
鉄ようかん
さて、どうしたものか。
美食家として名高い私だが、こんな食い物は初めてだ。
私は食べる事が大好きだ。虫も犬も、なんなら苔だって食べてきた。
世界の珍味はあらかた食ったと自負していたが、これはなんと言えば良いか。
小綺麗な茶屋だ。最初に出された抹茶は格別に美味かった。この次にはさぞ美味い茶菓子が出るもんだと思っていた。
期待に胸を膨らませて茶屋の娘が笑顔で持ってきたのは「鉄ようかん」なるものだった。
ようかんは知っている。なんならよく食う。だが、これはどう見ても鉄なのだ。
まず渡された時点で結構な重さがあったし、和菓子にはありえない光沢を放っていた。
何より、四方の角が鋭い。完璧に磨き上げられているかの如く、それが手のひらはどの大きさの小皿に乗せられている。
だが、食べるための串は木製だ。恐らく一番目を疑っただろう。
周りの目を気にしつつ試しに触って見るが、かったいのなんの。
だめだ、これはようかんを装った鉄塊である。
おすすめを注文して出てきたのがこれか。いたずらにしては本当に堂々と持ってきたから何も言い返せなかった自分を恥じた。
他の客は、普通の饅頭や団子を口にしている。なんと羨ましい事か。しかしいたずらだろうが何でも口にしてきた私だ、ここは挑戦せねばなるまい。
私は恐る恐る、鉄ようかんを口にした。するとどうだろうか。冷たくコリコリとした食感がたまらないではないか。
味はどこか錆臭い感じもするが、不味くはない。ちゃんと食い物だ。
すると店の裏からまるで血の気が引いたような話し声がする。
「おい見ろ、噂通りなんでも食っちまうぞ。」
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