戦略的意図をマスターする : ビジョンから具体的アクションまでの全プロセス
前職と現職でプロダクト戦略を複数回立案してきた経験を元に、自身がどのようにプロダクト戦略を捉えて、どういうプロセスで進行し、どうとりまとめているのかについてのノウハウを、少しずつ書いていこうかなと思っています。今回はその記念すべき第一回として書籍「プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」で説明されている戦略的意図について Deep Dive してみたいと思います。
想定読者とこの記事から学べること
想定読者:
企業戦略やプロダクト開発に関わるリーダー層、プロダクトマネージャー、ビジネスオーナー
この記事から学べること:
戦略的意図とは何か、企業のビジョンや目標とどのように連携するのか、そして具体的なプロダクトイニシアチブに落とし込むためのプロセスを学べます。書籍「プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」で説明されているNetflixやマーケットリーの実例を通じて、戦略的意図がどのように企業全体の成長を導くかを理解することができます。
戦略的意図とは?成功する企業の方向性のカギ
戦略的意図は書籍「プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」で説明されているプロダクト戦略に関する概念の一つです。
戦略的意図は、企業が長期的なビジョンを実現するために設定する「何を達成したいか」を示す目標や方向性です。具体的な手段や方法は含まず、企業全体が一貫してその目標に向かうように導きます。戦略的意図は、企業の成長や競争力を確保するための指針として重要な役割を果たします。
戦略的意図の例
例えば、Netflixが掲げる「ストリーミング市場でリーダーシップを確立する」という意図が、その後の全ての事業活動を方向づけています。このような大きな方向性の下で、企業は具体的な目標を設定し、最適な手段を選定していきます。
戦略的意図の位置づけ : ビジョンや事業戦略、プロダクトイニシアチブとの関連
まず戦略的意図の位置づけを構造的に理解しておきましょう。一般的なMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を持つ企業において、プロダクトが目指す姿としてプロダクトビジョンを策定する企業も多いと思います。プロダクトビジョンは上位概念としてのビジョンに適合(Vision Fit)する必要があります。また事業戦略を着実に遂行していくことでビジョンの実現がなされるようになります。
戦略的意図はプロダクトビジョンに適合し、事業戦略を実現するものでなければなりません。そして戦略的意図を達成していくための具体的な取り組みやプロジェクトがプロダクトイニシアチブです。
ここまで説明した内容を図示した物が以下になります。
なぜ戦略的意図が重要なのか?ビジョンとの整合性、競争優位性、そしてリソース配分の要
企業が成功するためには、ただ漠然とビジョンを掲げるだけでは不十分です。戦略的意図が重要なのは、それがビジョンを具体化し、組織全体に明確な方向性を示すからです。しかし、それだけではありません。競争が激しい市場で勝ち残るためには、戦略的意図には柔軟性やリソース配分の指針も含まれていなければなりません。では、これらの観点がどのように組織を成功に導くのでしょうか?
1. ビジョンとの整合性:全員が同じゴールを目指すための羅針盤
ビジョンとは、企業が目指す理想の姿です。戦略的意図は、そのビジョンを実現するための具体的なステップを示します。例えば、Netflixのビジョンは「世界中の視聴者に最高のエンターテインメント体験を提供する」ことです。このビジョンが、戦略的意図である「ストリーミング市場でリーダーシップを確立する」という目標に結びついています。
戦略的意図は、企業のすべての部署や社員に対して、“どこに向かって進むべきか”を明確に示す羅針盤の役割を果たします。これにより、組織全体が一体となって同じ目標に向かうことができ、リーダーシップを持って競争に挑むことが可能です。
2. 競争優位性の確立:市場で勝ち残るための武器
戦略的意図は、単なる目標設定ではなく、競争優位性を築くためのフレームワークでもあります。競合他社に対してどのように差別化を図り、どの領域でリーダーシップを握るのかが、戦略的意図によって定義されます。
例えば、Netflixは、オリジナルコンテンツ制作を強化することで競合に対する優位性を確立しました。マーケットリーは、大企業向けの特化したサービスを展開することで、エンタープライズ市場でのリーダーシップを獲得しています。戦略的意図が明確であることで、企業はどの分野で競争優位性を発揮するかを理解し、そこにリソースを集中させることができます。
3. リソース配分の指針:限られた資源をどう使うか
戦略的意図には、リソース配分の指針が含まれます。どれだけ素晴らしい目標があっても、限られた資源(人材、時間、資金)を適切に使わなければ成果は出ません。戦略的意図は、どこにリソースを集中させるべきかを明示することで、効率的かつ効果的な運営を支えます。
Netflixの例では、技術プラットフォームの強化やオリジナルコンテンツ制作にリソースを重点的に配分しています。マーケットリーでは、エンタープライズ向けのプラットフォーム構築とマーケティング強化に注力しています。こうした明確なリソース配分の指針が、企業の成長を加速させるのです。
4. 柔軟性の確保:変化に強い組織を作る
戦略的意図には、柔軟性を持たせることが重要です。急速に変化する市場環境に対応するためには、特定の手段に固執せず、目標を達成するための最適な方法を柔軟に選べる余地を残しておく必要があります。より具体的に言えば、目標を達成するための方法とは、プロダクトイニシアチブそのものなので、戦略的意図はプロダクトイニシアチブを柔軟に選べる余地を残しておくべきだと言えます。
Netflixは、当初はライセンスされたコンテンツの配信に注力していましたが、戦略的意図の柔軟性を生かしてオリジナルコンテンツ制作へとシフトしました。この変化が、競合他社との差別化につながり、成功の大きな要因となっています。戦略的意図が柔軟であればあるほど、組織は市場の変化に対応しやすくなります。
戦略的意図の具体化:プロダクトイニシアチブとの連携
戦略的意図を現実にするためには、具体的な行動計画が必要です。それがプロダクトイニシアチブです。プロダクトイニシアチブは、戦略的意図を実現するための具体的なプロジェクトや取り組みであり、ここで初めて「どのように目標を達成するか」が詳細に描かれます。
以下では、Netflixとマーケットリーの例を通して、戦略的意図がどのようにプロダクトイニシアチブへと具体化されているのかを見ていきます。
Netflixの戦略的意図
戦略的意図: 「ストリーミング市場でリーダーシップを確立する」
ビジョンとの整合性: 世界中の視聴者に最高のエンターテインメント体験を提供するというビジョンに基づいています。
目指す成果:
グローバル市場でのストリーミングシェアをX%に拡大。
ストリーミング収益をY億ドルに達成。
登録者数をZ百万人に増加。
競争優位性の確立:
Netflixは、競合他社との差別化を図るために、以下のプロダクトイニシアチブを展開しています。
オリジナルコンテンツ制作
Netflixは、オリジナルコンテンツ制作を推進し、年間X本の新規作品を制作することで、視聴者のエンゲージメントを強化しています。これにより、競合との差別化を図り、ストリーミング市場でのリーダーシップを確立しています。
技術プラットフォームの改善
また、技術面でも進化を続け、レコメンドアルゴリズムの改善により、顧客リテンション率を向上させています。これにより、視聴体験を強化し、他社に対する競争優位性を保っています。
マーケットリーの戦略的意図
戦略的意図: 「企業向けエンタープライズ市場でリーダーシップを獲得し、成長を加速する」
ビジョンとの整合性: マーケティング専門家に最適なオンライン教育を提供するというビジョンに基づいています。
目指す成果:
年間収益を500万ドルから6000万ドルに増加。
個人ユーザーの年次成長率を15%から30%に向上。
新規エンタープライズ顧客をX社獲得。
競争優位性の確立:
マーケットリーは、エンタープライズ市場での競争優位を確立するために、以下のプロダクトイニシアチブを実施しています。
新しいエンタープライズ向けプラットフォームの構築
マーケットリーは、大企業向けに特化した新機能をリリースし、既存顧客のニーズに応えるエンタープライズ向けプラットフォームを構築しています。これにより、エンタープライズ市場でのリーダーシップを確立しています。
コンテンツ拡充とパートナーシップの強化
さらに、コンテンツを拡充し、業界の専門家との提携を強化することで、エンタープライズ市場における競争力を高め、リーダーシップを確立しています。
戦略的意図に含まれるべき項目
以上の説明を改めて整理し、実際に戦略的意図を具体的に記述していく上で、必要な項目として何が挙げられるかを整理していきます。
ビジョンとの整合性
戦略的意図は、企業が掲げる長期的なビジョンと一致している必要があります。戦略的意図がどのようにビジョンと整合しているかについての説明を記述するよ良いです。
目指す成果の明確化
戦略的意図は、企業が達成したい成果を明確に示します。これらは通常、収益や市場シェアの拡大、顧客基盤の成長といった具体的なビジネス成果で表されます。
競争優位性の確立
戦略的意図には、競争相手に対する優位性を確立するための方針が含まれます。どの市場で、どのように競争し、リーダーシップを取るかが明確になります。
目指す成果が競合との差分に対してどのように影響するかについて記述して行くと良いです。
以下の書籍「7 POWERS――最強企業を生む7つの戦略」にあるようなMoatの種類を元に記述すると、築くべきMoatとその効果や狙いが分かりやすいと思います。
リソース配分の指針
限られたリソース(人材、資金、時間など)をどのように最適に配分するかの方針も戦略的意図に含まれます。これにより、重要なイニシアチブに優先順位を付け、リソースを集中投下できます。
プロダクトイニシアチブの方向性
戦略的意図は、具体的な手段を含まないことで、プロダクトイニシアチブが状況に応じて柔軟に対応できるようにします。市場や技術の変化に迅速に適応するための余地を残します。
従って戦略的意図を記述する際には、プロダクトイニシアチブに対する方向性の提示や、明確なガードレール(制約)の提示を行うような記述を含めると良いと思います。
その他、検討に値するもの
例えばマーケットや顧客にどのように適合するかや、どのセグメントに対しての目標なのかといった事は記述するに値するでしょう。
マーケットや顧客ごとに適合の仕方や目指すべき成果は異なる事はよくあることです。多様なターゲットに対して価値を提供するプロダクトの場合は、このような記述があるのが望ましいです。
戦略的意図は、プロダクトイニシアチブによって具体化されます。これにより、戦略的な目標が現実のアクションへと落とし込まれ、成果に結びつきます。
まとめ:戦略的意図を持つことの真のメリット
戦略的意図は、企業の成功に欠かせない要素です。ビジョンとの整合性を保ちつつ、柔軟に変化に対応する力を与え、企業全体の目標に向けた一貫性を保つことができます。Netflixやマーケットリーの実例から学べるように、戦略的意図が明確であれば、具体的なプロダクトイニシアチブを通じて、競争優位性を築き、企業成長を促進することが可能です。
自社のビジョンに沿った戦略的意図を定義し、それを具現化するためのプロダクトイニシアチブを策定することで、目標達成に向けて着実に進んでいくことができます。
このブログ記事を通じて、戦略的意図の意味とその重要性、そして具体的な実行方法について理解が深まったのではないでしょうか。戦略的意図をしっかりと持つことで、企業はビジョンを実現し、持続的な成長を達成できるのです。
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筆者が経営する株式会社マギステルでは、筆者自身が長いキャリアと豊富な知識を元に得てきたソフトウェアエンジニアリングやプロダクトマネジメントを元にした企業コンサルティングや企業顧問業を行っています。ご興味のある方は info@magister.co.jp または X(旧Twitter) の @zigorou 宛の DM 等でお問い合わせ下さい。
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