スズメの巣 第7話

第7話 姫たちのロワイヤル

「では、私金洗から報告させていただきます。」
「よろしく!」

「私は、全日本から2人と面談してきました。」
「自団体から出したいのはわかるが、忖度はダメだぞ。」
「さすがにわかってます。入って1人です。」
「なんで1人なんだ。」
「いろんな団体から入れるというのはチームの方針ですから。」
「ならいいわ。」
鳳がおどけた。
「まず1人目は、水名紗香ちゃんといいます。ずばり私の後輩です。」
「後輩ちゃんか。この会社の?」
「いえ。高校時代です。プロになったのは私自身驚いてます。」


水名 紗香(みずな さやか)23歳。
プロ歴は2年目。全日本麻雀連盟所属。
プロ1年目で、全日本の女流リーグ戦(姫頂位戦)のDリーグを優勝。
出場権を得た、Cリーグ2~4位とDリーグ優勝者が争う女流下克上戦に進出し優勝。優勝副賞としてAリーグ昇格を最速で決めた。

2年目の今年度は女流Aリーグ参戦中。
その功績が認められ、団体最高位である雀猛位戦リーグも、上位10名までが飛び級あり。かつ優勝者はAリーグまで昇格できる下剋上戦に参戦して、4位入賞。
FリーグからCリーグへ3ランクの飛び級を決めた。
選考レースは、40人中20位とどうなるか分からない。
鳴き重視で、スピードが速い。
通り名は「流星シンデレラ」
獲得タイトルはまだない。

団体の本部に近いことで、全日本麻雀連盟のプロがご用達のファミレスに入った。
「あっ。先輩こっちです~!」
声が聞こえたほうに歩いた。
「お待たせ。ごめんね急に。」
「とんでもないですよ!逆にどうかしたんですか?」
「最近どうよ。麻雀のほうは?」
「女流リーグはなんとか決定戦は圏内なんで。次が最終戦で確実にしたいです。雀猛戦は昇級はギリですかね。降格はないと思いますが。」
「そうなんだ。じゃあ狙うは姫頂位だ。」
「行けたらですけどねぇ。」
水名は恥ずかしそうに言った。
「もし、姫頂位取ったらさぁ史上最短かな?」
「一応調べたんです。2年目は2人いて、2人とも移籍組だそうです。生え抜きだと初だそうです。」
「そっか~!もし取ったら女流で最も雀猛位に近い女って言われたりして?」
「からかわないでください!!」
水名は、少し膨れた。

「じゃあ、ちょうどいい機会かもなぁ。」
金洗がつぶやいた。
「何がですか?」
「ずーなはさ、リーグ・ザ・スクエアの選手として活躍したい?」
「どういう意味ですか?」
「私ね。リーグ・ザ・スクエアの来シーズンから参戦するチーム担当になったの。」
「あっ。そうなんですか!」
「今は、いろんな選手からうちのチームにふさわしい選手を見極めてるの。」
「そうなんですね。」
水名は少し困惑していた。
「もし、出る機会があったら挑戦してみたいかな?」
「確かに、勉強になる機会があるのはうれしいです。」
「じゃあ興味はある形だね?」
「はい。ただ私は今じゃないと思っていて、もう3つぐらいタイトル取ってから参戦したいです。」
「なるほど。姫頂位と雀猛位は狙うとして、あと一つはどうすんのさ?」
「当然天下です。」
水名の強い決意に少し驚きながらも、水名らしいと感じた。
「なるほどね。気持ちはよくわかったわ。今日はありがとうねぇ。」
「本当こちらこそありがとうございました。」
「よっ姫頂位!」
「まだ早いです!」
「ふふ。じゃあねー。」
軽快なテンポで、ファミレスを後にした。

「続いて2人目は、私の7期上の高屋優花ちゃんです。」
「結構有名だよね。ネクストブレイクみたいで。」
「有望な選手ですね。」
「おそらく競合は覚悟だな。」

高屋 優花(たかや ゆうか)30歳。全日本麻雀連盟。
プロ歴は11年目。
2年目から確実に昇格を決め続け、5年目で女流Aリーグに到達。
決定戦シードを含めて5年連続女流Aリーグ残留中。
半年に1度開催される1DAYトーナメント天姫位では3度の優勝。
準々決勝以上は8回進出と圧倒的な強さを見せる。
リーグ・ザ・スクエア指名も時間の問題とされている。
選考レースは、40人のうち、16位とまずまず。
タイプは門前スピード型で攻撃重視。
獲得タイトル
姫頂位2期・女流1DAYトーナメント天姫位3期(全日本)
新人選抜選手権 女流個人戦優勝(外部)・eサバイバルブロック王者6回(5団体最強女流戦・Uー30中堅王者決定戦など)(電現)など
通り名は「麻雀界の才媛」

水名と別れて別のファミレスに移動した。
高屋はまだ来ていなかった。
スマホに目をやると、高屋からメッセージが届いていた。


「ごめんね。急遽1人欠場してタイトル戦に繰り上がりで出場することになった!だいぶ遅くなる」
「わかりました。頑張ってね!」
金洗は返信した。


高屋が言っていた全日本麻雀連盟主催の女流新タイトル戦は、5団体の女流なら全員参加可能の女流世代別トーナメント「世后戦(せいごうせん)」。その大会の、繰り上がり出場が決まったという。

世后戦とは、5団体の各世代ごとに戦い、ブロック代表が優勝を目指す。
20~オーバー60歳代にわかれ、世代前半を○○代Aブロック。後半をBブロックとして戦う。
高屋は、30代Aブロックベスト8で敗退したが、欠員が出たためブロック代表決定戦への出場が決まった。

金洗は高屋の試合を見守った。
試合は、高屋の圧勝。全日本30代Aブロック代表として出場する。

鳳が口をはさんだ。
「そういや。世后戦に太平さん出るんだよなぁ。」
「そうなんですか!」
「麻雀天下人枠として本戦2回戦からだってよ。」
「そういえば鳳さん言ってましたね。」
「じゃあ報告に戻っていいですか?」
金洗は困りながら聞いた。
愛田が「申し訳ない。続けよう。」
「では、再開しますね。」

そんな高屋の対局が終わってから30分後。
息を切らしながら、高屋が来た。

「ごめんねーーー。ほんと遅くなっちゃって」
「とんでもないですよ。ブロック代表おめでとうございます!」
「ありがとう!あっすみません。生とミックスグリル一つ。一緒にお願いします。」
「かしこまりました~。」

「そんなことよりどした?」
「いや実はまだ公表はされてないんですが、私会社でリーグ・ザ・スクエアに携わることになって。」
「そっか。そういえば本業はJOYグランドスラムで働いているって言ってたっけ。」
「そうです。でゆっかーさんに相談というがありまして・・・。」
「なるほどね。だいたいは察した。」
「ぜひ、リーグ・ザ・スクエアの選手にいかがでしょうというお話なんですが・・・。どうですか。」
「うーん・・・。返事したら決まっちゃう感じかな?」
「あくまで1回目の面談なので、確定ではないです。あくまでご相談という形なんですが・・・。」
「さくちゃんの気持ちはわかるんだけどねぇ・・・。」

「お待たせしました。生ビールとミックスグリルです。ごゆっくりどうぞ~。」
少し邪魔が入った。

コホンと一つ咳払いをした。
「実はね、さくちゃん以外にも結構なチームから声かけられてて。」
「あっそうでしたか。ちなみに、どれくらいですか?」
「6・・・いや、7チームぐらいかな。」
「結構ですね!興味があるチームはどれくらいですか。」
「まぁ3つぐらい?」
「うちはどれぐらいですか?」
「候補には入ったね。だから4チームか。」
「順位的には・・・?」
「まだ決められないねぇ。申し訳ない。」
「そうですか・・・。いい返事待ってますね!」
「前向きには検討するよ!今日はごめんね!」
「それでは失礼いたします。」
ファミレスを去った。

「といった感じですね。」
「そうすると、水名さんは今は興味なし。高屋さんがライバル多数か。」
「かなり厳しいかもですね。」
「仮に高屋さんを指名したとしてくじ引きは免れないか。」


愛田はふと疑問を投げた。
「橋口ってくじ運どうなの?ドラフト会議は野球同様くじ引きだし。」
「いい方と思いますよ。」
「嘘でしょ。運そんなないじゃん!」
「ひどーい!なんでそんなこと言うの!?」
「あれはどう説明するのさ。福引5連続ハズレの後、鳥の糞が4日連続で落ちてきたこと。」
「うっ・・・。」
橋口は、核心を突かれたようで反論できなかった。

「となると、くじは3人の誰かになりそうだな。」
「そうだねぇ。」
「そんなことより、本題に戻りましょう!」
橋口は、少しキレながら言った。

一息おいて、橋口は話し始めた。
「今の報告からメンバーはもう少し詰めるべきですね。」
「そうだな。チーム的にもいろんな世代がいたほうがいい。」
「そしたら、チームバランスは2:2のほうがいいと思うんです。」
「そうだね。男性2名と女性2名にしましょう。」

「そうすると、やっぱ強いのは経験者だからねぇ。ベテラン勢を男性にしたほうがいいかもなぁ。で若手を女流に任せるという形でどうよ?」
「賛成です!そうしたら色んな意見もあるでしょうし。」
「うん。そうだな。リーグ・ザ・スクエアはトップが偉いルールだし、精神的支柱が必要だからそっちにしたほうがいいな。」
「チーム方針は決まりましたね。次はドラフト会議直前に選考レース上位10名に大規模な面談を実施しましょう。」
「了解。」
「長いなぁ。」
「あっという間ですよ。」
そういってミーティングを終えた。
夕焼けが美しく見えた。

第8話へ続く。




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