知らない人ばかり。
橋口は、静かにページを閉じパソコンも閉じた。
つづく。
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