スズメの巣 第9話
第9話 絶望の先にある2ミリの希望
ペンを執った橋口は、名前を書き終えた。
「もうお書きの方もいらっしゃいますが、パールズとダイヤモンズ以外は2巡目指名をお願いします。」
「どうしましょう。3巡目以降怪しいです。」
「まぁ。なんとかなるだろ。まずは、2巡目だ。」
「そうですね。」
橋口が不安になる中、土井が話し始めた。
「さぁ選手出そろいました。では、2巡目指名です。」
「海王ゴールドバンディッツ 2巡目指名・・・。」
「安面 龍(やすも りゅう) 雀士協会」
「私この人面談しました。選考レースベスト10です。」
「ベスト10が出尽くすかもなぁ。」
それは、ドラフト開催2週間前。
「あぁ。こちらです。」
少し渋めの喫茶店を指定されて、金洗はやってきた。
名前に反して見た感じ英国紳士のように見えた。
「この度は貴重なお時間を頂きまして誠にありがとうございます。」
「いえいえ。こちらこそご足労ありがとうございます。」
「改めて私、JOYグランドスラムリーグ・ザ・スクエアチーム担当の金洗と申します。」
「雀士協会で審判長及び四季王戦大会会長を務めております安面です。」
名刺を互いに交換した。
ちなみに、四季王戦とは、雀士協会の選手を対象とした大会であり、1月の賀正戦・3月と4月の咲櫻戦(みんおうせん)・7月の夏祭戦・11月の紅王戦の優勝者と前年優勝者の5人で争われる12月の大会のコトだ。ツアーと違い、各団体のルールで行われるため、オープン戦での強化にもつながる。
「ご注文は?」
「えっと・・・。アイスティーでミルクとガムシロなしで」
「かしこまりました。」
「では、早速本題なんですが・・・。」
「えぇ。」
「今回は、リーグ・ザ・スクエアについて伺っているんです。弊チームもドラフト指名を検討しています。」
「そうですか。ありがたいお話ですね。ただ・・・。」
「何か都合が悪いことなどがございますか?」
「いえ。実はですね。そのようなご用件は他チームの方からも伺っておりまして・・・。」
「左様でしたか。」
「もし、あなた方のチームよりも他のチームが先に指名されたらという不安があります。その場合にはどうすべきでしょうか?」
「そのような場合につきましては、別チームの交渉に乗って頂いて条件などを懸案してそのチームに所属していただいてもかまいませんので。うちのチームは無視して頂いて大丈夫なので。」
「かしこまりました。では、指名を頂けたら誠心誠意頑張る所存です。よろしくお願いします。」
「ありがとうございます。」
「完全に紳士ですよ。すごすぎます。」
「格好いいよなぁ。男でも惚れる。」
「続きまして、大阪ラフミカエルズ2巡目指名・・・。」
「麦野 五武(むぎの いつたけ)全日本麻雀連盟」
「元海王勢か・・・。」
「現役を知っているアドバンテージは大きいですよね。」
「続きまして、オダイバ eレインボーズ2巡目指名・・・。」
「しのびーる プロ電現麻雀連盟」
ファンどころがスタッフ陣も困惑していた。
「俺は知らねぇぞ。」
「愛田さんは?」
「俺もまったくだ。」
「うーみん。今調べたよ。プロeプレイヤーで活躍しているらしいね。そんで電現主催で去年開催されたeアスリートスカウトロワイアルで優勝。優勝賞品のプロ昇格権で、電現麻雀連盟のプロになったらしい。タイトルはまだないね。」
「道理で知らないわけだ。」
「続きまして、キャピタル麻雀部2巡目指名・・・。」
「若林 浩二 プロ競技麻雀協会」
「おっと。これはベテランじゃんか。この人も無冠の帝王だな。外部試合に強いんだ。あと、分析力がえぐいから。誓桃戦では3度の優勝をチームにもたらした。通り名は麻雀孔明だな。」
「敵には回したくないですね。」
「続きまして、JOY V-deers2巡目指名・・・。」
「布崎 勇気 雀士協会」
会場は歓声に沸いた。
「こんな人気なんですね。」
「あぁ。麻雀は自分の麻雀を打つ。団体を変わるのは自分の成長のためらしい。その姿が愛されているな。」
「続きまして、神保町ブラックタートルズ2巡目指名・・・。」
「嘉礼 歩 プロ競技麻雀協会」
「おっと、戻すのか。」
「どういうことですか?」
「元リーグ・ザ・スクエアの選手なんだよ。今監督務めてる才田さんとは因縁があるんだ。跳満以上を打ち合った伝説の1戦があってな。」
「鳳さん、そのへんで。」
「話させろよぉ。」
「続きまして、乃木坂アイロンマレッツ2巡目指名・・・。」
「高屋 優花 全日本麻雀連盟。」
「選ばれましたね。」
「仕方ないです。ゆっかーさんは時間の問題でしたし。」
「続きまして、幕張麻雀闘宴団2巡目指名・・・。」
「本郷 勝雄 プロ競技麻雀協会」
「鬼の本郷か。」
「鬼の本郷?」
「決めるときは決めるんだが、打牌が強すぎるからな好き嫌いは分かれるな。」
「私は嫌いかも。」
「はっきり言うなぁ。」
「なんか威圧的ですし。」
金洗は、苦い顔をした。
「最後に、夕暮れポセイドンズ2巡目指名・・・。」
「三崎 大 プロ競技麻雀協会」
「少し年上に見えますね。」
「中堅の中でも比較的遅咲きの苦労人。準決勝までいつも残るがあと1歩だった。ところが、7年前の翻王戦で優勝してから覚醒。その年の帝雀位と麻雀天下人を獲得した。男版シンデレラだな。」
「2巡目は全チーム重複なしです。交渉権獲得です。」
「では、20分程度の休憩に入ります。皆様集合時間には遅れないようお願いいたします。」
そのアナウンスを流した。
「俺はトイレに行ってきますよ。」
「了解です。」
「とりあえず、2巡目は終えました。問題は次からです。」
「ちなみに、ベスト10はあと何人だ?」
「あと4人ですね。」
「誰がいる?」
「元リーグ・ザ・スクエア選手の全日本岡田さん。電現王座4冠の日ノ出さん。競技の川口さん。そして、競技の今シーズン速王戦覇者の戎井さんの4人です。」
「誰も競合しそうだな。特に岡田さんは。」
「そうですね。どうするのうーみん?」
橋口は、覚悟を決めた。
「岡田さんは外します。おそらく、競合になることが予想できます。」
「確かに調子はいい。おそらく狙ってるチームは多いな。俺は本人から聞いた。」
ドラフト4週間前。
全日本麻雀連盟プロご用達のファミレスに愛田がいた。
「すみません。愛田さんですか?」
目の前には、金髪のショートカットでざっと40代ぐらいの女性がいた。
「あぁ。岡田さんありがとうございます。」
「岡田です。よろしくお願いします。」
「JOYグランドスラムの愛田です。よろしくどうぞ。」
岡田 波奈(おかだ はな)。41歳。
全日本麻雀連盟所属で、プロ歴は20年目の節目を迎える。上がれば必ず裏ドラをのせたり、レア役を上がることが多い。そこから「裏ドラ・レア役ハンター」という異名が付いた。
獲得タイトルは、姫頂位3期・天姫位1期のみ。
リーグ・ザ・スクエアは3年間六本木桜花隊に所属していた。
「それでご用件は?」
「では、本題に失礼します。私は会社でリーグ・ザ・スクエアのチームを担当しています。」
「はぁ。」
「今シーズンから参入するんですが、我がチームでは岡田さんの指名を検討しています。あくまで確定ではありません。」
「あっ。そうなんですね。」
「つきましては、お気持ちをお聞かせいただきたいのです。」
「なるほど。私の判断という形ですね。」
「ええ。」
少し考え込んでしまった。
ちょっと苦しそうに岡田は言った。
「実は他からも打診を受けてまして。」
「ほぉ。何チームぐらいですか?」
「ざっと5ぐらいでしょうか?」
「結構ですね。」
「なので、一応候補には入れさせていただきますけど。ご期待に添えるかまではちょっと・・・。」
「そうでしたか。ゆっくり考えてくださいね。」
「本当に申し訳ございません。」
「いえいえ。こちらこそお時間ありがとうございました。私はこれで失礼します。」
「ありがとうございました。」
「とこんな会話があった。レース順位確定前だったから、除外はしなかったが。」
「分かりました。それなら他の選手にすべきですね。」
鳳がトイレから戻った。
「で結局どうすんの?」
「岡田さんは外します。指名は次点の日ノ出さんにしようと思います。」
「なるほどなぁ。」
「愛田さんもさくちゃんもそれでよろしいですか?」
「うん。問題ないよ!」
「では、このように進めます。」
「4位指名は決めてんの?」
「この3人の中にしようと思うんですが・・・。」
「いまいち決め手に欠けるんだよな。」
「どうしましょうかぁ。」
愛田は、ひらめいた。
「おそらく、残る2人は、来年以降でも獲れんじゃないか?」
「そうですかね。でも、2年ルールがあるじゃないですか。」
「あれは、暗黙だから正式ルールではない。順位に応じて、何人か自由契約するのもチーム戦略として必要だ。」
「だけどそれは、チームがいつまでも出来上がらないです。」
「ワースト2位までに入った場合です。まだ考えるのは早い。」
「まぁ。おいおいだな。」
「そうですね。まずは、ドラフトですね。」
「ところで橋口、気になる選手がいるんだ。」
「どちらですか?」
「実は、どちらでもないんだ。ここまで、名前が出ないのが不思議なくらいな選手がいる。」
「誰ですか?」
愛田は、名前を言った。
金洗と鳳は、ひどく驚いた。
「愛田。さすがに無茶だ。実力が足りない。」
「獲得タイトルはないし、最高成績が3回戦です。厳しすぎます。」
「ただ、それはあくまで団体ルールと公式戦での結果です。リーグ・ザ・スクエアルールをはじめとした赤ありルールの戦績を知ってますか?」
「同じぐらいですか?」
「いや。雀荘での非公式の大会は勝率4割。連対率7割。と化け物級だ。」
「噓でしょう。」
「これが証拠だ。勤務中の雀荘のスタッフランキングです。リーグ・ザ・スクエアルール部門でぶっちぎりの1位です。過去も3度1位になってます。」
「だからって指名するか?橋口どうすんの?」
「お互いの意見もわかります。ですが、選考レースを優先します。」
「わかった。ごめんな・・・。」
「ただし・・・。」
橋口は、一拍おいて話した。
「次の指名で重複した場合は、一か八か指名します。あくまで10位までということなので。」
「うーん。どうなんだろうな。」
「うーみんを信じるわ。」
「ありがとうございます。」
「では、間もなく休憩を終了します。」
「席にお戻りください。」
「ある意味勝負になっちゃったなぁ。」
橋口は、そうつぶやいた。
第10話に続く。
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