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トルコ
2021年3月22日、トルコリラが大暴落した。原因はエルドアン大統領がトルコ中央銀行総裁を更迭したことにある。中央銀行総裁の更迭など驚くべきことのように思えるが、近年のエルドアン大統領の行動を考えれば決して驚くべきことではないだろう。彼は2019年には博物館であるアヤソフィアをモスクにすると宣言し、実行した。ビザンツ建築の最高峰ともいえるアヤソフィアは、ビザンツ帝国時代は教会、オスマン帝国時代はモスクとして使われ、その後トルコ建国の父でもあるケマル・アタチュルクの元、博物館として使われてきた世俗主義の象徴であった。こうしたエルドアン大統領の奇行はトルコを国際的に孤立させつつある。しかし、トルコ国民はエルドアン大統領の経済政策などには不満を抱きつつも、対外政策においてコーカサス地方などでの影響力を高めている点に関しては、大統領を強く支持している。
そんなトルコ人を知るには、トルコの歴史を考えることが重要になるだろう。トルコ民族はもともと騎馬民族であったが、ビザンツ帝国を征服しオスマン帝国を建国した。この征服者としての自負は今なおトルコ国民の中に残っている。実際に昨年にはアヤソフィアを会場にしてコンスタンティノープル征服567周年記念式典が開かれている。
文明の足跡もまた、トルコのいたるところに残っている。トルコの西端に位置するイスタンブールはかつて、ローマ帝国、ビザンツ帝国、そしてオスマン帝国の首都として栄えた街であり、多くの観光客が訪れる。巨大市場グランドバザールではイスタンブール特有のフレンドリーな人々の様子も垣間見られる。トルコ東部のカッパドキアは地下遺跡として世界遺産に登録されているが、ここではかつて、迫害を受けたキリスト教徒が暮らしていた。このように、国のいたるところに世界を代表する遺跡があり、そのような歴史を肌で感じながら育ったトルコの人々が、「オスマン帝国を築いた」という自負を抱くのは自然なことなのかもしれない。
トルコは数年前、政治的に大きな転換期を迎えていた。1999年にEUの候補国となり、2000年代初頭には、EU加盟へ向けた改革が盛んに行われていたのだ。こうした努力と裏腹に、EU加盟合意に至らなかった要因として、キプロス問題などの様々な問題が考えられるが、最大の要因はトルコがイスラーム国家だからだと思う。EU諸国が宗教を理由にトルコを拒んだ訳ではないと思うが、宗教の違いがもたらす価値観の違い、例えば女性の地位に対する考え方などが障壁になったのだと思う。
トルコがEUに加盟せず、孤立を深めていることに対しては否定的な意見が多いように感じる。しかしながら私は、トルコがEUに加盟しなかったことは肯定的に考えるべきだと思う。トルコの加盟はEU諸国にあまり恩恵がないという点もあるが、トルコの人々がEU諸国と足並みを揃える姿は想像し難いからだ。無理にEUに加盟していれば、余計にEU諸国との対立を深めていたかもしれない。
トルコは地理的にもアジアとヨーロッパの出会う場所に位置しており、一応アジアに分類されるが、ヨーロッパでもアジアでもない特殊な国だと思う。ヨーロッパでもアジアでもない国といえば、一般的にロシアをイメージする人は多いだろう。このような意外な共通点を持つロシアとトルコは長い間敵対しており、冷戦下のトルコはロシアのクリミア半島への抑えとしてNATOの南翼の役割を果たしてきた。良好ではなかった両国の関係であるが、トルコはコーカサス地方での影響力を強めるため、ロシアとの関係改善を図っている。最近ではアメリカのミサイル防衛システムを有するにもかかわらず、ロシアのミサイルを購入した。今後、トルコと欧米との間の溝が深まるにつれ、両国の関係は改善していくのではないだろうか。
また、トルコは軍事技術にも力を入れており、10年以上にわたり、先端技術への投資を行っている。特に近年はAI軍事技術の開発が盛んである。「神風ドローン」といわれる自立型のAIドローンはアゼルバイジャンをはじめ、リビア、ポーランド、モロッコ、カタール、などに輸出されている。ナゴルノ・カラバフ紛争でも実際に利用され、アゼルバイジャンに勝利をもたらした。AIの軍事利用という倫理的な問題を多分に含む分野に躊躇なく投資できるのは、トルコが独裁国家に近い状態であるからだと思う。
軍事への投資を経済発展のための投資に回せば、トルコは良い方向に成長していくのではないだろうか。トルコは地理的にも非常に重要な場所に位置しており、気候も温暖である。それゆえ今後発展して行く可能性を十分に秘めた国だと思う。エルドアン大統領は、軍事力によりかつてのオスマン帝国の栄光を取り戻そうとしているが、その姿勢はトルコを取り巻く情勢を悪化させるだけだ。オスマン帝国のかつての栄光は民主的な国家になって初めて取り戻すことができると思う。そのために、まずは政情の安定と経済の活性化に向けて舵をとるしかないだろう。
参考文献
佐藤仁.「トルコ軍「神風ドローン」500機導入 トルコで開発 敵の顔認識機能も搭載」.『YAHOO JAPAN ニュース』.(アクセス日2020/6/28 18:00). (https://news.yahoo.co.jp/byline/satohitoshi/20200628-00185509. )(2021/7/29).
佐藤仁.「リビアでトルコ製の自律型攻撃ドローンで初の人間への攻撃か:国連が報告書」『YAHOO JAPAN ニュース』.(アクセス日 2021/6/7 18:10).
(https://news.yahoo.co.jp/byline/satohitoshi/20210607-00241759).
(2021/7/29).
「米、トルコへのF35売却凍結 ロシア製兵器導入で」.『日本経済新聞』.( 2019/7/18朝刊). (https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47465220Y9A710C1000000/).
「トルコ大紀行 THE GREAT TURKEY」.『BS-TBS』.(2017).
(http://www.tkjts.jp/event/2017/09/05/1559/). (アクセス日2021/7/29).