スズメの巣 第6話

第6話 世代を超えた関係

「では、報告に入るねぇ。」
2番手は鳳。
「自分はね競技麻雀協会のレジェンド豹田さんだね。」
「あのですか!?」
愛田は、ひどく驚いていた。
「そんなすごい人なんですか?」
「馬鹿言いなさい!昭和の名雀士だ。「圧倒的剛腕」全日本の豪田代表。「猛攻女王」雀士協会の森野由美さん。電現麻雀連盟の名誉顧問で初代代表の「昭和のデジタル将軍」三沢さんの4人で四天王と呼ばれた方だしなぁ。」
「たしかに。すごいですね。」

豹田 英司 プロ歴55年。御年73。
プロ競技麻雀協会4代目会長を歴任。
これまでに獲得したタイトルは、帝雀位については前人未到の5連覇含む10度戴冠。
天下人は2回獲得している。
テクニカルセブンスは女流・ルーキーを除けば2回のグランドスラムを達成している。
これらの活躍から「永世帝雀位」のタイトルも獲得した。
最近ではネット麻雀も力を入れ、電龍名人位やeサバイバル総合優勝と進化を続ける。
また、チーム戦の重要さを考えた2から4人一組の「誓桃戦」の開催に尽力。
今では大会委員長・チェアマンを務める。
リーグ・ザ・スクエアには開幕シーズン・2年目まで六本木桜花隊に在籍も、3年目には自らリーグ・ザ・スクエアを去った。
通り名は「永遠の皇帝」。
ちなみに選考レースは41人中9位で準決勝進出3回など60ポイントを持つ。
ちなみに、1位は太平の220ポイントである。

「お久しぶりです。豹田さん。」
「おぉ。そうだな。」

喫茶店で落ち合った。
鳳はアイスコーヒーを頼むなり言葉を発した。
「早速ですが、豹田さん。リーグ・ザ・スクエアに戻ってきませんか?」
「俺はいいかなー。」
「なぜです?ベテランもといレジェンドの再参戦は若手。いや麻雀界にはかなりの刺激になるはずです。」
「いろんなチームに声をかけられた。だけど俺は何と言われても出るつもりはない。」
「もったいなすぎますよぉ。チーム戦の大切さを考えたのはあなたですよね。」
「生活がなぁ崩れるんだよ。毎回深夜まで続くとなるとかなりきついんだ。」
「そうですか・・・。」
「申し訳ないが、他をあたってくれ。」
鳳は落ち込んだらしい。

「それじゃ厳しそうですね・・・。」
「候補から外しておきましょうか。」
「代わりは誰にするかな。」
橋口と愛田、金洗は悩んでいた。
鳳は口を開いた。
「ただ、豹田さんからとある情報を得た。」
「何ですか。」

喫茶店の会話に戻る。
「ただ、選手にはならない代わりに一つ情報をやる。」
「何ですか。教えてください。」
「このことは、関係者以外には他言しないでほしい。」
「分かりました。チーム関係者のみの秘密にします。」


「よし。そうしたら情報なんだが、隠しているんだが俺には弟子がいる。」
「そうなんですね。でも、隠さないでいいじゃないですか。」
「最近出来てな。俺も驚いてるんだ。」
「そうですか。でもなぜ弟子のことを?」
「その弟子は、一撃必殺と連チャンがよく似合うんだ。その剛腕は剛田二世と言える。」
「そんな強いんですか?競技麻雀協会の中でいらっしゃるんですね。」
「いや、競技じゃない。雀士協会にいる。」
「なんで結びつきが?」
「2年前の誓桃戦の決勝で会ったのが、最初だった。そいつは、大会終了後急に声をかけてきて「弟子にしてください!」と言ったんだ。」
「だったら結構他の人にもわかるのでは?」
「最初は取るつもりはなかった。だから断った。でも10日間毎日訪ねてきた。もう折れたわけ。」
「だから一部しかわからないわけですか。」
「麻雀を一戦交えてわかった。こいつは跳ねるってな。こいつを候補に入れてみてほしいんだ。」
「そういうことですね。ではお名前は何と言うんですか?」
「若宮香菜。30歳でプロ歴は7年目。タイトルは獲得してない。」
「分かりました。掛け合ってみます。」
「本当に申し訳ない。」
そう言って豹田は店を去った。

「若宮さんですか・・・。」
「調べた限り本当にタイトルはない。ツアー未勝利だねぇ。かつ最高成績は、四季王戦の予選に当たる咲櫻戦の準決勝。今年はまだ活躍はないね。」

金洗は問いかけた。
「候補は、7年目だと・・・女流若手枠になりますね。そうすると山崎さんと交代になるんですか?結構選考レースでも上位には来てますし。もったいないのではないですか?」

山崎 七瀬(やまざき ななせ)。
プロ歴は9年目の29歳。雀士協会に所属している。
通り名は「悪魔の手を持つ天使」。
獲得タイトルはツアー2勝・賀正戦優勝。
そして、新人選抜選手権団体戦 団体対抗女流部門優勝などある。
選考レースは、40人に戻り、1月のツアー3戦中2戦で準決勝に残り、現在は12位だ。

「たしかに。いきなり落選っていうのもなぁ。」
「一応入れておきましょう。ポイントはいつも通り加算する形で。」
「了解。」
「鳳さん。ありがとうございます。」
「じゃあ次は俺だな。」
「愛田さん、お願いします。」

「オッケー。俺は、プロ電現麻雀連盟の天野さんだな。」
「天野さんねぇ・・・。」

ドロップ天野。45歳。プロ歴は25年目とベテランの域だ。
本名は天野信也。
麻雀のタイプは、門前高打点型と攻撃重視。
獲得タイトルは、帝雀位1期・立直王座4期・全日本グランプリ1期などある。
通り名は「サイコ打法。無慈悲な大名」という通り最下位からも容赦なく高打点を分捕ることからつけられた。
もとはプロ競技麻雀協会所属も8年前に移籍したという。
選考レースは、40人中28位と少し低めだった。

愛田は、雀荘近くの喫茶店で天野を待った。
「天野さん。こっちです。」
愛田が呼んだ。
「天野です。よろしくお願いいたします。」
「JOYグランドスラムの愛田と申します。こちらこそお呼び立てして申し訳ございません。」
愛田は穏やかな人だった。


「で、お話って何でしょう?」
「弊社が今期からリーグ・ザ・スクエアに参加することになりました。」
「そうですか。で、私には何の御用でしょうか?」
「現在選手調査を兼ねて面談を行っています。単刀直入に伺います。リーグ・ザ・スクエアに選手として参戦するのには興味はありますか?」
「急ですね。ドラフト会議は7月では?」
「もう候補者を絞っている段階でして。お答えを知りたいのですが・・・。」
「まぁ興味はありますね。参戦はしたいですが。」
天野は疑いながら聞いた。
「ただ4人だけでしょう。かなり狭き門のはずですが?」
「はい。選考段階で、絞るだけで難しい状況です。」
「そうですか。ただ不安要素はまだあります。」
「不安?」
「私の打ち方で戦えるかというものです。」
「どういうことですか?」
「攻めるだけの戦い方なわけで、守りがリカバーできるかどうかが不安です。」
「まぁ。チーム戦ですから。何とかなるでしょう。」
天野は少し渋い顔をした。
「そうですか。分かりました。考えておきます。」
「今日は、お忙しい中ありがとうございました。」
「じゃあ私は失礼します。」
いかつい歩き方で喫茶店を去った。

「俺からの報告は以上だ。」

「でも強さ的にはすごい選手ですね。」
「ほんとだね。私も知らなかったよぉ。」
女子2人は、選考レースに入っても問題ない顔をしていた。

ただ、鳳は首をかしげていた。
その様子に気付いた橋口が聞いた。
「どうかしました?鳳さん。」
「いや、確かに強いんだが、マナーがなぁ・・・。」
「どういうことですか?」
「橋口はキレ打ちって知ってるか?」
「分からないですけど、言葉的に打ちながらキレる感じですか?」
「まぁほぼ正解だな。金洗説明してくれ。」
「あっはい。キレ打ちっていうのはだいたいその通りなんだけど、あまりに負けすぎて乱暴になったりすることを言うの。こんな感じで大丈夫ですかね。」
「問題ない。あの人はキレ打ちの度を越してるんだ。」
愛田がはっと気付いた。
「確かにそうですね。候補には入れてますが、かなり厳しいですね。」
「そうだ。団体のリーグ戦では、無意味な鳴きなどで妨害したり、誤発声で試合を止めることもしばしばある。」
「嘘でしょう。」

「極め付きの事件は、競技所属中の帝雀戦本戦だ。当時翻王代表として出場した天野は、あまりにも配牌・ツモが悪すぎてブチギレてパイ山を壊すわ。点棒を投げつけるわ。誰も抑えつけられなかった。1回戦終了前にノーゲームとなった。当然、天野は失格。在位していた翻王は剝奪。準優勝者が繰り上がりとなったんだ。その一件でプロ競技麻雀協会からは永久追放。7年前の団体最強を決める電現王座決定戦ではネットステージで同じ状況になり、パソコンの電源を強制シャットダウンした。当然失格。5年間の公式戦参加を禁止された。」
「そうすると、レッドカードどころじゃ済まなくなりそうですね。」
「迂闊でした。すっかり忘れてました。ただ反省はしてるとは思うのですが・・・。」
「橋口、どうすんの?」
橋口は迷った。
「選考レースの結果で考えましょう。仮に上位に来ることになればルール順守を徹底するよう指導しましょう。」
「了解。橋口に従おう。」
「よろしくお願いいたします。」

「次は私が報告しますね。」
金洗の番になった。

第7話へ続く。


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