プロダクト主導型組織を作るための「ドラッカー8つの目標」と「プロダクト戦略」の体系的理解を深める
プロダクト主導型組織を目指す企業は、戦略だけでなく、日々の戦術や運営も成功させなければなりません。ピーター・ドラッカーの提唱する「8つの事業目標」は、プロダクト戦略を支える基盤として捉えることが可能であり、企業のミッションやビジョンとも密接に結びついています。
この記事では、プロダクト戦略を実行に移し、プロダクト主導型組織を実現するために、「8つの目標」をどのように組み込み、効果的に活用できるかを体系的に理解していきます。
本記事の出典
本記事は、次の書籍に基づいて解説しています。
ピーター・ドラッカー著『マネジメント[エッセンシャル版]』
書籍の第4章「事業の目標」で、企業が成果を上げるために不可欠な8つの目標が述べられています。
メリッサ・ペリ著『プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』
プロダクト戦略における「戦略的意図」と「プロダクトイニシアチブ」の概念が詳しく説明され、現場でのプロダクトマネジメントのあり方を学べる一冊です。
想定読者とこの記事から学べること
想定読者
この記事は、プロダクト戦略を担う経営者(CPOやVPoP)や、プロダクトリーダー、プロダクトマネージャーに向けた内容です。
この記事で学べること
プロダクト主導型組織を作るための「8つの目標」とその相互作用の理解
ミッション・ビジョンとプロダクト戦略を結びつけるためのアプローチ
8つの目標がプロダクト戦略の戦術や運営にどう組み込まれるかを具体的に学ぶ
これを読むことで、組織の目標とプロダクト戦略を一体化させ、成功への道筋を明確にできます。
8つの目標の概要
組織の成功を支える8つの事業目標とは?
ピーター・ドラッカーが提唱した「8つの事業目標」は、プロダクト戦略だけでなく、組織の運営全体に深く影響を与える重要な要素です。ここでは、その基本的な内容と、プロダクト戦略との関わりを探っていきます。
1. マーケティング: 顧客価値を創造する核
マーケティングは、顧客のニーズを深く理解し、そのニーズに応えるプロダクトやサービスを提供するための活動です。プロダクト戦略において、マーケティングはプロダクトが顧客にどのように受け入れられるかを決定する基盤となります。
プロダクト戦略との関わり:マーケティングは、顧客ニーズを起点にプロダクトの方向性を決める戦略的な手段であり、新プロダクト開発や市場投入の戦術を支えます。
2. イノベーション: 競争優位を築くエンジン
イノベーションは、競争力を高めるために必要不可欠です。企業は顧客のニーズに応じて新たな価値を創造することで、市場での優位性を確立します。
プロダクト戦略との関わり:イノベーションは、新たなプロダクトを生み出すプロセスそのものです。製品やサービスの差別化を実現し、マーケットシェアを拡大するための具体的な手段となります。
3. 人的資源: チームが成功のカギを握る
組織の成長を支えるのは、優れた人的資源です。プロダクト戦略を効果的に実行するためには、スキルを持ったチームが必要不可欠です。
プロダクト戦略との関わり:プロダクト開発やマーケティング戦略を実行する人材の質が、最終的なアウトプットを決定します。優秀なチームがなければ、どれだけ良い戦略を持っていても実行に移すことができません。
4. 資金: 戦略の実行を支える燃料
資金は、プロダクト戦略を実行するために欠かせないリソースです。資金は人的資源や物的資源に投資され、プロダクト開発やマーケティングの推進力となります。
プロダクト戦略との関わり:プロダクト戦略には、人的資本や物的資本への投資が必要です。また、広告宣伝費や販促活動などのマーケティングコストも資金によって支えられます。
5. 物的資源: プロダクトを支えるインフラ
物的資源とは、プロダクト開発や製造に必要な設備や技術です。効果的な物的資源の活用は、プロダクト戦略の成否に直結します。
プロダクト戦略との関わり:プロダクトの製造やサービス提供を実現するためには、最新の技術や設備が必要です。これにより、製品の品質向上やコスト削減が可能になります。
6. 生産性: 投資効率の最大化
生産性は、人的資源や物的資源への投資がどれだけ効率的に運用されているかを示す指標です。プロダクト戦略においても、生産性は競争力を左右する要素です。
プロダクト戦略との関わり:限られたリソースを最大限に活用し、製品開発サイクルの短縮や市場投入までのリードタイムを最小化することが生産性の向上に寄与します。
7. 社会的責任: 持続可能な企業活動の基盤
企業は、利益追求だけでなく、社会的責任を果たすことが求められます。環境に配慮した製品開発や、持続可能なビジネスモデルが重要です。
プロダクト戦略との関わり:社会的責任を果たすプロダクト戦略は、持続可能な成長を実現するだけでなく、ブランド価値の向上にもつながります。特にエシカルな消費が増加する現代では、社会的責任が企業の成長に直結します。
8. 利益(条件としての利益): 企業の存続を支える成果
利益は、すべての目標が連携し、企業活動が正しく機能している結果です。利益がなければ、社会的責任や戦略的意図を実行するリソースが得られません。
プロダクト戦略との関わり:利益は、プロダクトの成功を測る指標です。製品やサービスが市場で受け入れられ、売上が利益に結びつくプロセスが企業の持続可能性を支えます。
8つの目標の相互作用
8つの目標は相互にどう関連し合うか?
プロダクト戦略において、8つの目標は独立して存在するわけではなく、相互に影響を与え合いながら企業全体の成功を支えます。以下では、具体的な相互作用と、トレードオフの関係を探ります。
資金が他の目標を支える
資金は人的資源や物的資源に対して投資され、それによりマーケティングやイノベーションが実行されます。適切な資金配分がなければ、他の目標も達成されることはありません。
マーケティングとイノベーションは戦略の中心
マーケティングで顧客のニーズを理解し、イノベーションで新しい価値を提供する。この2つの目標は、企業戦略の中核を形成します。イノベーションなくして成長はなく、マーケティングなくして市場は存在しません。
トレードオフの発生
例えば、マーケティングとイノベーションに大きく資金を投じすぎると、生産性の確保や社会的責任が疎かになる可能性があります。各目標のバランスを取り、リソースを最適に配分することが重要です。
以上の内容を図示した物が以下の図になります。
8つの目標とミッション・ビジョン
8つの目標とミッション・ビジョンの密接なつながり
企業のミッションは、その存在意義を示し、社会や顧客にどのように貢献するかを定義します。ビジョンは、ミッションが達成された状態を描くものであり、企業の未来像を提示します。
8つの目標は、このミッションとビジョンを実現するための具体的な道具です。例えば、社会的責任は企業のミッションと直結し、マーケティングとイノベーションは、そのミッションに基づく価値提供の手段となります。
企業の社会的責任と目標達成の一致
企業は、社会に対して何を提供できるかという問いに常に向き合っています。社会的責任は、利益を追求するだけではなく、社会に価値をもたらし、環境に配慮した活動を実施することを含んでいます。
マーケティングやイノベーションは、この社会的責任を達成するための実践手段です。例えば、サステナブルなプロダクト開発を通じて、企業は環境問題に取り組み、顧客の信頼を獲得します。これにより、ミッションやビジョンが社会に浸透し、企業の成長を後押しします。
以上の内容を図示した物が以下の図になります。
8つの目標と戦略的意図・プロダクトイニシアチブの関係
戦略的意図はマーケティングとイノベーションに基づく
プロダクト主導型組織において、狭義のプロダクト戦略とは、マーケティングとイノベーションに対して戦略的意図を策定することを指します。顧客のニーズに応える新しいプロダクトやサービスをどう生み出し、どう市場に届けるかが、戦略的意図の核心です。
一方、広義のプロダクト戦略とは、8つの目標全体に対して策定されるべき戦略を意味します。もちろん全てではなく必要な目標のみで良いです。
これには、資金配分や人的資源の育成、社会的責任の実行も含まれます。
プロダクトイニシアチブを支える投資と生産性
プロダクトイニシアチブは、戦略的意図を実現するための具体的なアクションプランです。この実行には、人的資源や物的資源への投資が不可欠です。リソースを最適に運用し、投資効率を高めることがプロダクト戦略の成功を左右します。
特に、開発生産性はプロダクトイニシアチブの実行効率に深く関わり、組織の競争力を左右します。プロダクト開発を効率的に進めることで、限られたリソースで最大の成果を得ることが可能です。
プロダクトマネジメントの役割
プロダクトイニシアチブを実行することが、プロダクトマネジメントの日常的な役割です。このイニシアチブを通じて、プロダクトは顧客に価値(アウトカム)を提供し、それが売上や利益と交換されます。これは、メリッサ・ペリの『プロダクトマネジメント』で述べられているビルドトラップを避けるための重要な視点でもあります。
戦略的意図とプロダクトイニシアチブを絡めて、8つの目標について図示した物が以下になります。
8つの目標と、戦略的な仕事・戦術的な仕事・運営の仕事
各目標がどの「仕事」に対応するか
メリッサ・ペリは、プロダクトマネジメントの仕事を「戦略的な仕事」「戦術的な仕事」「運営の仕事」に分類し、プロダクト戦略を効果的に実行するためにそれぞれの役割を明確にすることが重要だと述べています。ドラッカーの8つの目標も、各仕事に対応させることで、組織全体の目標をより具体的に理解できます。
戦略的な仕事に対応する目標
マーケティング: 顧客ニーズの理解と価値提供の戦略を策定する活動。
イノベーション: 新たな製品・サービスを生み出し、競争優位を確立する。
社会的責任: 持続可能な成長と企業の存在意義を示す活動。
戦術的な仕事に対応する目標
戦略的なしごとで設定された方向性に基づき、マーケティングやイノベーションを実行する。
利益は、戦略的なしごとが効果的に戦術に落とし込まれ、運営が円滑に進む結果として得られる指標。
運営の仕事に対応する目標
資金: 戦略を支えるリソース管理と配分。
人的資源: 優れたチームの構築と育成。
物的資源: プロダクトを支える設備や技術の管理。
生産性: 投資効率を最大化し、成果を高めること。
各目標を適切に「戦略」「戦術」「運営」のしごとと結びつけることで、組織全体での役割分担と連携を理解しやすくなります。
まとめ
この記事では、ピーター・ドラッカーが提唱した「8つの事業目標」をプロダクト主導型組織にどのように適用し、戦略や戦術、運営と結びつけるかについて解説しました。各目標がプロダクト戦略の中でどのように機能し、組織全体が目標達成に向けてどのように連携するかを理解することは、企業の成功にとって重要です。
マーケティングとイノベーションは、プロダクト戦略の中核をなす「戦略的な仕事」として機能し、企業の成長をけん引します。基本方針として戦略的意図を持ち、具体的な行動としてプロダクトイニシアチブで表現します。
資金、人的資源、物的資源、生産性は「運営の仕事」として戦略を支えるリソース管理の役割を果たし、プロダクト戦略の実行を下支えします。
社会的責任は企業のミッションやビジョンと直結し、社会に対して価値を提供しながら持続可能な成長を目指すための長期的な戦略の一部です。
利益は、戦略と戦術が効果的に実行されたときに得られる「戦術的な仕事」の成果であり、組織が次の成長に向けて投資を行うための条件です。
このように、8つの目標は互いに独立して機能するのではなく、相互に作用しながら企業全体の活動を統合します。各目標がそれぞれの役割を果たし、戦略、戦術、運営の三層で一貫性を持って遂行されることで、プロダクト主導型組織は真に競争力を持つ組織へと成長するのです。
最終的に、企業がミッション・ビジョンを実現し、持続可能な成長を達成するためには、これらの目標を体系的に理解し、適切に運用することが不可欠です。この記事を通じて、あなたの組織がプロダクト主導型組織を目指す上での道標となれば幸いです。
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筆者が経営する株式会社マギステルでは、筆者自身が長いキャリアと豊富な知識を元に得てきたソフトウェアエンジニアリングやプロダクトマネジメントを元にした企業コンサルティングや企業顧問業を行っています。ご興味のある方は info@magister.co.jp または X(旧Twitter) の @zigorou 宛の DM 等でお問い合わせ下さい。
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