漢字が楽しくなる、脳科学に基づく漢字学習法
漢字が覚えられない。
漢字が苦手。
漢字が辛い。
漢字が嫌い。
こんな子をこれまでたくさん見てきました。
おそらく小学生のお悩みNo.1ではないでしょうか。
「きつい」「辛い」「嫌い」「覚えられない」
そんな圧倒的不人気No.1の漢字を、もっと楽しく、そしてより効果的・効率的に覚えられるようにすることがこのnoteのミッションです。
今、漢字で困っている保護者や、漢字の指導で悩んでいる先生の何かの役に立てたら幸いです。
その方法を紹介する前に、そもそも、人はどのように、記憶をするのでしょうか。
記憶の種類には、「短期記憶」と「長期記憶」があることは皆さんも知っていると思いますが、
脳科学では、その長期記憶をさらに細かく分類し、記憶のメカニズムの研究がされています。その一般的な分け方が、これです。
「エピソード記憶」とは、出来事などの記憶で、一般的に「思い出」として呼ぶような記憶です。
「意味記憶」とは、知識と呼ばれるような記憶です。イヌは動物であるとか、言葉の知識とか、いつどこで覚えたかはもう忘れたけれど、消えない記憶です。
「手続き記憶」は、技能記憶とも呼ばれています。例えば「自転車の乗り方」とか「ピアノの演奏」とか、体が勝手に覚えていると呼ぶような記憶です。
「プライミング記憶」は、感覚記憶とも言われ、無意識に覚えている記憶です。
そして、この記憶のメカニズムを、漢字の学習に落とし込んでみました。
手続き記憶は、いわゆる「手で覚える」という方法。正しい書き順で、空書きをしたり、ノートに繰り返し書いて記憶する方法。
意味記憶は、成り立ちや漢字の意味、部首や熟語を理解することで記憶する方法。
エピソード記憶は、実際の出来事ではないが、例文や作文を作り、出来事をイメージすることで記憶する方法。
感情記憶は、この漢字を覚えられなくて悔しいとか、覚えられて嬉しいとか、自分の感情と関連付けて記憶する方法。
視覚聴覚記憶は、感覚記憶。耳から覚えたり、口で発声することで、より多くの感覚を使い記憶する方法。
このように、記憶する方法は1つでありません。
また実は、漢字ドリルも脳科学の記憶法に基づいて作られています。
このすごいページは、残念ながら多くの子は、なぞって終わるだけです。
だからこそ、記憶の方法を伝え、そのために参考になる情報がこのページにはつまっていることを子どもたちには伝えてあげてほしいです。
ここからは、実践を紹介します。
子どもからよく「どの方法が一番効果があるの?」と聞かれます。
しかし、その答えはありません。
なぜなら人によって違うからです。
何度も書いて覚える手続き記憶が覚えやすい子もいれば、意味を理解することの方が覚えやすい子もいます。また、一度に覚えるより、何度も見たり聞いたりする感覚記憶の方が覚えやすい子もいます。それは、脳の作りが一人一人違うからです。
だからこそ、一番大事なのは、
『どの方法が自分にとって一番効果があるのか』を知ることです。
そしてそれを知るためには、それらを試す必要があります。
そこで、行っているのが「漢字テスト」と「家庭学習の工夫」です。
私の学校では、金曜に漢字テストを行います。
テストといっても、ドリルの20問から10問をランダムに出す小テストです。
家庭学習は、このテストに向けて自分で計画を立ててやってきます。
「漢字ドリルの何ページをしなさい」といった指示はしません。
なぜなら、やり方を指定すると、子どもが学び方を試せなくなるからです。
計画は、このような表を使い、自分の学習プランを設計します。
「やる事」には「2ページ書いて覚える」とか、「意味を調べる」「例文をたくさん作ってイメージする」「朝と寝るとご飯の後に5分間見る」など、子どもたちは、どの記憶法を使おうかと考えながらプランを立てます。もちろん一種類だけではなく、ミックスしている子もたくさんいます。
そのプランが効果的だったかは、テストの結果が教えてくれます。子どもたちは、「今回は、前回よりも点数が上がった。この方法が自分には合っているかも」と喜んだり「この方法だけじゃダメそうだ」と自分の学び方を分析したりしています。
テストの結果を人と比べるためではなく、自分の学び方を確かめるために使っています。
そして、驚くことに4月当初は、家庭学習をやってこなかった子が、気づけば毎日取り組むようになったり、漢字に苦手意識を持っていた子が、「漢字が好き」と口にするようになりました。
また、30点しか取れなかった子が3ヶ月後には100点を連続して取れるようになりました。
このような変化は、毎年起こります。その一番の要因は、『自分で決める』ことにあると思います。子どもは自分で選択することが大好きです。自分で選び、それが結果につながる。そして自分に合った学び方が分かる。これほど楽しいことはありません。
夏休みの懇談で、ある保護者が
「うちの子は去年まで、私が言わないと全然勉強しなかったんです。でも今は自分から、”今日はこれをする”と進んでやってるんです。こういう学び方の方がいいかなとぶつぶつ言いながら。もう私にはあまり理解はできないし、なんだか手の届かないところに行った気がします」とうれしそうに話してくれました。
もちろん全員がこのような姿に変わったわけではありませんが、こういう姿こそ、目指すべき、自律した学習者としての姿です。
この子は、学びを自分でコントロールできる実感が、学ぶ楽しさとなり、”学びたい”というエネルギーに変わっているのだと思います。
「きつい」「辛い」「嫌い」「覚えられない」という漢字学習も、やり方や、考え方を少し変えるだけで、まだまだ楽しく、かつ効果的な学習に変えられることができるのではないでしょうか。