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殺されるメダカたち

東京の家でもあった。
私が生まれる前からのお隣のTさんだ。

メダカが過密飼育されていた。20リットルほどの水槽に150匹くらいか。
可哀そうだな、増えたならジモティなどに出せば、喜ぶ家族連れとか来るのにな…と思った矢先の次の日だった。突然水槽が空っぽになっていた。
驚いて訊いたら「川に逃がしてやった」という。
うちの前のあの工業用水のどぶ川ですか。野生でもない、品種改良されたメダカをどうやって「逃がした」んですか。
フェンスを乗り越えては行けないでしょ。
フェンスから投げ打ったんですか?
水にさえ到達しませんよね。ブロックの斜面にぶちまけたと言うことでしょう。
水に届いたとしても、生きられるはずがない。

とてもつらかった。

母にせよ、
団塊の世代の人間はクソだらけだと思った。

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大阪の家の隣のUさんが正月水温0度の日に
自分のメダカの水槽にいつも通り水道水をホースで勢いよくぶち込んだ。
たまたま通りかかったらその瞬間だった。
なぜそんなことをするのか訊いたら、いつもの常套句「うちのは野生だからー!」と答えた。
お隣のメダカたちは、いつも「うちのは野生だから」と言って滅茶苦茶なことをされていた。

いつも通り突然水道水をぶち込まれたメダカは、ショックで即死あるいはひん死で苦しんでいた。
Uさんは、口をパクパクさせて低床に沈んだ、まだ生きている個体たちをしり目に
「あはは、寒さで死んじゃったあ~」とUさんは笑って家に戻って行った。

屋外飼育のメダカは加温せずに氷の下だとしても冬を越せる。餌を食べず、じっと静かに春を待つ。早春、温かくなると上部に上がってくる。
しかしUさんはなぜか60センチ水槽を温度固定式の26度ヒーターで中途半端に加温していた。60リットルにはほど多い馬力なので水温は20度前後だっただろう。
そこへ0度の水道水を大量にぶち込んだ。

わたしは泣いた。泣きながら、凍るような水に手を突っ込んで、生き残りを拾い集めた。

15匹。
私の目の前でどんどん死んでいった。水カビ病にもかかっている個体が居た。
沈殿して腐ったエサの中で傷を負ったらしく、傷口から白いカビがマリモのように生えていた。

蘇生できたのは最終的には6匹前後だったか。
うちのメダカは屋外で冬眠していたが、この子たちは屋内で加温してケアすることにした。

生き残りは元気になっていって、しばらくすると卵を産んだ。
わたしは彼らには生き残った親ごとうちの子になってもらうことにして、育てた。
うちの血統と混じってしまうが、別に血統にこだわらないのでミックスでもよい。遺伝子をいじられた子たちを掛け合わせていくと、最終的には日本古来のグレイッシュな個体になるらしい。それでいい。地味なメダカも、派手に品種改良(改良って言葉がもうね、欺瞞というか人間って業が深い)されてしまった子も、どの子も可愛い。

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Uさんは全部死んだのがせいせいしたいうように、すべての用品を片づけた。もう、正直めんどくさかったのだろう。解放された様にさわやかだった。

2年が過ぎた。
Uさんの家の外に放置されている雨水のたまったゴミバケツの中に末裔が1匹居た。
おそらく水草などに卵が付着していて、まさに野生のように餌も無く苔を食べ、生きている孤高の一匹だった。すべてが混ざったような、凝縮したような、まるで鯉のような体表の色柄で、ラメも入っていた不思議な子だった。わたしは手をくわえず、餌をやることも無くその子をひそかに眺めていた。

縁の欠けたポリバケツは45リットルだろう。雨水がたまった水量は38リットルくらいか。
下にアナカリスが積み重なっているが、たぶんアナカリスも生きている。スネールが大量発生していた。うちにはスネールは居ないので久しぶりに見た。
私の組み入れているラムズホーンも、まあ、見た目がちょっと綺麗なだけで実際スネールのようなものだから、
ポリバケツでうまく生態系が出来てるんだろう。
アンモニアから硝酸塩、植物が取り込み脱窒。雨水による自然の換水。
落ち葉の間から見える水は、少なくとも上部は透明で綺麗だった。

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その子は、ある日、Uさんに見つかった。
またおもちゃにされ始めた。
ああ、まただ、と思った。

一番安い餌を大量に袋ごと入れる勢いでぶち込んでいた。
このエサはカロリーが低くて無駄に繁殖しないので良いかと思い私も試したことがあるが、粒が大きく食べられない上に、砕いても不味いらしく吐き出す個体が多く、ただ沈殿して水質を汚していったのでメダカには良くなかった。
わたしは今は貝類の養殖に使っている。

またそれを買ってきて大量投入して、前と同じように腐った沈殿物が出来始めた。
わたしは耐えられず夜中にこっそり掃除をして水替えをしていた。

Uさんは久しぶりのメダカが嬉しかったらしい。
赤い子を5匹ほどホムセンで買ってきた。
「仲間が居なくて寂しいだろうから」と袋から直接水ごとドボンとぶち込んだ。
「水合わせはしないんですか」と訊いたら
「うちのは野生だから~」とのこと。

5月なので水温はそれほど差が無かったのが幸いして、5匹は生きていた。
元の住人は5匹の赤い子たちと毛色が違う。当然のようにいじめられ、底の方にじっとしているのが垣間見えた。
おそらく今も生きているが、もう、あの子は上に登ってこなくなった。
水は黒く濁ってきた。
いつも腐ったエサが大量に浮いていて、その上から次の日には新しい餌がぶちまけられていた。

前と同じだ。

もうわたしは保護しない。出来ない。保護したらまた買ってくる。
Uさんはお金持ちだ。水替えしないで済むための銀だとか、設備投資にはお金をかけていた。

いずれこの子たちも飽きられて殺されるんだろう。

人間はどうしようもない。
せめて買わないで、ペット業界という流通を変えることはできないのか。
買うから、需要があるから、ペットが作られる。
殺されるための命が作られる。

わたしは人間というのはどこまで行っても
自分のことしか考えることができない、しかも偽善者で、
業が深い生き物だと思う。

写真はアナカリスの花。今年もたくさん咲いています。
水槽の水面から頭を出して1日限り。
次の日は萎んでしまって、
次の花たちが
次々バトンタッチで咲いています。

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