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彼の好きだったところ。

忘れられない

色んなことが初めてだった。あんな気持ちになることもあんなに愛を形にすることも全部全部初めてだった。短期間でこんなに進むものなのかと思いながらも、彼と同じ記憶が脳内に綴られていくのがとても愛おしかった。お互い少し戸惑いながらも新しい物語を作ることがあのときの私にとって1番の癒しになった。

今思えば、あの時の彼は私のことなんてちっとも好きじゃなかったと思う。ただ、私のしつこさと欲に負けて軽く付き合っていたのだろう。確かにあの頃私は余裕がなくて、好きな人の好きな声を聞くだけで泣いてしまうほどだった。心の拠り所は彼しか居なくて、もう彼がいなくなったら私は生きていけないと思うほどだった。まあこれは誰かを好きになったらいつもそうなっちゃうのだけれど(笑)

離ればなれになっても一緒に居たい。毎日電話して声が聞きたい。あそこに行きたい。あれがしたい。一緒に帰ろう。キスがしたい。とてもわがままだった。こんな私についてくるのは大変だっただろうなあ。でも、それだけ大好きだったのよ。恋する乙女であなたの事を誰にも渡したくなくて好きで好きでたまらなかったの。


いつからか彼からの愛情表現は曖昧になり、さすがの私でも気付き始めた。でも好きだったから、一緒に居たかったから、気付いていない振りをして精一杯自分を演じた。まあ、いつかそうなることは分かっていて覚悟はしていたが、いざそうなるとなにも言葉が出なかった。
ひとつの恋愛で色んなことを学んだけれど1番は自分の醜さだな。

付き合うまでに築き上げてきたものは一言で跡形もなく消えちゃうんだ。

それから数年が経つが、たまに本当にたまに思い出す。
思い出は美化されるというが、私の場合は嫌な思い出はそのまま、嫌な思い出として鮮明に残っているし、楽しかった思い出もそのまま記憶されている。大人になってから1度だけ彼に会ったことがある。何も変わっていなくて強いて言えばお酒を飲み、タバコを吸うようになった所かな。それでも仕草一つひとつ、柔軟剤の香りだって変わっていなかった。


「あなた以外の誰かと幸せになるのならあなたのそばで不幸になりたいわ。」
どこがで聞いたその言葉は私があなたに対する想いをそのまま表していて一生忘れられない言葉になった。

私の手を「小さいねえ。」と言いながら握ってくれる貴方も、綺麗な横顔も、指先から香るタバコの匂いも、いやらしい唇も、少し強引な所も、嫌がりながらしてくれたキスも、全部大好きだったんだよ。というか今でも好きだよ。

じゃあ、また。

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