スズメの巣 第28話

第28話 信じる者

V-deersのリレー順はこうなった。
先鋒 太平
次鋒 布崎
中堅 沖村
大将 日ノ出

正午。
生中継が始まった。
「冬の寒さがまだまだ身に染みる2月下旬。早くも来シーズンを占うジャッジメントトーナメント1日目が始まります。」

「皆様、こんにちは。本日はジャッジメントトーナメント1日目の様子を生中継でお届けします。実況の土肥です。そして、本日はプレイヤーズゲストをお招きしております。ジャパングランプリ予選ステージ敢闘賞の有楽町麻雀カルテット 中元瑠那選手です。よろしくお願いいたします。」
「お願いします!」
3分ほど、雑談をはさみホイッスルが鳴る。

六本木桜花隊・JOY V-deers
アイロンマレッツ・夕暮れポセイドンズの4チームが生き残り。
そして、下剋上を目指す戦いの火ぶたが切って落とされた。

第1試合の対戦カードは、こうなった。
桜花隊 先鋒 赤坂 東家
V-deers  先鋒 太平 南家
乃木坂 先鋒 田村 西家
夕暮れ 先鋒 榊  北家

ここは、田村が大暴れ。
東場では、アガリラッシュ。
5万点台へ猛チャージをした。
そして、東4局では、跳満をアガリ6万点台突入。

このまま田村のムーブかと思われたが、南場。
試合の折り返しを機に、事態が変わる。

南1局は、田村の先制リーチに、親番赤坂が追っかけリーチをかけた。
そこで、赤5ピンを田村が掴み、一発放銃。
そして、裏ドラが3枚。
リーチ・一発・タンヤオ・ドラ2・赤・裏3→9翻
親の倍満。18000点を放銃する展開。

それが悲劇の始まりだった。
南2局。
榊の親番では、オリウチによって赤坂が田村から、満貫を打ち取る。

そして、南3局。
太平が、親の満貫ツモ。
田村は、焦りだした。
その焦りが、事態を一変。
1本場と呼ばれる時に、太平の満貫ダマテンに躊躇なく放銃。
ここまでで、4万点を打ち込んだ。
みるみるうちに、3着。
ラスも見えるように。

オーラスは、全員テンパイせず。
試合終了。

赤坂・太平が勝ち残った。

第2試合
対局者はこうだ。
桜花隊 先鋒 赤坂 西家
V-deers  先鋒 太平 東家
乃木坂 次鋒 高屋 南家
夕暮れ 次鋒 鯵沢 北家

この試合は、スピード勝負となった。
鳴き・副露によって中打点戦。
満貫以上が1回のみだけだった。

太平・鯵沢は、的確に打ちまわす展開となった。
バランサーの2人は、思うようにツモが効かない。
南1局。
高屋がようやく、高打点をテンパイ。
しかし、時すでに遅し。
鯵沢の、白のみ1000点で夢を打ち砕かれた。

南3局。
再び夢がかなうかもしれない。
赤坂が役満四暗刻リーチをかけた。
しかし流局。

2人は、とことんツイてない。

そのまま試合終了。
1回満貫を上がった鯵沢が逃げ切り1位。
じわりじわり上がっていた太平がオーラスでギリギリ捲られず。
2着となった。

この時点で、4人全員生き残っているのはV-deersのみ。
六本木桜花隊・夕暮れポセイドンズは、残り3人。
第2試合が終わり、乃木坂ヴィーナスアイロンマレッツが2人脱落。
一番危険地帯であった。

アイロンマレッツ陣営は、重い空気が漂う。
「本当にごめんなさい!」
田村は、必死に謝る。
「田村ちゃんが悪い訳じゃないし。大丈夫だよ。」
「そうそう!次だよ!次。」
みんなが、励ます。

その様子を見ていた森野監督が、口を開く。
「そうかもね。」
みんなが、驚く。
「あなたのせいかもね。」

「ちょっと監督。言いすぎじゃないでしょうか・・・。」
チームのGMが、困惑気味に止めに入る。
「何が言いすぎなのよ。」
「令和ですよ!今。」
高屋が少し怒る。
「だから何?令和だからって忖度しないわよ。あと令和だからよ。」
田村は、泣き出してしまった。
「うぅ・・・。本当にごめんなさい・・・。」

チームの雰囲気が暗くなる。
「さすがに、謝ったらどうですか!金村さんもなんか言ってくださいよ!」
沈黙を貫いていた、金村が話し出した。

「優花ちゃん。一回落ち着きなさい。森野さんは、全部話終えてないはずよ。」
「そんなワケないじゃないですか!」
「その通りよ。確かに言葉が足りなかったわ。だからと言って撤回はしない。」
「はぁ?謝ってくださいよ!」
「あすかちゃん・・・。」
「無視しないで!」
「優花ちゃん!!」
金村が一喝した。

「いい加減にしなさい!今、2人の会話よ。外野がとやかく言う話じゃない。」
「でも!」
「でもじゃない!とりあえず話聞きなさい。文句を言うなら終わってから考えなさい。」
「んん・・・。」
森野をにらみながら、一歩引く。

「あすかちゃん。さっきそう言ったのは麻雀自体は負けたもの。」
「・・・はい。」
「それは、個人競技としてはダメに決まってる。」
「はぁ。」
「それで、なんでみんなを信じてあげないの?」
「それは・・・。」
「私は、昭和な人間よ。だから個人勝負しかしてこなかった。勝つも一人、負けるも一人。」
森野は、話を続ける。
「このリーグ・ザ・スクエアは、チーム戦でしょ。これは昭和麻雀じゃない。新時代の麻雀よね。さっきの言いぶりだと、周りを信用してないように聞こえたわ。」

「あなた個人だけじゃない。チームはまだ2人残ってるじゃない。」
そう言うと、金村・金城の方を見た。
そして、話を続ける。
「とにかく、チームを信じなさい。強く言いすぎたわね。ごめんね。」

「うわぁぁぁん!!!!」
田村は、森野に向かっていった。
森野は優しく抱き締めた。

「そういう意図があったんだ・・・。ごめんなさい。」
高屋は、頭を下げた。
「私たちのこと信じなさい。泣きたければ私たちがいるから。」
金村が笑顔で言った。

「ありがとうございます・・・。あとはよろしくお願いします。」
「うん。任せなさい。」

金村は、頼れる姉貴。
森野監督は、母のようだった。

つづく。


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